どうしてこうも斎藤元彦兵庫県知事(47)の周囲はトラブルだらけなのか。
公職選挙法違反の疑いで斎藤氏と彼を支援していたPR会社社長の折田楓氏(33)に対する告発状が神戸地検と兵庫県警に提出されたのに続き、今度は“斎藤氏にはもう一社、PR会社がついていた”という疑惑が浮上している。
告示前の10月1日、斎藤氏はJR甲子園駅前で街頭演説を行った。その際、100歳の女性が斎藤氏に百寿記念の賞状を渡しに現れた。
地元のテレビ局はこれを“奇跡の瞬間”として報じたのだが、SNS上で“テレビ局の撮影スタッフが事前にスタンバイしていた”とされる映像や写真が流出。この時、斎藤氏の隣に佇(たたず)んでいたのが折田氏とは別のPR会社の人間だったことが発覚。ヤラセを疑う声が一気に噴出したのである。
件(くだん)の隣にいた人物というのは、PR会社アルティマの社長・川眞田弘治氏。SNS上では「川眞田氏がおばあさんを雇ったのでは」「川眞田氏も選挙コンサルをしたのか」「川眞田氏が黒幕なのか」と斎藤氏との関係を疑問視する声があがっているが、真実はどうなのか。
川眞田氏のFBを見ると、複数の兵庫県市議会議員と繋がっており、少林寺拳法兵庫県連盟の役員をやっていることが判明した。斎藤氏とは昵懇の仲なのか、選挙応援をしていたのかーー渦中の川眞田氏を直撃した。
「コンサル契約も選挙の支援もしていません。弊社はコンサル会社ですが、経営コンサルであって選挙コンサルをしたことはありません。
斎藤さんは友人です。今回の件(パワハラ疑惑、不信任決議など)で彼の周りから誰もいなくなりました。彼にも悪いところはありますが、メディアの報道には嘘も混じっていました。だから私は友人であり続けました。
選挙期間中、『ヒゲは剃ったほうがいい』『もっと明るくしたほうがいい』と友人としてアドバイスはしましたが、もちろん金銭は発生していません」
――斎藤氏とはどういうキッカケで友人に?
「斎藤さんとは’18年、彼がまだ公務員(大阪府財務部財政課長)だったころに知り合いました。初めて選挙に出馬するということで、ある方から紹介されました。その時もコンサル契約は結んでいません」
――100歳の女性と斎藤氏の映像はヤラセなのか。
「当時(10月1日)はまだ、斎藤さんの味方がほとんどいない時期でした。彼が襲撃されたり、暗殺されたりするのではないかと心配になり、街頭演説について行きました。
すると、あのおばあさんの娘さんが僕に『お母さんが斎藤さんに会いたがっている』と話しかけてきたのです。たまたまその場にテレビ局の方がいて、あの場面が撮影された、というわけです。けっしてヤラセではありません。現場にメディアが数社いて、一連のやり取りを目撃していますから」
川眞田氏は当該映像、写真を拡散させた人物こそが「黒幕」だと反論した。
「ある自民党県議会議員の娘さんが意図的に曝(さら)したことを確認しています。既得権益を守りたいのでしょう」
――折田氏はなぜメディアの前に姿を現さないのか。
「(再選後の)斎藤さんの記者会見もそうでしたが、記者たちにはマナーがなく”メディアによるパワハラ”が行われる可能性があるからです。まだ30代の女性(折田さん)がそんな場にいられるのか? 甚だ疑問です。
選挙ボランティアから聞いた話になりますが、折田さんはSNS戦略を提案はしましたが、斎藤さんは依頼しなかったのだとか。これは私の推測ですが、折田さんは自分の仕事に結びつけたくて話を“盛った”のではないでしょうか」
――斎藤氏のパワハラ疑惑に関してどう考えているか。
「メディアにもSNSにも問題があると思いますが、今回の件では偽情報が流布しました。ちゃんと取材できるメディアが少ない。サラリーマン記者ばかりです。私のような私人の顔と住所が『黒幕』としてネットに曝されているのが、(嘘情報が流布しているという)典型例です。
(パワハラ疑惑に関して)斎藤さんが知事在任中の3年間でやったことといえば、机を叩いたことと、付箋を投げたことの二つだけ。しかも、付箋は人に向けて投げたわけではありません」
――車両進入禁止区域で20メートル先に車を停めた職員に怒鳴り散らしたことに関しては、斎藤氏も認めているが。
「当初、その職員はパワハラとは捉えてなかったといいます」
ところがこの職員は百条委員会が行った8月30日の証人尋問で「理不尽な叱咤を受けたと感じている」と述べている。認識が変わったのかもしれないが、双方の主張には食い違いがあるのだ。
一方、兵庫県議会の関係者は「川眞田氏は斎藤氏の選挙に関わっていた」と言うのだった。きさらぎ法律事務所の福本悟弁護士が解説する。
「公職の選挙の候補者になろうとする者に有償で何らかのコンサルなどした場合は、公職選挙法221条の買収になります。ボランティアであっても、選挙期間中に同行して人と人を繋げるなど、その行動の内容がコンサル会社のノウハウを駆使したようなものが多く含まれていたとすれば、候補者に対する寄付とみなされる可能性があります。ボランティアとは無償の労務提供ですから。
会社経営者が、個人的にボランティアに徹底できるものかという疑問が生じます。法人は、候補者個人に対して寄附行為はできませんので、この観点から政治資金規正法第21条1項の問題が出てきます」
福本弁護士は件(くだん)の100歳のおばあさんとの出会いを報じたテレビ局も「放送法違反にあたる可能性がある」と指摘した。
「斎藤氏の演説を報道する目的で当該場面を放映したとのことですが、放送事業者が不偏不党で政治的に公平で、事実を曲げてはならないことは放送法の根幹ですから。
候補者の一人にすぎない斎藤氏の演説を報道する目的で居合わせたテレビ局が、おばあさんとの場面を報じる必要があったのか。報道は公共の福祉に適合しなければなりませんから、それがはたして公平な報道の仕方だったかどうかは、ヤラセ疑惑が出ているように、議論されるべきことでしょう」
次々と浮上する疑惑、食い違う主張――真実が明らかになることを切に願う。
取材・文:深月ユリア