危機一髪の救出劇が5月、和歌山県岩出市であった。
JR和歌山線の踏切で、ひき逃げ事件に遭い、線路上に倒れ込んでいた男性(74)を発見した同市の会社員松見卓哉さん(43)は、とっさに男性を移動させた。わずか約4秒後、電車が線路上を通過。男性は九死に一生を得た。(佐武建哉)
岩出署などによると、5月29日午後7時50分頃、JR和歌山線岡田第2踏切を歩いていた男性が軽乗用車にはねられた。車は逃走した。乗用車で勤務先から帰宅中の松見さんは警報機が鳴り、遮断機が下りたため、停止した。
男性は負傷しているように見えた。松見さんは車を飛び出した。電車がまだ来ていないことを確認し、近づくと、男性の脚が線路上にあることがわかった。男性は自力で動くことが困難なのは明らかだった。
「このままでは、男性の脚が電車にひかれてしまう。そうしたら大変だ」。直感的に思った。時間的に余裕はなかったが、なぜか落ち着いていた。男性の脚が電車にひかれないよう動かし、体勢を変えた。
電車が警笛を鳴らしながら近づいてくる。松見さんは踏切から退避しきれず、線路脇に逃げた。その時、電車が通り過ぎた。まさに間一髪だった。
男性は脳挫傷や右脚骨折などで重傷を負ったが、回復に向かっているという。
ひき逃げ事件を巡っては、同署は近くに住む男を自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致傷)などの疑いで逮捕した。松見さんの証言などもあり、早期の逮捕につながったという。
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県警は、松見さんの勇気ある行動をたたえるため、野本靖之本部長名の感謝状を贈ることを決めた。
同署で6月25日、伝達式があり、赤井啓修署長は「自分の安全を確保し、勇気ある行動で人命を助けた。大変感謝している」とたたえた。
松見さんは「一大事だと思い、自然と体が動いた。男性の二次被害を防ぐことができて、本当に良かった」。石油精製会社の工場で安全管理を担当しているといい、「普段から安全確保について、意識していることが行動につながったかもしれない。今回の経験を社内などで共有し、従業員の安全に関する意識を高めたい」と語った。