「街を壊すな!」
12月5日の昼頃、渋谷区役所の前に集まった人々が一斉に声をあげた。彼らは「区民の声を聞け」「東急・清水は街を壊すな」「廃道反対」などと書かれた紙を手に持っている。
「区長出てこい!」「説明会を開け!」「パークコートの意見を無視するな!」
声を上げる人のうちおよそ半数は、渋谷区役所の隣に建つ高さ143mのタワマン「パークコート渋谷 ザ・タワー」(以下、パークコート)の住人。さらに近隣にある大学の学生たちも加わり、ビラ配りとデモが行われた。
パークコートは39階建てのタワマンで、「企業経営者、元ジャニーズ事務所のアイドル、インフルエンサーも住んでいる」(パークコート住人)という有名物件だ。ここに住む人々がいま、渋谷区に対して怒りの声をあげている。
『「こんな近くに150mのマンションが建つなんて」渋谷の39階建てタワマン 『パークコート』の住人たちが激怒するワケ』で詳報したが、改めて「渋谷タワマン戦争」の概要を説明しておこう。
パークコートから40mほどの東南側には現在、渋谷ホームズ(1975年竣工、高さ約40m)というマンションがある。ここが再開発によって、高さ150mの巨大タワマンに生まれ変わる計画が進められている──。
渋谷ホームズ再開発計画の概要(「しぶや区民の声を聞く会」より)
区役所前に集まった人々は、この再開発計画に対し批判の声を上げていた。「巨大なビルのせいで日影になる」「眺望が台無しにされる」といった事情もあるが、彼らが怒る理由はそれだけではない。
高さ150mもの「モンスターマンション」(パークコート住人)が建てられるようになったのは、清水建設、東急不動産が渋谷区と「取り引き」をしたからなのだ。その内容は、清水と東急が渋谷ホームズの隣に建つ神南小学校の建て替えを行い、その代わりに区が小学校の容積率と隣接する区道の敷地610屬鯆鷆,垢襾;,箸いΔ發里世辰拭
単にマンションが建つなら文句は言えないが、区が絡んでいるとなると話は別。実はもともとパークコートの地主は渋谷区で、直接ではないにしても地代を授受している間柄である。渋谷区の不誠実な態度に怒り心頭な住民は少なくない。
「そもそも私たちパークコートの住民は、再開発について十分な説明を受けていません。1ヵ月ほど前にも区の担当者に『説明会を開いてほしい』と要望を伝えましたが、聞き入れてもらえない。すでに200名近い住人から反対署名が集まっています」(パークコート住民)
さらにデモにはパークコートに暮らす人以外も参加していた。それは渋谷ホームズの再開発が、渋谷区民全体に影響を与える問題になるおそれがあるからだ。
「区道は廃道になり、『公開空地』という通行可能な広場になると説明されています。しかし実際のところ、車は通れなくなってしまうため、身体の不自由な方や高齢者が車で区役所の玄関口につけるのが難しくなるでしょう。自転車も手押しになるといった問題もあるなど、区道廃止は区民の生活に大きな影響を与える問題なんです」(不動産鑑定士・森口英晴氏)
デモの最中、再開発の舞台である渋谷ホームズから「おい!うるさいぞ!お前ら、ちょっとそっち行くから待っとれ」と怒声を上げて乗り込んでくる人も。デモに参加した区議は「本当にご迷惑をおかけして申し訳ない。だが、同じ渋谷区民としてダメなものはダメだと言いたい。ご容赦してほしい」などと説明した。
「渋谷区は今、違法な手続きで計画を進めています。私たち渋谷区民の大切な税金を使って、神南小学校、神南地区で違法な建築計画を進めております。まともな専門家の意見を聞かない独裁政治の長谷部区長を糾弾していきましょう」
区議の声が、区役所前の広場に響き渡る。
デモに参加した大学生に話を聞くと……。
「近くの大学に通っていますが、こんな計画があるなんてまったく知りませんでした。話を聞いて、さすがにおかしいなと思って参加しました。
(区のやり方は)乱暴ですよね。こうやって住民の方たちが抗議の声を上げる前に丁寧に説明するとか、やりようはあったんじゃないかと思います」
さらにデモに参加した近隣住民からは「子供のことが心配」という声も聞かれた。
「(ホームズに隣接する)神南小学校に子供を通わせる親御さんの中には、今回の問題を受けて他の小学校に転校させるという人も出てきています。学校の目の前に商業施設も入った巨大なタワマンが出来たら、逃げ出したくもなりますよね。落下物やビル風だって心配ですから」
参加者のなかには、パークコートの高層階に住む人もいた。普段はデモに参加することもない、いわば「セレブ」も寒空のもとで声を張り上げる。
「実は約5年前、久米設計によって渋谷ホームズを高さ110m程度のマンションに建て替える計画がありました。しかし渋谷区によって『公共貢献が足りない』という理由で却下され、新たに東急不動産が加わって150mのタワマン計画が持ち上がったのです。本来であれば安全上、小学校に隣接するマンションは少しでも低くしてもらうように要望する立場のはずの渋谷区が、高さもボリュームも1.5倍近くなるように誘導しているのですから前代未聞です。
久米設計による渋谷ホームズ再開発計画(「しぶや区民の声を聞く会」より)
本当に区民の生活を守る気があるのなら、ホームズは元々の計画にあったように高さ110m程度のマンションにするべきでしょう。そして小学校は税金で建て替えをすればいいのです」(前出・森口氏)
12月16日には、渋谷ホームズ準備組合において建て替えのための総会が実施される予定となっている。その前日の「渋谷区都市計画審議会」において都市計画決定のために答申が行われた場合、審議会の各委員の責任が問われる可能性もある。一等地を巡って繰り広げられている「渋谷タワマン戦争」はこの先、どんな展開を迎えるのか。
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渋谷ホームズの再開発問題については、『「こんな近くに150mのマンションが建つなんて」渋谷の39階建てタワマン 『パークコート』の住人たちが激怒するワケ〈旧ジャニタレやYouTuberも暮らす豪華物件〉』で詳報している。