従業員を東京都・板橋区内の踏切で自殺するよう強要したとして塗装会社社長ら4人が殺人容疑で逮捕された事件。加害者、被害者双方を知る同業者として事件前、警視庁から2度事情聴取を受けた塗装会社「北山塗装店」社長の北山正幸氏が、亡くなった高野修さん(当時56)の生前の様子を語る。(前後編の後編)
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【写真31枚】監督とキャッチャー。逮捕5カ月前の週末、地域の草野球大会に参加していた佐々木容疑者と岩出容疑者
「高野さんのことは15年くらい前から知っています。報道では北海道から出てきたと伝えられていますが、そこまでは記憶にありません。ただ東京で20年くらい一人親方みたいに転々としていたんじゃないでしょうか。私のところで働くようになったのは10年ちょっと前でそれから2年くらい在籍していました」(北山氏、以下同)
背丈は160センチちょっとくらいの小柄で、年齢より老けた印象のある人だったという。
「初めて会った時は40歳過ぎたくらい。けれど60くらいに見えました。髭を生やしていたのでそれも影響したのかもしれません」
働き方にはムラがあったと振り返る。
「私のところにいた最後の頃、ある現場を『自分に全部やらせてくれ』と言い出したので任せたことがあるんですが、なかなか終わらなくて…」
赤字になってしまったばかりか、途中で仕事を放り出して現場に来なくなってしまったという。
「結局、それが原因で話し合いをした上で辞めてもらうことになったんです」
高野さんに盗癖があったことと一部で報道されているが「そういう噂があったのは事実」と語る。
「ウチにいた時も2回くらい高野さんがいた現場で職人の財布がなくなる騒動が起きました。高野さんがやったとハッキリしたわけではないんですが、周囲は『高野さんが怪しい』と言う。以前から業界では高野さんのいる現場でよく金品がなくなる話はあったのです」
ただ「決して悪い人ではなかった」とも強調する。
「熟練工だったし、やる時はちゃんと働いてくれた。手癖が悪いと言うのは病気でしょう。それで困ったと言うならばクビにすればいいだけの話。よってたかって20歳も年長の人をいじめるなんてありえない」
北山氏の会社を高野さんが辞めた後、佐々木容疑者から「高野さんはうちで働くことになりました」と連絡を受けたという。
「佐々木君にはこれまでにウチで起きた話を打ち明けて『本当に大丈夫なの?』と確認しました。彼は『全然大丈夫ですよ』と答えていました。つまり、彼らは高野さんの問題点を把握した上で雇っていたのです」
いくら高野さんに問題があったとしても、日常的にあったとされるプロレス技、熱湯をかけるなどの陰惨ないじめ、その末に起きた事件について「もし報道されていることが事実だとすれば、人間のやることではない」と憤る。
業界には高野さんのように失敗を繰り返しながら出たり入ったりする人間が少なくないという。
「正直、流れ者みたいな人も入ってきます。彼らのようにモンモンを背負っている人も珍しくはありません。そうしたワケありの人たちも含めて、支え合って我々の業界はここまでやってきたのです。昔はヤクザが取り仕切っていた業界ですが、時代とともにクリーンに変わってきています。彼らのせいで塗装屋に悪いイメージがついてしまったことが残念でなりません。私たちの仕事は化粧屋ともいいますが、プロの職人として綺麗に仕事を仕上げてお客さんを笑顔にする、素晴らしい仕事なんです」
そして、一番の責任は社長だった佐々木容疑者にあると話す。
「若くして独立して調子に乗っていたのではないか」
思い起こすのはお酒が好きだった高野さんが忘年会の時に見せていた笑顔だという。
「大勢職人さんがいる中だったので、何を話していたのかまで思い出せないのですが、楽しそうにグラスを傾けていました。不器用ながらも懸命に頑張って生きてこられたのだと思います」
佐々木学容疑者(39)ら加害者側の人物像、評判、逮捕前の様子については、前編【板橋・踏切自殺強要事件“加害者グループと被害者を知る”塗装会社社長が独占告白「逮捕3カ月前、逮捕された社長は電話で『大丈夫です』と言っていました」】で詳しく報じている。
デイリー新潮編集部