SNSが選挙のあり方を変えるほど影響力を増すなか、“ネット選挙の旗手”とされる斎藤元彦・兵庫県知事、東京都知事選で旋風を起こした石丸伸二・前安芸高田市長が相次いで選挙違反疑惑で告発されている。そこにもう一人、高級別荘地である長野県軽井沢町の“名物町長”が加わった。
【写真】斎藤元彦知事とPR会社「merchu」社長・折田楓氏のツーショット。慶應SFC時代の折田氏のギャル写真なども
現軽井沢町長・土屋三千夫氏は外資系企業の経営者から2023年1月の町長選に出馬。前町長が進めた100億円の新庁舎建設計画の批判などでネット選挙を展開し、当選した。就任後は庁舎建設計画を見直し、観光客のため日本型ライドシェアを導入。申請書や届出の性別記載欄を廃止するなど改革派として知られる。
その町長が、公選法違反疑惑で町民から告発されていたことが分かった。
2024年12月に長野地検に提出された告発状によると、土屋氏は選挙後に提出した「選挙運動費用収支報告書」で、デジタルマーケティング事業を営むA氏へ「SNS」代として38万5000円を支出。A氏は土屋氏の当選後、Facebookに〈土屋さんも後援会さんもこれから大変ですが頑張ってください お手伝いできてよかったです〉と書き込んでいる。告発者の町民は「土屋氏の行政手腕に疑問を抱き、調べるなかで報告書の記載を発見した」と話す。
旧安倍派裏金問題など「政治とカネ」を監視してきた上脇博之・神戸学院大学教授が指摘する。
「選挙に関して選挙人や運動者に金銭を支払ったら、買収になります。A氏が『お手伝いできてよかった』と書き込んでいるということは、選挙の運動員である可能性がある。その運動員に報酬を出せば、買収の疑いがあると言える。軽井沢町長はA氏に具体的にどんな依頼や指示をし、A氏はどう行動したのか説明する責任があるでしょう」
A氏に取材すると、「僕は選挙期間中に何もやってない。話せることはない。土屋さんに聞いてくれ」の一点張り。
そこで土屋町長を直撃したところ、「(A氏には)SNSやYouTubeを具体的にどう使ったらいいか教わりました。運用はボランティアと我々だけでやりました。自分たちで動画も撮りましたし」と回答した。
斎藤知事とPR会社の選挙違反疑惑では、PR会社への支払いが広報戦略などの選挙運動への報酬なのか、ポスター制作など成果物の対価なのかが争点のひとつだが、「SNSをどう使うか教わった」のであれば、選挙支援の対価ではないのか。
事務所を通じて土屋氏へさらに、「SNS」代の詳細、A氏との契約書などにおける費目を尋ねると「事前に総務省の担当部署に問い合わせ、問題ないことを確認しています。契約書や関連資料については提出は致しません」とした。
告発状で指摘された問題はほかにもある。前述の選挙運動費用収支報告書によると、土屋氏は町長選の際、政治団体「土屋みちお後援会」から150万円の資金提供を受けたが、「土屋みちお後援会」の2023年分の政治資金収支報告を見ると、資金提供が行なわれた時、同後援会に残額は98万2700円しかなかった。150万円を寄付できるはずがない。
「保有している資金以上の支出があるということは、差額分は“裏金”としか言いようがない。仮に誰かが立て替えたとしても、その事実を政治資金収支報告書に記載してなければ不記載であり、裏金に変わりはありません」(上脇氏)
これについて土屋町長は文書回答で、「ベテランに任せていたが、ご指摘の数字が合わない点は確認しています。入金の記載漏れがないか改めて確認をしてもらっています。その結果漏れがあれば速やかに適切な処理を行います。任せていたとは言え、基本的な書類で正確でないものを提出したのは申し訳ないと思っています。他方、現時点で裏金のような書き方は一方的と思われます」と説明した。
町民の告発に当局がどう動くか、注目が集まる。
※週刊ポスト2025年2月28日・3月7日号