国内最大の暴力団・六代目山口組が分裂し、離脱した神戸山口組との間で起こった「分裂抗争」は今夏で10年目を迎える。そんな中、界隈ではある資料が注目を集めている。神戸山口組からさらに離脱した名門暴力団・池田組と絆會の「謎のメンバー表」が4月中旬、警察当局、暴力団業界の双方に流出したのだ。
メンバー表には池田組と絆會の最高幹部の氏名、年齢、所属する2次団体の組織名などの記述がある。さらに備考欄には「逮捕勾留」「音信不通」など現状に関するメモと見られる記述もある。この名簿の真偽は定かではない。しかし、最新の勾留情報なども盛り込まれており、界隈では流出理由や作成目的、出所などを巡り、さまざまな憶測を呼んでいる。
関係者が注目する「謎のメンバー表」には一体どんなことが書かれているのか。
まず、岡山県内に主な拠点がある池田組については組織のナンバー2である若頭の「前谷雄一郎」の備考欄に「逮捕勾留」との記載がある。前谷は今年1月、愛媛県四国中央市のスターバックスコーヒー店内で、男性を銃撃して殺人容疑で指名手配された。事件は多くの一般客がいるなかで発生したため、大きな非難の対象となったが、この事件で前谷は今年3月に逮捕されていた。このため、メンバー表は事実に基づいた記載がなされている。
そのほか舎弟と役職の3人については「活動なし」、さらに役職のもう1人は「病気・入院」と書かれている。別の組長秘書や幹部たちについては「重度痴呆症(メンバー表の表記に準拠)」など病状のほか、「音信不通」「脱退予定」などの記載もある。わざわざ欄外には、ある幹部について、「岡山県警に脱退届け出済み(他団体からの借金あり、取り立てをされている。)」との記述もある。
絆會のメンバー表では、若頭の金澤成樹について「勾留中」と記載されている。金沢は’20年9月、長野県内で男性を銃撃したとして指名手配され、逃亡の末の’24年2月に殺人未遂容疑で逮捕されていた。この点も事実関係に間違いはない。金澤は約3年半にわたって逃亡していたが、仙台市内のアパートに潜伏していたところを逮捕された。金澤は長野県内に拠点を構えていたため、遠く離れた東北地方で逃亡生活を続けていた。
このほかの絆會の備考欄には「神戸をよく出歩いている」「高齢にて活動なし」「服役中」などの記載がある。なかには、「実家所有のアパートの家賃収入にて生活」など生活実態についての記載もなされている。
流出したメンバー表について、キャリアが長い、ある指定暴力団の古参幹部は、自らの経験から「このような名簿は見たことがない」と強調しつつ、次のように述べた。
「たとえば抗争などに備えて、ケンカの相手となる可能性がある組織について名簿のようなものを作ることはある。その場合は、いざという時に動けるように、相手の幹部クラスの名前、住所、主な立ち回り先、(交際中の)女の名前、住所、勤務先などを詳しく調べてメモにしておく。ケンカとなっても、女の自宅にまで押しかけることは表向きにはご法度だが、念のためということだ」
有名暴力団をめぐって出回った「謎のメンバー表」は、10年目を迎える分裂抗争の激化の予兆なのかもしれない(文中敬称略、一部の氏名は通称名)。
有料版「FRIDAY GOLD」では、界隈に出回った謎のメンバー表の実物写真を全文公開。さらに流出原因や作成目的についても詳報している。
取材・文:尾島正洋ノンフィクション作家。産経新聞社で警察庁記者クラブ、警視庁キャップ、神奈川県警キャップ、司法記者クラブ、国税庁記者クラブなどを担当しフリーに。近著に『俺たちはどう生きるか 現代ヤクザのカネ、女、辞め時』(講談社+α新書)。