東京のマンション価格の高騰が止まらない。
不動産経済研究所によると、昨年販売された東京23区の新築マンションの1戸あたり平均価格は1億1483万円と初めて1億円を超えた。10年前からほぼ倍増しており、都民にとってマイホームの夢は遠のくばかりだ。

港区の賃貸マンションに住む会社員の近藤優生さん(32)は、不動産屋の前を通ると必ず新築マンションの物件情報を確認する。そして決まってため息をつく。「この価格じゃあ、手が出ないな……」
妻・愛佳さん(32)と結婚した4年前から、マンションを購入しようと、モデルルームにも足を運ぶ。「東京五輪・パラリンピックが終われば、価格が下がるかもしれない」と信じて待ったが、手頃の物件は見つからない。
都心で働く2人にとって、住まいの立地は譲れないポイントだ。会社に近くて通いやすく、最寄り駅から徒歩5分以内がいい。いずれ子供も欲しいから、間取りは2LDK以上。そんな条件に合う新築マンションを調べると、1億円を超える「億ション」しかなかった。「価格が高止まりするなら、地方に移住することも考えないといけない」。近藤さんはそう考え始めている。

価格高騰の背景には、建設コストの上昇がある。
日本建設業連合会の試算(6月時点)によると、世界的な原材料不足により、コンクリートや鉄鋼部材など様々な建設資材の価格が軒並み上昇。人件費増も加わり、建設コスト全体では3年前と比べて約2割増えたという。大手不動産会社の担当者は「円安や原油高、人手不足などあらゆる要素が建設費上昇に作用しており、当面下がる要素が見当たらない」と明かす。
近年の地価上昇も価格高騰に拍車をかけるが、富裕層を中心に購入意欲は高く、売れ行きは好調だ。住宅情報誌「SUUMO」の柿崎隆副編集長は、「駅から近い好立地の土地はホテルやオフィスとも競合するため、マンション価格が上がりやすい。需要を支えているのは世帯収入が多い共働きの夫婦で、都心の物件は一般的な世帯では手が届かなくなりつつある」と分析する。

都心の住まいを諦めた子育て世帯の都外移住も進んでいる。
品川区の賃貸マンションに家族5人で暮らす会社員女性(38)は、約2年前に第3子が生まれ、広い家に住み替えたいと都内でマンションを探したが、新築は高額でどれも手を出せなかった。
そこで千葉県柏市の実家の近くで探したところ、同じ広さで都心の半額ほどの物件が見つかり、購入を決めた。女性は「住み慣れた東京を離れるのは残念だけど、子供が成長して教育費がかさむことを考えれば、都内に住み続けるのは難しい」と話す。
総務省の人口移動報告によると、東京は地方から若者の流入が著しく、2023年には転入者が転出者を上回る「転入超過」が5万8489人に達した。しかし年代別でみると、30~40歳代は20年以降、転出者が転入者を上回り、23年は1万1634人の転出超過だった。14歳以下も同じ傾向で、23年の転出超過は7553人と10年前の5倍近くに増えた。
立教大の田島夏与教授(都市経済学)によると、都内では1戸あたりの価格を抑えるために、狭い物件が増え始めており、子育て世帯がますます都外に流出する恐れがあるという。「マンションの建設ラッシュで好立地の用地が減り、価格高騰の一因になっている。新たな住戸を生み出すために、古いマンションの建て替えを促す施策も必要だ」。田島教授はそう指摘する。