日本学生支援機構によると、大学生の2人に1人は奨学金を利用しているそうです(令和2年度学生生活調査)。高卒と大卒では、生涯年収の差が数千万単位に開くため、多少無理をしてでも大学に進学する人は少なくありません。そのため、人によっては卒業後、奨学金に苦しめられることも……。株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが、事例を通して「奨学金利用者」を巡る残酷な現実と返済プランを解説します。
都内で働く31歳の会社員Uさんは、付き合って3年になる同い年の彼女にプロポーズし、めでたく婚約しました。彼女は地方から東京に出てきており、Uさんは彼女の両親と会ったことはありません。
緊張して結婚の挨拶に行くと、優しそうな両親で安心しました。和やかな雰囲気のなか、大学時代の話になり、片親のUさんは奨学金を借りて大学に進学したことを話したところ、心なしか彼女の両親の顔が曇ったようにみえました。
ただ、そのときは何事もなく、無事に挨拶を終えて東京に帰ってきたUさん。
翌日、実家に泊まっていた彼女から連絡が……その内容は予想外で、父親が結婚に反対しているとのことでした。
どうやら「数百万円も借金がある相手に愛する娘はやれん!」と父親が言っているそうです。
詳しい話を聞くと、父親が勤めている会社の部下で「奨学金の返済に苦労している若手」がいて不安が大きいとのことでした。
心配している彼女の父親を安心させるためには、奨学金の返済があっても生活に問題がないことをわかってもらう必要があると思ったUさん。FPである筆者のもとへ奨学金があっても困らないライフプラン(人生設計)の相談に訪れました。
Uさんは大学を卒業後、現在の会社に新卒で入社しました。奨学金以外に借金はなく、ギャンブルやタバコもせずにコツコツと貯蓄をしています。
日本学生支援機構の奨学金には返済不要の「給付型」と返済が必要な「貸与型」があります。「貸与型」には無利子の第一種奨学金と有利子の第二種奨学金があります。Uさんは第二種奨学金(有利子)を利率固定方式で月8万円を4年間利用したため、返済総額は384万円です。
返済は大学を卒業してから半年が経ち、社会人生活に慣れたころに始まります。金利0,6%の場合、奨学金384万円を20年間にわたって月17,030円ずつ返済します。両親にUさんが挨拶に行った時には奨学金の返済は残り220万円ほどになっていました。
彼女の父親に結婚を認めてもらうためには、お金の面で心配がないことを明確にする必要があります。そこでまずは、家計簿をつけて「生活費の見える化」をしてもらいました。
【Uさんの生活費の内訳】家賃:7万5,000円水道光熱費:8,000円食費:4万円通信費:5,000円交通費:5,000円被服代:5,000円交際費:2万円娯楽費:2万円家具家電代:1万円保険:1万円その他:3万円奨学金:1,7万円貯蓄:1,5万円合計26万円Uさんの場合は、奨学金の返済があっても毎月1,5万円ほどの貯蓄ができています。ボーナスもほとんどを貯蓄している状態で、現在は300万円ほどの貯蓄があるそうです。奨学金は残り220万円ほどなので、返済しようと思えば貯蓄で一括返済も可能とのこと。父親を安心させようと思えば一括返済するのが良いかもしれませんが、奨学金の金利は低いため、慌てて返済する必要はありません。一括返済すると手元から現金がなくなってしまうため、不測の事態に対応できなくなる可能性があるからです。月々の収支がマイナスの場合にならない限り、貯蓄からまとめて返済することを検討する必要はないでしょう。父親は最愛の娘のことを思って「借金のある男性との結婚は反対」と言われています。親として、子の将来のことを考えるのは当然でしょう。ただし、Uさんも彼女と幸せな家庭を築きたいという強い思いがあります。そこでUさんは。下記の3点について資料を用いて説明することで、彼女の父親に結婚を認めてもらうことができました。 Uさんの家計収支が月々プラスであること(家計簿) 突発的な出費がなければ年間70万円ほどの貯蓄ができること(年間シミュレーション) 奨学金の残りは貯蓄からいつでも一括返済できること(資産一覧表)Uさんはこれまで家計簿をつけたことがありませんでした。そのため、家計簿作成のため領収書などを集めるのに少し時間がかかったものの、目に見える数字として資料を作成して、父親に提示することができました。そしてこのUさんの行動を通して、Uさんのまじめさと熱意が伝わったこともあり、現在では父親と良好な関係だそうです。