東京都知事選への出馬表明以降、注目度が高まっているのが立憲民主党の蓮舫氏である。もっとも、そのやる気が限界値を超えているのか、先走った街頭演説には疑問の声もあがっている。ジャーナリスト、三枝玄太郎氏のレポート。
【写真を見る】「こんなに露骨なビラは初めて見た」の声…「蓮舫参院議員 都政に挑戦!」のフレーズや投開票日を掲載
9日、東京都杉並区のJR中央線・阿佐ケ谷駅南口には多くの聴衆が詰めかけていた。ざっと200人はいただろうか。テレビ局のカメラも最後列にズラリと5台ほど並んでいる。お目当ての参院議員の蓮舫氏(56)は定刻ちょうどに姿を見せた。
蓮舫氏は2日、JR有楽町駅前で「七夕に予定されている都知事選に蓮舫は挑戦します。みなさんの支援をよろしくお願いします」と訴えた。応援演説に立った枝野幸男・立憲民主党前代表が「蓮舫さんを勝たせましょう」と発言した。
これが事前運動に当たるのではないか、と主にネット上で批判が殺到し、6日の参院総務委員会では浜田聡参院議員が「完全に事前運動ではないか、という意見が多数を占めていると思う」と指摘した。
こうしたなか、蓮舫氏が問題の演説から1週間後にまたしても街頭に立つというのだから、注目を集めるのは必至といえた。
9日、応援演説に立った長妻昭・元厚生労働相は、東京都の合計特殊出生率が0.99と1を切ったことを槍玉に挙げた。「小池百合子・東京都知事は国との連動がうまくいっていない」「晴海フラッグは法人が投機目的で購入している。東京都は指をくわえて見ているのか」等々。
続く辻元清美・立憲民主党代表代行は、「私は蓮舫に、あんた、都知事になりって相当前からチョロチョロチョロチョロ言うてたんです」と東京都知事選出馬に関して言及し、さらに神宮外苑の再開発を例に挙げ、
「都知事に代わってもらわな、しゃあないなと思ったんです。蓮舫、あんたしかおれへんで、と支えていたのは私でございます」
とも言った。
そして蓮舫氏。「今度は東京都のために仕事をしていきたいと志を持っています」。
懲りない面々というのは、こういうことを言うのではないか。
総務省のHPを見てみよう。まず、選挙運動の定義はこう書いてある。
「判例・実例によれば、選挙運動とは、『特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為』とされています。」
そして、選挙運動の期間については次のようにある。
「選挙運動は、選挙の公示・告示日から選挙期日の前日までしかすることができません(公職選挙法第129条)。違反した者は、1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金に処することとされており(公職選挙法第239条第1項第1号)、選挙権及び被選挙権が停止されます(公職選挙法第252条第1項・第2項)。」
蓮舫氏らの演説は7月の都知事選についてとしか受け止められないので「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」に当たる可能性は高い。さらにまだ公示・告示期間ではないので、選挙期間中ではないことは間違いない。
東京都の選挙管理委員会のHP上の解説も加えておこう。
「選挙運動は、公示日(告示日)に立候補の届け出をしてから投票日の前日までに限りすることができます。それ以外の期間、たとえば、立候補届出前にする選挙運動は事前運動として禁止されています。」
こう見ると、蓮舫氏らの活動は「事前運動」に当たる可能性は高いのではないか。
「みなさんのご支援をよろしくお願いします」、「蓮舫さんを勝たせましょう」という文言は、判例通りの「当選を目的として、投票を得、または得させるために直接または間接的に必要かつ有利な行為」に当たらないのだろうか。
東京都の選挙管理委員会に聞いて見ると、
「違法性の判断については警察に委ねておりますので、こちらではお答えいたしかねます」
とのことだった。
では、過去の類似のケースを見てみよう。
埼玉県所沢市で2023年10月に行われた市長選で、候補者の小野塚勝俊氏(52)=当選して現市長=は告示前に行った街頭演説で「市長選挙に絶対に勝ちます。みなさんのお力をいただきたい」と演説して、埼玉県警捜査2課から5月17日、公職選挙法違反(事前運動)の容疑で書類送検されている。
小野塚氏のケースを見ても、有楽町での街頭演説は、限りなく事前運動に近いとみられても仕方がない行為だということはお判りいただけると思う。
蓮舫氏は9日の阿佐ケ谷駅前での街頭演説が終わった後の囲み取材で、産経新聞の記者に「今後も街頭演説を続けられる予定ですか」と質問されていた。この産経記者の問題意識は極めてまっとうだと思う。
弁護士資格を持つ枝野氏がいながら、限りなく黒に近い街頭演説を行っておいて、次の週末も直截的な文言こそ避けながらも、同じようなことをする。文言を変えたから良いというものでもないだろう。2日の演説と合わせて考えると、立憲民主党の確信犯的なふるまいは目に余る。
立憲民主党は共産党と東京都内の多くの選挙区(都知事選のみならず都議補選でも)で共闘を図っている。阿佐ケ谷駅での街頭演説は立憲民主党が主体だったようだが、この街頭演説が行われた週末、都内の一部地域でこんな「事前運動が疑われるビラ」がポスティングされた、と話題になった。
「蓮舫参院議員 都政に挑戦!」「日本共産党も蓮舫さんを全力で応援します」と田村智子・共産党委員長の顔が入ったものだ。「7月7日都知事選」と、投開票日までご丁寧に入っており、ある自民党国会議員は「こんなに露骨なビラは初めて見た」と嘆息した。
警視庁はこれも看過するつもりなのだろうか。
衆院沖縄1区から選出されている共産党の赤嶺政賢衆院議員は、以前、テレビ東京の選挙特番で、公示前に自らの名前が入った幟を掲げたり、赤嶺氏の名前を連呼して支持を呼びかけたりする様子が放映された。赤嶺氏は「沖縄では他党の候補もやっている」と取材に対し、柳に風で答えていたが、こうした悪弊をいつまでも座視して警察が摘発しないから、つばさの党のように行為が過激化していくのではないか。
早くも共産党の支持母体は各地で蓮舫氏支持を訴える集会を開く予定になっている(もちろん告示日前)。つばさの党が大暴れをして注目された東京15区補選で当選した立憲民主党の酒井菜摘衆院議員は、東京都議補選に出馬する予定の大嵩崎(おおつき)かおり・江東区議の集会に駆けつけ、大嵩崎氏とがっちりと握手をした。今回の都議補選に立憲民主党は候補者を立てていない。酒井菜摘氏を東京15区補選で共産党が支援した見返りなのだと言われている。
ある政党が行った東京都知事選の情勢分析では、小池百合子・東京都知事が蓮舫・参院議員をリードしているのだという。その差を詰めようと、「立憲共産党連合軍」は、なりふり構わぬ選挙戦術を展開している。それが東京都民の心情にプラスに働き、「立憲共産党ブーム」をさらに加速させるのか、それとも愛想を尽かされ、ブームが止まるのかは、七夕の夜に明らかにされる。
三枝玄太郎(さいぐさ・げんたろう)1967(昭和42)年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。1991年、産経新聞社入社。警視庁、国税庁、国土交通省などを担当。2019年に退職し、フリーライターに。著書に『メディアはなぜ左傾化するのか産経記者受難記』『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える事件報道の裏側』など。
デイリー新潮編集部