「ああ、ムカつく! 酒を飲んでうさばらししよう」
ストレスが多かった週刊誌の記者時代、腹立たしいことがあると、すぐに酒に逃げていた。だが、飲んでストレス解消と思いきや、飲んでいるうちに嫌な記憶がかえって強化され、悪酔いしてしまうことがざらだった。
実際、東京大学大学院の松木則夫教授と野村洋教授によるネズミでの実験において、「飲みすぎるとイヤな記憶や感情がかえって強くなる」ということが報告されている。電気ショックを与えた直後、エタノールを注射したネズミと食塩水を注射したネズミを比較したところ、前者は約2週間、身動きが取れなくなってしまった。これはエタノールによって、「恐怖体験の記憶が強く刷り込まれた」ということを示している。ネズミでさえもこうなのだから、人間であればなおさらであろう。
これだけではない。実のところ酒はリラックス効果もある反面、精神を安定させるホルモン、セロトニンを減少させてしまう作用もあるのだそう。セロトニンが減少すると、快楽物質のドーパミンと、驚きや興奮を伝達するノルアドレナリンのバランスが崩れ、攻撃性が高まったり、不安感が増したりするというのだ。ヤケ酒をして、店で暴れ、危うく警察沙汰になりかけた知人(普段は草食系)がいるが、これもセロトニンの減少が影響していたのかも。
飲み過ぎると、直近の支払いをした記憶は早々に忘れてしまうのに、嫌な記憶だけは残すなんて、なんともむごいではないか。しかも、「酒を常飲していると嫌な記憶を消す能力が下がる」というアメリカでの研究結果もある。
つまりは「ヤケ酒は嫌な記憶を増強させ、かえってストレスを高める」ということか。そうであれば、嫌な記憶を無理に消そうとせず、楽しい思い出で上書きしたほうが建設的だ。しんどい時はたしなむ程度で抑え、一段落した頃にパーッと飲む。心身のためにも、そんな飲み方を心がけたい。
※参考文献=「図解ストレス解消大全 科学的に不安・イライラを消すテクニック100個集めました」(堀田秀吾著・SBクリエイティブ)