「営業を続ける意欲が無くなったことが一番の理由になります」「もう限界です」──5月16日、神奈川・座間市にある老舗銭湯「亀の湯」が公式Xで突然閉店の投稿をし、話題になった。閉店の理由が凄まじいものだったからだ。
【写真】サンダル盗難、蛇口破壊、女湯のぞき、ゴミで溢れる駐車場には包丁が……店主絶望の閉店決断も再開に目処か
「閉店の理由は様々ありますが、何よりも、営業する中で、駐車場のルール違反、カスハラ、壊したものを何も報告されないこと、備品を盗まれること、サウナ代を支払わずに無断利用されること、店舗敷地内並びに駐車場への一般ごみ、木材や家具などの不法投棄をされること、一度注意したことをやめてくれないなど、悲しいことがあまりにも多いことで、営業を続ける意欲が無くなったことが一番の理由になります」(公式Xより。原文ママ)
営業最終日の5月30日、NEWSポストセブン記者は現地で“最後の湯”に浸かるべく取材へと向かった。
到着するとすぐに目につくのがごみの散乱した駐車場だ。空き缶やスプレー缶のほか、プラスチックの衣装ケースや、なぜか包丁まで捨てられていた。
亀の湯は昭和42年(1967年)に創業。浴場内の壁には「西伊豆」と題された古めかしいタイル絵がありレトロ感満載だ。井戸水を薪で沸かしたことによる、まろやかな「ぬる湯」と「あつ湯」が自慢で、入浴料は中学生以上が530円、小学生は200円。4人収容の対流式(ストーン)サウナも備え、破格のプラス100円で利用できる。井戸水掛け流しのひとり用木桶樽で作られた水風呂も、サウナ玄人好みの仕様だ。
最終日は、近隣住民やファンが集まっていた。
「いやぁ、やっぱりいいですよね。あの薪で炊いたお風呂っていうのは」
5年ほど前まで近隣に住んでいた男性。閉店と知り、慌てて最終日に来たという。
「今は湘南に住んでいるんです。私もそうだったんですが、このあたりは風呂なしのアパートも多いので、なくなって困る人が結構いると思いますよ」
近隣で育った20代男性は祖父に連れられて何度も来ていた。
「最近あまり来ていなかったので、懐かしいです。やっぱり寂しいですよ、思い出の場所がなくなっちゃう感じがして。若い人がお風呂とかサウナ好きになるのはいいんですけど、そのマナー違反とかでおじいちゃんおばあちゃんが来づらいとか、ここみたいに地元の銭湯が潰れるっていうのはダメですよね。店が決めているルールを守るのは大人だったら当たり前にやらないとですよね」
15年以上通い続けるヘビーユーザーの男性にも話を聞いた。
「サウナが安いからいいよね、他には行けないよ。あとお風呂も熱くてね、先代のとき温度計持ってきて測ったことあったんだけど45℃もあったよ(笑)。最近は若い客でまわりに迷惑をかける子もいるよね。4人とか5人でくる。風呂のへりに座ってダベっててさ、注意したことあるもん。入らないなら外で話してくれるかなって。本人らは楽しいんだろうけどね、最低限周りに気を遣ってほしいよな。
それから、金を払わないでサウナを勝手に使う客もいたみたいだね。でもさあ、言ったことあるのよ、兄ちゃん(店主の夫)に。勝手に使わせたくないなら、ロッカーの鍵の色とかで区別するすればいいじゃんって。そうしたら『それだとお客さん同士で監視みたいに見合うようになるから嫌だ』って。見た感じの通り優しすぎるのよね」
利用客からは閉店を惜しむ声が相次いだ。しかし冒頭のように備品盗難やゴミの投棄などがあり、閉店を決断した店主の女性。風呂とサウナを堪能した後、彼女にも話を聞いた。
「うちは『湯自慢』でしたからねえ。常連客の方には閉めることになって申し訳ない気持ちでいっぱいです。でも蛇口を壊したりする心ない人がいるのは残念でした。Xの投稿は犯人探しをしたくて書いたわけじゃないんです。なので詳細をお話しするのは控えますが、もう嫌なことがたくさんあってその全てが原因なんです。
これだけは嫌だった…それはもう警察沙汰になったことですよね。うちの破損ではなくて、お客さんがサンダルとか貴重品を盗まれたとか。女風呂ののぞきもありました。駐車場には防犯カメラを設置しました。お風呂の中には設置できませんから……」
満身創痍といった様子の女性店主。しかし──。
「ここでお風呂屋さんやりたいって人が現れたんですよ。あの、バズったおかげで(笑)。2件ぐらいきてくれて、今度直接会ってお話をします。ありがたいお話です。常連の良いお客さんもいますので、どのような形であれ再開できると良いかもしれません。でも私たちはもうやりたくない。引退です。もうストレスがすごくて……」
町の銭湯はこうして、減り続けている。