2025年に大学を卒業する4年生らを対象とする企業の採用選考が1日、解禁された。
人手不足で採用日程は前倒しが進み、すでに8割近くの学生が内定を得ているとの調査結果もある。学生優位の「売り手市場」の中で、将来の中途採用の人材や顧客として、選考に落ちた学生や内定を辞退した学生とも良好な関係を維持しようとする企業の動きが広がっている。
「必要以上に謙譲語を使っていたので形式的に感じました。もっと自分らしさを出してください」
経理代行サービスを手がける「メリービズ」(東京)は、新卒採用を始めた昨年から、面接を通過できなかった学生への不採用通知に改善点を書き添えている。受け取った学生からは「アドバイスは貴重なものばかり。結果を真摯(しんし)に受け止め、就職活動に励みたい」と返信が届いたこともある。採用責任者の重田茉鈴(まりん)さんは「落選後も自社のファンでいてほしい。転職を考えた時や他社で経理担当になった時に思い出してもらえれば」と期待する。
人材サービス業の「ウィルグループ」(東京)も、面接で不採用となった全学生に面接担当者の評価を盛り込んだメールを送っている。広報担当者は「企業は『選ぶ側』から『選ばれる側』になった。就活生にしっかり向き合う姿勢を示し、他社との差別化を図りたい」と語る。
背景にあるのは、深刻な人手不足だ。リクルートによると、24年卒の採用活動で、学生を計画通りに確保できた企業は36・1%にとどまる。調査を始めた12年卒以降で最も低かった。中途採用に力を入れている企業は多く、リクルート就職みらい研究所の栗田貴祥所長は「自社に興味を持った学生は、将来は中途で入社するかもしれないとの期待がある。親身な姿勢を示すことで企業イメージも向上する」と指摘する。
内定辞退者を優遇する「選考ファストパス」制度を導入する動きもある。
千葉興業銀行(千葉市)は25年卒から、内定辞退者が社会人3年程度以内で自社への転職を希望する場合、通常複数回行う面接を1回にする。加藤陽介・人材開発室長は「地元で働きたいと考えた時に転職先の選択肢に入れてほしい」と狙いを語る。
三井住友海上火災保険(東京)も3年以内なら転職の際に最終面接から選考を受けられる制度を設けた。多様性の確保が目的で、24年卒は対象者の6割が登録した。人事部採用チームの加藤愛子課長は「他社の文化に触れたり、異なる仕事を経験したりした人材は、事業革新につながるという期待がある」と話す。
リクルートの調査によると、選考解禁前の5月15日時点で、25年卒の内定率は78・1%(前年同期比6・0ポイント増)に上った。政府は面接などの選考は4年生の6月、内定は10月に解禁するよう企業に求めているが形骸化が進む。就職活動を続けている学生は49・4%(同8・6ポイント減)と半数を割った。採用活動の早期化と共に就活の終了時期も早まっている。