筆者が運営する恋人・夫婦仲相談所は「夫婦仲を改善したいが、何から手をつければいいか分からない」という方々が多数訪れます。ですが、お話を進めてゆくうちに状況によっては「離婚という選択肢もある」とお伝えすることもあります。
「ほんとは、相手が憎くて、顔も見たくないけど、この年で、晩年を一人で生きてゆく自信がない」
「何度も浮気されてクソ男と思いながらも、生活費を頼らざるをえないから、諦めて一緒に住んでる」
「信頼なんかまったくしてない。でもこの家が好きでずっと住みたいから離婚は考えない」
「離婚すると、不機嫌を抱えたままの未来になりそうで離婚できない」。そんな言葉が並びます。「離婚後のワ・タ・シ」の概念が暗すぎると常々感じています。
そして、ここ数年で特に増えているのが同居20年以上の“熟年夫婦”のご相談です。
熟年離婚は「妻から切り出すもの」というイメージが強いかもしれませんが、“夫側からの離婚”も確実に増えています。
彼らに話を聞くと、きっかけは、尊重の欠如、会話の断絶、そしてお金の扱い方だといいます。長年の積み重ねがあるからこそ、引き金は不倫などの派手な裏切りではなく、ある日の“ひと言”や“態度”であることが見えてきます。
【マンガ】「離婚してハッピーになれた」 熟年離婚は「正直面倒」「経済的に不安」でも、もう嫌なの!健一さん(62歳・仮名)の場合:「私が正しい」で押し切られ続けて……健一さんは、結婚30年目。子どもは独立し、定年が視野に入っていました。外から見れば「これから夫婦で第二の人生」というタイミングです。
ところが健一さんは、私の運営する夫婦仲相談所に来て開口一番こう言いました。
「妻と話すと、いつも“私が正しい”で終わるんです。日々訂正される人生を、あと何年続けるのかと思うと気分が沈みます」
発端は、結婚した頃にさかのぼります。年末年始の過ごし方でした。夫が「腰痛があるから、今年の帰省は日帰りにしよう。正月明けに温泉でも行こう」と提案したところ、妻がぴしゃり。
「あなたはいつも逃げる。私の親に失礼でしょう。うちの親は楽しみにしてるのよ」
夫は「失礼ではなく、体力と現実の話だ」と説明しようとしますが、妻は一歩も引きませんでした。
「じゃあ私だけ行く。あなたは家で寝てれば? 誰も困らないから」
この“誰も困らない”が、夫の胸に深く刺さりました。夫が「そういう言い方はきつい」と伝えると、妻は謝るどころか、「きつい? あなただって、私にきついこと言うよ。おあいこ」と、クールな受け答え。そのあたりから、妻の物言いが、「私が正しい。私が正義」というふうに聞こえるようになったといいます。
気付いたときには修復不可能に確かに妻は国立大を卒業し、とある研究所に勤めている賢い人です。ですが、「あなた、お風呂の温度が高すぎる。健康キープできる湯音は◯度よ」「あなたの貯金感覚おかしい。今は株でしょ。株。この会社に投資してよ。私がAIで分析したから」など、いちいち自分の優等生ぶりを押し付けてくるのです。
「俺は、君の部下じゃない。家の中で逐一判定されるのは窮屈だ」
妻にそう言うと、妻は鼻で笑って「そんな大げさなー」と返しましたが、その“軽く扱われた感覚”が、健一さんの決意を固めました。
熟年夫婦のすれ違いは、事件ではなく「尊重の残高」がゼロになった瞬間に起きます。健一さんのケースでは、夫は「正しさ」でねじ伏せられ続けたことで、修復の言葉がもう出なくなっていました。怒鳴り合いにならないぶん、周囲は気付きにくいのですが、ヒタヒタと静かに心が離れていくケースだと感じました。
亮次さん(62歳・仮名)の場合:家計を“黙って動かした”妻への信頼感はゼロ亮次さん夫妻は、結婚38年目で、亮次さんはまもなく退職予定です。退職金や年金の話が現実味を帯びてきた時期でした。
彼が違和感を覚えたのは、通帳の残高が減っていることでした。老後資金を貯めている通帳です。
「これ、何に使った?」と聞くと、妻は軽い調子で、「ああ、いろいろ。ほら、耳鳴りしたから、病院通ったりしたじゃない。細かいことは気にしないで」と笑って流します。
若い頃から家計管理は妻に任せていたので、「病院代なら仕方ない」と思いましたが、家計費に関しては、その後も分からない引き出しが増えていることに気付きました。
亮次さんはその都度、妻に尋ねましたが「いいのいいの。私が家計はやるから。どうせあなたはどんぶり勘定で分からないでしょ」と。
この「あなたは分からない」という言い方に、“バカにされている感”が漂っていた。“無力扱い”されたと思ったそうです。
さらに妻は、老いた母の介護費用の補填(ほてん)のために、夫の退職金を見込んだ資金計画を内緒で進めていました。介護ホームの費用を二人の退職金から出そうとしていたのです。お金のことに限らず、大事な決定を相手の合意なしに進めた瞬間、信頼感は一瞬でゼロになります。
離婚を決定づけた妻のひと言決定打は、妻の次のひと言でした。
「家族のためなんだから、黙って協力してよ」
亮次さんは私に言いました。
「協力はします。でも、説明なしに“黙ってやられてる”は無理です。俺の人生をかけたお金なのに、許可なく使おうとしてる」
熟年期は、恋人同士のときのように“勢い&パッション”だけでは関係を保てません。
お金・健康・教育・親の介護といった「現実の議題」が増えるからこそ、情報共有のルールがない夫婦は、破綻しやすくなります。しかも一度“勝手に決めて動いた”と感じると、一方は「次は何が起きるのか」と疑心暗鬼になります。
信頼は、貯金と同じで、築くのは時間がかかりますが、崩れるのは一瞬です。
熟年離婚が頭をよぎったら必ずやってほしいことこの2例に共通しているのは、「妻が嫌いになった」というより、信頼の土台が壊れた感覚です。そこで筆者は、夫側にも妻側にも、次のことをお伝えしました。
・モヤモヤと事実を分けて整理する
「何が起きたのか」「いつから続いているのか」「どんな言動が決定打だったのか」。まずは言語化。熟年離婚は長期戦になりやすいので、感情のまま走ると疲弊します。メモで構いません。自分の中の“モヤ”を可視化するだけで、判断がぶれにくくなります。