7月7日に投開票される東京都知事選挙は事実上、女性同士の一騎打ちとなりそうだ。5月27日に立憲民主党の蓮舫氏が立候補する意向を表明し、小池百合子都知事も意欲は満々。小池知事は28日、都民ファーストの会や公明党、都内の自治体首長52名から立候補の要請を受けている。
しかし翌29日の都議会定例会で行われた小池知事の所信表明では、立候補を匂わす言葉すら発せられなかった。もっとも初めから発表するつもりはなかったのだろう。この時に小池知事が羽織っていた大ぶりなハウンドトゥース柄のジャケットの色は白とブルーグレーで、「シンボルカラー」である緑は入っていなかった。
おそらく蓮舫氏の立候補表明に触発されたという印象を避けたかったのだろう。小池知事にとって、常に主役は自分でなければならないからだ。
一方で蓮舫氏は、27日の会見には「勝負カラー」である白のスーツとパンプスで挑み、「反自民・非小池都政」を掲げて「小池都政をリセットする」と意気込んだ。立憲民主党は4月28日の衆院補選で3戦全勝し、勢いづいている。5月26日の静岡県知事選でも、国民民主党と連合静岡とともに推薦した鈴木康友前浜松市長が当選した。
加えて同日に行われた目黒区の都議補選(定数2)でかつての秘書の西崎翔氏がトップで当選したことも、これまで都知事選出馬を固辞してきた蓮舫氏を決意させたのかもしれない。
都議補選では岡田克也立憲民主党幹事長や大串博志選対委員長の政治資金パーティー開催問題も持ち上がったが、蓮舫氏は街頭演説でこれを厳しく批判して逆風を防いだ。選挙戦最終日に岡田氏と大串氏がパーティー中止を発表したことも、幸いしたのかもしれない。
しかし2020年の都知事選で366万1371票を獲得した小池知事に勝利するのは、そう簡単なことではない。都知事選と同じ東京都全域を対象とする参議院東京選挙区で、蓮舫氏は2010年に171万734票を得たのが最多。だが2022年の参議院選では67万339票と、“最盛期”より100万票以上も減らしている。
リーダーとしての資質についても疑義がある。蓮舫氏は2016年9月に民進党代表に就任したが、翌年7月にいきなりその地位を放り投げた。代表時代に勃発した「二重国籍問題」では結果的に台湾籍を離脱したが、きちんと説明を尽くしたとは言い難い。
また、たとえ落選しても、近いうちに行われるとされる衆議院選に出馬する手もある。あるいは来年7月に予定される参議院選で、国政復帰を狙うことも可能。蓮舫氏の都知事選出馬に伴い参院東京都選挙区は補選分(任期は2028年7月まで)も含めて7議席を争うことになり、“間口”はより広くなる。
しかも小池知事には限界が見えている。衆院東京15区補選では乙武洋匡氏を擁立したものの、頼みとする自公の協力は得られなかった。公明党は乙武氏の過去の不倫スキャンダルを嫌い、自民党はこれに加えて「推薦を依頼しない」という乙武氏の“高飛車”な態度に反発した。
さすがに小池知事が公明党に泣きつき、創価学会女性部の一部が動いたものの、焼石に水も同じだった。乙武氏の得票数は1万9655票と振るわず、9人中で5位に沈んだ。「我々が協力しなかったら、供託金は没収された」と公明党関係者はほくそ笑んだが、その1週間前に投開票された目黒区長選でも、小池知事が応援した伊藤悠氏が落選。期待した公明票が入った形跡はない。
自民党の没落はさらに深刻だ。同区長選では自民党は事実上、河野陽子前区議を擁立した。河野氏は河野太郎デジタル大臣のはとこで、河野大臣が応援のために目黒に入っている。にもかかわらず、区長選での河野氏は1万2149票しか獲得できず、5人中で4位と振るわなかった。
それは26日に行われた都議補選にも影響した。自民党は井澤京子元衆院議員を擁立し、小池知事からも応援動画が寄せられた。井澤氏のポスターには小池知事の顔写真と名前が入った応援シールが貼られていた。最初は小さいサイズだったが、最終日にはその上に4倍の大きさのシールが重ねられた。顔が売れずに、よほど焦っていたのだろう。
にもかかわらず、井澤氏が獲得したのは1万1039票で、前月の区長選で河野氏の得票数にも及ばなかった。「小池効果」はゼロといってよい。
その傾向はすでに表れていた。小池知事が結成した都民ファーストの会は、2017年の都議選で55議席(追加公認の6議席を含む)を獲得して都議会第一党に躍り出たが、2021年の都議選で現有議席から15議席も減らしている。
2022年の参議院選で小池知事は、衆議院時代から秘書として仕えた荒木千陽元都民ファーストの会代表を当選させられなかった。東京都選挙区に出馬した荒木氏の得票数は28万4629票で、その2年前の都知事選での小池知事が得票した約366万票の10分の1にも満たなかった。
次回の都知事選では、小池知事の「カイロ大学学歴詐称疑惑」が大きく取り上げられるだろう。発信源は小池知事の元側近の小島敏郎氏とカイロ時代のルームメイトだった北原百代氏で、身内からの暴露は信用性が高い。
ただし「小池百合子がカイロ大学を卒業していない」ことを証明するにはカイロ大学が認めなければならず、そのハードルは高い。それでも「学歴詐称疑惑」が大きく話題になれば、小池知事には不利になる。
小池知事に学歴詐称について詳細に綴られた『女帝小池百合子』は2020年に刊行されたが、同年の知事選で小池知事が大量得票したのは、新型コロナウイルス感染症のまん延で選挙活動が大きく制約されたために他ならない。有権者に名前が知られている現職が有利となり、小池知事は直接の批判を避けることができたからだ。
そうした意味でノーマル化された7月の都知事選は、「神通力を失った女性同士の戦い」が注目されるだろう。またそれに便乗して、さまざまな候補が手を挙げており、一種のお祭り騒ぎとなりそうだ。
16兆円の予算を握り、16万人の公務員を従える東京都知事の権限は絶大。その魔力を求める争奪戦が間もなく繰り広げられる。
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