「本当に異常事態だと思う」。12日、日本医師会と6つの病院団体が訴えたのは、医療機関の経営難。今の物価高は病院にも影響し、医薬品の高騰に加え、ガーゼ、包帯などの診療材料費、病院食の外部委託費、人件費、光熱費などあらゆるコストが上昇し、経営を圧迫しているという。
【映像】病院の収入・支出の構造
この日発表された調査結果によると、約1700の病院のうち、2024年6月から11月までで、経常利益が赤字になったのは6割以上。2023年と比べ、10.4ポイントも増加している。そこで今回、国に対して物価や賃金の上昇に適切に対応した診療報酬の仕組みづくりを求めた。
しかし来年度予算案をめぐっては、自民党・公明党・日本維新の会の協議で、現役世代の社会保険料の負担軽減のため、維新が主張した国民医療費の4兆円削減を念頭におくと明記し、3党合意したばかり。
この状況で診療報酬を上げることはあり得るのか。病院の危機と存続について、『ABEMA Prime』で議論した。
医師で日本医療法人協会の太田圭洋副会長は、「経営状況が悪いのは、診療所やクリニックではなく、入院患者を診たり手術をしたりする『病院』だ」とした上で、「昔からかなり悪かったが、経年的に進んでいる。2024年6月に診療報酬改訂が行われたが、その結果を受けてもだ。公立病院はほぼずっとマイナスで、補助金を入れるなどして地域の入院医療を支えてきたが、我々民間病院は資金繰りがつかなくなった段階で破綻。自治体病院も支えられなくなっている所が出始めている。稼働率が低いために経営状況が悪いのは当たり前だが、努力している病院でも成り立たなくなっている」と危機感をあらわにする。
医師会・6病院会が合同声明として国に要望したのは、「補助金による機動的な対応」「診療報酬の期中改定の必要性」、令和8年度診療報酬改定に向けた「『高齢化の伸びの範囲内に抑制』という社会保障予算の目安対応の廃止」「賃金・物価上昇に応じて適切に対応できる新たな診療報酬等の仕組み導入」だ。
太田氏は「診療報酬改訂は2年に1回あるが、臨時改訂をしていただけないかというのがまず一つ。これまで医療提供コスト、経費上昇分をあまり見ないかたちで改訂が行われてきた。物価が上がっていく局面に日本経済は入っている中で、しっかりそれらを見ていただける制度にしてほしい。診療報酬、医療費は社会保障の一部で、圧縮していかなくてはいけないという財政的な制約が優先されてきた歴史があるが、それを外してほしいと強く要望している」と述べた。
こうした状況に、日本維新の会 厚労部会長の阿部圭史衆議院議員は「医療機関の存続、持続可能性という観点からすると心配。ただ、医療改革を進めていく過程で、患者の権利をどうするかなど保険財政との兼ね合いもある。どうバランスをとっていくかは非常に重要だ」との見方を示す。
そんな中での、「医療費4兆円削減」の3党合意。合意事項は、現役世代の保険料負担含む国民負担の軽減。3党の協議体を設置し、「OTC類似薬の保険給付のあり方見直し」「現役世代に負担が偏りがちな構造見直しによる応能負担徹底」「医療介護産業の成長産業化」などを検討するという。維新の改革案などを念頭に、医療費総額を年間4兆円削減し、現役世代の負担を年間6万円引き下げるとしている。
阿部氏は「私も医者をやっていたので、どう医療政策を作っていくかを考えるし、やはり存続してもらわなくてはいけない。ただ、国民負担率が5割近いという状況がある中で、医療機関や患者の状況もわかりながらも、生活が厳しい現役世代の視点に立ってやってみようじゃないか、というスタンスで我々は提言している」と意図を説明。
3党合意の内容に太田氏は「『4兆円』を認めているわけではないが、阿部先生には感謝している」と意外な答えを返す。「ほとんどの国民は“どうやって医療を支えていくか”を真剣に考えたことはなかっただろう。お年寄りは増え、医療に必要なお金もどんどん増えていくのに、現役世代はどんどん減っていく。どこまで切り詰めるか、負担を増やしてでも支えるのか、といったことを真剣に議論しなければいけない段階に来ている。4兆円を減らされたら僕らは生きていけないだろうが、国民が真剣に向き合ってくれれば、そんな簡単に医療費や社会保険料を減らせないこともわかっていただけると思う。例えば、高額療養費の問題で国会が紛糾し、上限引き上げが見送られたが、“それはできないだろう”ということで止まった。個別にいろいろやっていくと、“それもこれも厳しい”ということがわかってくると思う」。
阿部氏は「高額療養制度の話は最後に手をつけるべきところだったのに、順番を間違えてこれだけ炎上した。我々も4兆円と言い、基本的にはそこを目標としているが、どこから適正化できるかなどは、内部でもちろん議論している」とし、「社会保障は一つひとつの積み上げ。お金の多寡によって受けられる医療に差がつき始めるという、非常に重要な議論をしなければいけないタイミングだ。日本は国民皆保険という理念の下、必要な医療が届くように頑張って支えてきたが、人口動態が変わって厳しくなってきているのも事実。どういう医療をこれから我々は支えていくのか、命をどう考えるのか。これは政治家が考えなければいけない仕事だ」と述べた。
経営難にある病院は、統廃合が現実的なのか。太田氏は「一定程度そうなることは間違いないと思う。国は2040年を目標に医療体制の改革を進めようといろいろな取り組みをしているが、今のペースで経営悪化が進むと、その前に病院がなくなってしまうかもしれない。また、医療へのアクセス問題もある。自分の町から病院がなくなって、隣の市まで行く必要が出てきた時に、その市の住民や首長などがどう考えるかという部分もある」との見方を示す。
さらに、「『来年、資金ショートを起こす』と言っている病院もあり、どこかが破綻して社会問題になるという事例が出てくると思う。いろいろなことがこれから起こり、国民は医療をどうやって支えていくのか、諦めるのかを否応なく考えることになると思う。本当に真剣な議論をお願いしたい」と訴えた。
阿部氏も「キーワードは『再編』だと思っている」と指摘。「過疎化が進んで患者が来ない地域は統合していかなければならない、といった議論は避けられないと思う。病院の再編と、医者や看護師など医療従事者の職能の再編、製薬メーカーなど業界の再編。また、今までは保険財政の中だけで黒字か赤字かの商売をしてきたが、その外で稼いでいくといったような、お金の再編。それらが今後のキーになっていくのではないか」とする。
その上で、「医療改革の議論は非常に難しくて、ミクロとマクロでは景色が全然変わってくる。マクロの議論をしている時には“やはりなんとかやらなければいけない”となるが、ミクロの話だと“隣町のクリニックにかかれなくなると不便で困る”といった話になる。そこの乖離が非常に大きいので、政治家のコミュニケーションで埋めていかなければならない」と示した。(『ABEMA Prime』より)