DV防止法が改正され4月1日から施行されました。取り締まりの対象が身体的な被害だけでなく、精神的な被害に拡大されました。
具体的には通院加療を要する「うつ病」「適応障害」「不安障害」が被害の例としてあげられています。男女共同参画白書(令和4年)によると、精神的DVは全体の63%にも上ります。身体的DV(28%)の実に2倍です。
皆さんはDVといえば、加害者が男性、被害者が女性というケースを思い浮かべることと思います。しかし、加害者が女性であり被害者が男性であるケースもけっこう多いのです。警察庁(令和5年)によると被害者が男性のケースは3割に上っています。
今回紹介する片岡慎太郎さん(36歳。会社員、仮名)も、妻の精神的なDVにより安定した仕事や収入、居住する住居や自室、そして健康的な体力や精神を失った一人です。
筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして夫婦の悩み相談にのっています。今回は、妻からの精神的なDV被害にあった夫の悲惨な例を見ていくとともに、改正DV防止法についてどのような行為がDVとなってしまうのか、6つのDV行為を紹介していきましょう。
慎太郎さんが母親に付き添われ筆者の事務所を訪れたのは、慎太郎さんが仕事と家庭を投げ出して1ヵ月後のことでした。
母親は、「本音を言えば、このまま結婚生活を続けて欲しい。彼女が事実を認め、ちゃんと謝って心を入れ替えれば、息子が戻れるなら…」と語ります。当初こそ、息子夫婦の修復を願っていましたが、慎太郎さんの話を聞けば聞くほどそれは期待できないと分かったのです。
「また一緒に住んだら何をされるか分からないし、とにかく早く縁を切って、今後、関わらないことが一番だと考えを改めました」と強く決意したようです。
慎太郎さんが実家に戻ってきたのは、結婚から4年目のころでした。母親は「私たちはゆっくり眠れない日が続きました」と振り返ります。なぜなら、最初のうち、慎太郎さんは死と隣り合わせで、自死しないよう、目を離せない状態だったからです。
このように慎太郎さんの心身はあまりにも危険な状況で、会社に出勤することも考えられませんでした。そこで母親は休職の手続をするにあたり、診療内科で診断書を発行してもらったのですが、それを筆者にも見せてくれました。
そこには病名として「うつ状態。前述の疾患にて約1ヵ月の休養加療を要する」と書かれていましたが、さらに読み進めると(1)「結婚生活の心理的ストレスが原因」という表記を発見しました。
つまり、DV防止法の対象になる事例でした。
DV防止法は、法改正で「生命又は心身に重大な危害を受けるおそれが大きいとき」が追加されました(第10条)。それを証明する為には、「うつ病等の診断書」があればよく、慎太郎さんの被害は、DV防止法の要件を満たしている可能性がありました。
結婚生活がうつ病の原因となるというのはただ事ではありません。いったい、どのような結婚生活を送っていたのでしょうか。慎太郎さんは、実家に戻って1ヵ月ほどたち、ようやく過去のことを振り返れるまでに回復しました。
慎太郎さんの語る妻の行為は、DV防止法に抵触しかねないものばかりだったのです。
慎太郎さんは商業高校を卒業し、地元の信用組合に就職しました。休職前は本部の勤務で支店の備品などを管理するのが仕事でした。
妻の職業は保育士で、慎太郎さんが地域の盆踊りのスタッフとして休日出勤していた際、会場の公園で知り合ったそうです。二人はフェイスブックで友達になると、日々の会話を通じて仲睦まじくなり、結婚を約束する仲になったそうです。
妻は、欅坂46の元メンバー・平手友梨奈似のすらっとした美人ですが、慎太郎さんは生真面目な信用組合の社員で、「彼女とはつり合いがとれないと思っていました」と振り返ります。
こうして慎太郎さんは妻と結婚したのですが、すぐに二人の住まいを建てることになりました。妻は、父親の土地を生前贈与され、さらに1500万円の資金援助を受けて、二階建ての自宅を建てました。不動産の名義は7割が妻、3割が慎太郎さんで、二人が40年かけて返済する約束でした。妻は結婚するとすぐに仕事を辞め、家庭に入りました。
慎太郎さんが妻の本性を知ったのは、この頃でした。仕事を終え、くたくたくになって帰ると妻の「取り調べ」が始まるのです。
妻の「全部出して!」という掛け声のもと、慎太郎さんは財布の中身やレシートなどを提出し、スマートフォンに入っているクレジットカード、電子マネー、交通系ICのアプリなどを見せます。
妻が逐一、計算していくのですが、少しでも無駄使いを疑われると大変です。
「夫婦なんだから、ちゃんと貯金しないといけないのに、この無駄遣いはなんなのよ」と叱られ、その分だけ翌月のこずかいが減らされるのです。家計の管理に熱心なのは良いことですが、これではいくらなんでもやりすぎでしょう。
さらに妻は「私がいないと何にもできないんだから」と言い放ち、慎太郎さんから(2)「通帳やキャッシュカード、銀行印を取り上げ、インターネットバンキングのパスワードも慎太郎さんの知らないものに変更」してしまいました。
男女共同参画白書(令和4年)によると経済的DVは全体の16%に達しています。DV防止法では、今回の改正で財産に対する加害の告知(第10条)も追加されました。「キャッシュカードや通帳を取り上げる」などの例が該当します。
最終的に、慎太郎さんの小遣いは1ヵ月につき5000円とされてしまいました。
これは昼食込みの金額で、慎太郎さんは「自由になるお金はほとんどありませんでした」と嘆きます。同僚を飲みに行くことも叶わないばかりか、昼食を食べることができるのは週に1~2回程度。しかし、慎太郎さんが我慢しなければならない食事は、昼食だけではありませんでした。
妻が用意する夕食は、冷凍食品を温めるかデリバリーを注文するかのどちらか。妻が台所で包丁を握ることはありません。
妻は慎太郎さんの給料を握っており、十分な食費もあるはずです。それなのに慎太郎さんが「もうちょっと何とかならないか?」と投げかけると「文句を言うなら食べなくていい!」と使い捨ての容器ごと燃えるゴミの箱に捨てられてしまうのです。
慎太郎さんは、空腹を我慢するしかありませんでした。
妻がかなりの偏食だということを知ったのも結婚した後でした。妻は、一日中、お菓子をだらだらと食べる生活で、1日3食の習慣もありませんでした。
このように慎太郎さんは結婚1年目から妻の束縛癖、癇癪癖に悩まされたのです。子どもが生まれれば少しは性格も変わるかもしれないと我慢をつづけた慎太郎さんでしたが、その期待もあっさりと裏切られてしまいました。
そればかりか、妻のDVはさらにエスカレートしていったのです。
後編「妻は少しずつ夫の精神を蝕んでいった…!「DV被害」でうつ状態に追い込まれた夫が赤裸々に語った!「DV防止法」で対処すべき「妻が犯した6つの悪行」」では、慎太郎さんが妻から受けたDVについて、さらに詳しく紹介していきましょう。
妻は少しずつ夫の精神を蝕んでいった…!「DV被害」でうつ状態に追い込まれた夫が赤裸々に語った!「DV防止法」で対処すべき「妻が犯した6つの悪行」