兵庫県の斎藤元彦知事が再選された出直し知事選で、公職選挙法違反の買収とされる有償でのSNS選挙広報を担ったとPR会社社長が“告白”した問題で、斎藤氏側が「ボランティアでやってもらっただけ」との主張を強めている。タダ働きを受け入れた、との構図になれば、PR会社社長だけが自社社員を選挙に動員したとして「運動員買収」に問われる可能性もある。果たして社長はこのまま黙っているのか――。
〈画像あり〉180万のバーキンを持ち「私のもとへ来てくれました」…“お嬢”と呼ばれていた折田氏、選挙カーの上に乗る姿も…
一連の問題は、兵庫県西宮市のPR会社「merchu」の代表取締役・折田楓氏(33)が知事選3日後の11月20日にnoteを公開したことで始まった。
折田氏はnoteで、自分が斎藤陣営の4つのSNS公式アカウントの管理、監修を含む広報の「運用戦略立案」を行なったと表明。
「そのような仕事を兵庫県にある会社が手掛けたということもアピールしておきたい」とも書き、ボランティアではなくプロとして請け負った業務だったという趣旨の説明をしている。
公選法ではネットの選挙運動が有償で行われれば買収となり、候補者本人や陣営幹部が買収をしたと認められれば当選は無効になる。
折田氏は、今回の“仕事”が違法だとの認識がないまま、社業をアピールする目的でnoteを書いたのではないかと指摘されている。
在阪の記者はこう話す。
「選挙前の9月29日に斎藤氏本人は選挙参謀を伴ってmerchuを訪問しています。その場で折田氏から『SNSの利用』を含む斎藤氏の選挙に協力できることについて説明を受けたことは斎藤氏の代理人・奥見司弁護士が11月27日の会見で認めました。折田氏のnoteにその時の写真が掲載されていたためでしょう。
この状況でもし折田氏が買収された構図で立件されれば、斎藤氏は買収者とみなされ、当選無効の可能性が出てきます。
斎藤陣営は『ポスターデザイン制作』などの名目で計71万5000円をmerchuに支払ったとしています。この金が少しでもSNS広報の対価であればアウトです。なので、斎藤氏は『折田氏やmerchuは選挙に協力したが、ポスター制作など有償でも法に触れないものは有償で行い、SNS関連はボランティアだった』と主張しているのです」(在阪記者)
SNSを駆使したPRという、会社の“本業”だけは無償で自発的にやってもらった、と斎藤氏側は言っているわけだ。
そこで強調するのは「認識の齟齬」という概念だ。会見で奥見弁護士はこう述べた。
「(折田氏の)noteの書きぶりを見ると、あたかも仕事として請け負ったように書いておりますけども、斎藤氏または斎藤陣営からしたら、折田氏の個人の活動については依頼したりやってもらったという認識はございません。あくまで個人として動いていただいたと認識しております。そこで認識の違いはございます」
相手は仕事と思っていたかもしれないが、頼んだわけでなく、勝手にやってただけだ、との主張である。
「merchuは広島県などからもPR事業を請け負ってきた会社です。社長の折田氏は選挙期間中YouTubeで『人生過去一忙しい』『(知事選で)広報全般を任せていただいておりまして』と発言しています。これほどの労務の提供が全部タダだった、というのはかなり苦しい気がしますね」
そう話す地元記者は「でも、よく考えたら斎藤氏が前期に知事を失職した遠因には、視察先での過剰な“おねだり”が問題化したこともあったくらいですからね」と続ける。
その言葉通り、県議会の調査特別委員会(百条委)が7、8月に行った県職員のアンケートでは、斎藤氏が視察時、業者や生産者組合が用意した特産品を同行者の分まで持ち帰ったとする証言が多く寄せられた。(“おねだり疑惑”について斎藤氏は否定)。
一方、知事選中は斎藤氏フィーバーともいえる人気の中で、おねだりではなくプレゼントを巡って騒ぎも起きていた。陣営関係者が話す。
「投票2日前の11月15日は斎藤さんの47歳の誕生日で、前日くらいから女性を中心に花やプレゼントの攻勢がすごくなったんです。
誕生日当日の夜は姫路での演説でしたが、規模が千人を超えるほど大きくなり、有権者の輪に入って握手をして回る斎藤さんにも次々とプレゼントが押し寄せました。
その時、選挙カーから女性運動員がマイクで『法律の関係もあるのでプレゼントは控えてくださるようお願いします』と呼び掛けたんですね。それを聞くなり、車のそばにいた別の運動員の男性が『よけいなこと言うな』と車内に向かって怒鳴って、女性運動員を黙らせちゃったんです。
怒鳴り声は響き渡って、私も含め車の周囲にいた者はドン引きでした。「スタッフの多くは選挙未経験の“素人集団”なので“『もらえるものはもらっとけ』っていう感覚もあったんでしょう」(陣営関係者)
候補者へのプレゼントは選管に届けるなどすればほとんどのものは認められる。
ただ、別の陣営関係者は「選挙ではその前から、手紙に始まりいろんな贈り物が斎藤さんに渡されていました。ありがたいんですけれど、安全面もあるし、原則的にはお断りしようと事務所内で話が回っていました。姫路での演説会は暗かった上に逮捕者も出るなど混乱したので、事前の申し合わせ通り贈り物は辞退すると呼びかけただけ。なんで怒鳴る必要があったんですかね」と指摘する。
県議会の不信任決議を受けて失職した斎藤氏の選挙運動は当初、斎藤氏の中高時代の同級生らが手弁当で駆け付けて手伝っていた。(♯11)
こうした環境もあり、SNS広報も当然全部無償提供だった、との主張を斎藤氏側は貫く方針とみられる。だがそうなると、折田氏は一人で罪をかぶりかねない状況になる。
斎藤陣営のSNSには、merchu社員と思しき数人が斎藤氏と演説会場で撮った記念写真がたびたびアップされているほか、SNS発信作業にも社員が関わっていたとみられる。折田氏自身、SNSを含む広報の運用全般を「信頼できる少数精鋭のチームで協力しながら行なった』と書いているのだ。
「この社員の扱いが問題になってきます。SNS広報が無償で行われたことになり、なおかつこの作業に関わった社員に選挙期間中給与が支払われていた場合、雇用主の折田氏は、公選法の『運動員買収』に当たる可能性が出てきます」(社会部デスク)
noteの内容が買収の“自白”だとの声が沸き上がると、内容は削除・改変されたが、当初の記述内容についての説明を求める声には折田氏は沈黙したままた。
斎藤氏の代理人の奥見弁護士は11月27日の会見で「今後の展開によれば(折田氏による)名誉毀損等の問題はあるのかもしれません」と発言。noteの記載内容は虚偽で、SNS広報は無償で行なったと表明しなければ折田氏を訴えることも考えると圧力をかけた。
斎藤氏当選の大きな力となったSNS広報は仕事だったのか奉仕だったのか。折田氏の説明を望む声は日増しに高まっている。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班