衆院選で大敗を喫した自民党。今後、党が抱える課題とは? 自民党本部で長く選挙対策を担当し「選挙の神様」とも呼ばれる久米晃氏、長年永田町を取材してきた朝日新聞編集委員の曽我豪氏、政治学者で中央大学法学部教授の中北浩爾氏が語り合った。
【画像】選挙結果を見つめる石破首相
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中北 今後は野党とのパイプ役を担える人材の存在感が高まるでしょうね。対維新であれば菅元首相ですし、国民民主に対しては、麻生太郎元首相かもしれません。
久米 ただ、麻生さんも84歳。今回も出馬するかギリギリの判断だったと思います。総裁選では高市早苗さんを支持し、衆院選では側近の松本純さんが落選。影響力に陰りが見られるのも確かです。
麻生太郎氏 文藝春秋
中北 今後は石破カラーの政策にも力を入れていきたいはずですが、具体的には、防災庁創設や地方創生のための交付金倍増、最低賃金を2020年代に1500円に引き上げることくらいです。交付金倍増や最低賃金アップは実現できると思いますが、防災庁は在任中に目処が立てば御の字でしょう。
曽我 防災庁にしろ肝煎りだった日米地位協定の見直しにしろ、安定政権を前提とした政策です。ところが今は目の前の火の粉を振り払うことに政治的なエネルギーを使わざるを得ない。手が回らないでしょう。

久米 さしあたっての焦点は政治改革法案です。野党はハードルを高く設定するでしょうし、石破さんが野党案に歩み寄って法案を通さない限り、他の政策に着手できません。
中北 選択的夫婦別姓とともに自民にとっての高いハードルは、企業団体献金の禁止です。ほとんどの野党は賛成ですが、飲めるかどうか。
久米 ただ、企業団体献金が無ければ自民党は立ち行かなくなるでしょうね。例えば、地方では選挙区内に複数の事務所を構え、多くの秘書を雇っています。事務所費は1軒につき月額100万円ほどでトータルで年間数千万円かかることもざらにあります。政党交付金ではとても賄いきれない金額ですよ。

中北 企業団体献金にはパーティ券も含まれますから、認められるのは個人献金のみ。寄付額は相当減り、自民党の組織が根底から揺らぎます。しかも、企業団体献金の禁止は公明党が賛成する可能性もある。自公の連立にひびが入りかねません。
曽我 落とし所として「何年以内に実現」と経過措置を施す手もありますが、問題は党内手続きです。首相の責任追及が続くなか、最高意思決定機関の総務会で「絶対に認めない」との声が上がってもおかしくない。政党間交渉は自分の党を制御できなければ始まりません。
中北 一方で、立憲にとっても難しい局面です。1989年の参院選では、社会党の土井たか子委員長によるマドンナ旋風が起こり、自民党は33議席減という歴史的大敗を喫しました。就任したばかりの宇野宗佑首相は直ちに辞任を表明。土井さんは「山が動いた」との名言も残しました。しかし結局、自民が公明と民社党を抱き込んだことで、社会党は政権を獲れず、勢いは萎んでいった。立憲としては上手く立ち回らないと同じ轍を踏む可能性がある。
曽我 社会党は民社・公明などと選挙後に消費税廃止法案を参院で出しましたが、法案の不備が次々と見つかって成立しなかった。それが引き金となって、民社・公明と社会・共産が分裂。自民と同様に立憲も危うい分岐点に立っています。
中北 それこそ、福田康夫政権の2007年に持ち上がった、自民と民主の大連立構想が想起されるような局面でもあります。様々なオプションを想定する必要があるでしょう。
曽我 来夏に参院選が控えている状況なので、可能性は高くありませんが、石破さんと野田さんに一定の信頼関係があるのは確かですし、福田内閣の時に大連立を構想した小沢一郎氏が野田さんの後ろにいることも影響を与えるかもしれません。
久米 私は、大連立は無いと思います。立憲内部でも右と左に分かれていて、まとまらないでしょう。
中北 ただ、政局が不安定になって、国民生活にまで影響が出てくれば、時限的に「次の参院選まで」という声は出てくるかもしれない。あるいは、参院選後の自民の議席次第ではあり得るかもしれません。

本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「自民党崩壊」)。

全文では、衆院選の事前予測と結果の差、「2000万円問題」やブレーン不在をはじめとした自民党の敗北原因、公明党や野党との今後の関係、1993年の自民党の敗北から得られる教訓などについて語られています。s
(久米 晃,曽我 豪,中北 浩爾/文藝春秋 2024年12月号)