“奨学金=悪”ではない…大切なのことは「制度を理解して有効活用すること」奨学金の返済は、奨学金を利用していない人に比べると負担ではありますが、通常の教育ローンなどと比べても金利は低く、月々の返済は1~2万円ほどです。仕事をしていれば返済できない金額ではありません。高卒と大卒では、生涯年収の差は数千万単位に開きます。目先の負担を考えて「奨学金を借りるくらいなら大学に行かないほうがいい」といった考えは損でしょう。また、就職後なんらかの理由で収入が減った場合には、日本学生支援機構に相談することで返済額の減額や返済を待ってもらうことができる場合があります。家計が苦しくなったときには、奨学金を滞納してしまう前に専門家に相談しましょう。借金や投資など「お金のこと」に関しては、ついイメージで判断してしまう・されてしまうこともあります。しかし、だからこそしっかりと情報収集をおこない、自分の人生にとって有益な制度や仕組みがあれば有効活用していくことが大切です。武田 拓也株式会社FAMORE代表取締役
【Uさんの生活費の内訳】
家賃:7万5,000円
水道光熱費:8,000円
食費:4万円
通信費:5,000円
交通費:5,000円
被服代:5,000円
交際費:2万円
娯楽費:2万円
家具家電代:1万円
保険:1万円
その他:3万円
奨学金:1,7万円
貯蓄:1,5万円
合計26万円
Uさんの場合は、奨学金の返済があっても毎月1,5万円ほどの貯蓄ができています。ボーナスもほとんどを貯蓄している状態で、現在は300万円ほどの貯蓄があるそうです。
奨学金は残り220万円ほどなので、返済しようと思えば貯蓄で一括返済も可能とのこと。父親を安心させようと思えば一括返済するのが良いかもしれませんが、奨学金の金利は低いため、慌てて返済する必要はありません。
一括返済すると手元から現金がなくなってしまうため、不測の事態に対応できなくなる可能性があるからです。月々の収支がマイナスの場合にならない限り、貯蓄からまとめて返済することを検討する必要はないでしょう。
父親は最愛の娘のことを思って「借金のある男性との結婚は反対」と言われています。親として、子の将来のことを考えるのは当然でしょう。
ただし、Uさんも彼女と幸せな家庭を築きたいという強い思いがあります。
そこでUさんは。下記の3点について資料を用いて説明することで、彼女の父親に結婚を認めてもらうことができました。
Uさんの家計収支が月々プラスであること(家計簿) 突発的な出費がなければ年間70万円ほどの貯蓄ができること(年間シミュレーション) 奨学金の残りは貯蓄からいつでも一括返済できること(資産一覧表)Uさんはこれまで家計簿をつけたことがありませんでした。そのため、家計簿作成のため領収書などを集めるのに少し時間がかかったものの、目に見える数字として資料を作成して、父親に提示することができました。そしてこのUさんの行動を通して、Uさんのまじめさと熱意が伝わったこともあり、現在では父親と良好な関係だそうです。“奨学金=悪”ではない…大切なのことは「制度を理解して有効活用すること」奨学金の返済は、奨学金を利用していない人に比べると負担ではありますが、通常の教育ローンなどと比べても金利は低く、月々の返済は1~2万円ほどです。仕事をしていれば返済できない金額ではありません。高卒と大卒では、生涯年収の差は数千万単位に開きます。目先の負担を考えて「奨学金を借りるくらいなら大学に行かないほうがいい」といった考えは損でしょう。また、就職後なんらかの理由で収入が減った場合には、日本学生支援機構に相談することで返済額の減額や返済を待ってもらうことができる場合があります。家計が苦しくなったときには、奨学金を滞納してしまう前に専門家に相談しましょう。借金や投資など「お金のこと」に関しては、ついイメージで判断してしまう・されてしまうこともあります。しかし、だからこそしっかりと情報収集をおこない、自分の人生にとって有益な制度や仕組みがあれば有効活用していくことが大切です。武田 拓也株式会社FAMORE代表取締役
Uさんの家計収支が月々プラスであること(家計簿)
突発的な出費がなければ年間70万円ほどの貯蓄ができること(年間シミュレーション)
奨学金の残りは貯蓄からいつでも一括返済できること(資産一覧表)
Uさんはこれまで家計簿をつけたことがありませんでした。そのため、家計簿作成のため領収書などを集めるのに少し時間がかかったものの、目に見える数字として資料を作成して、父親に提示することができました。そしてこのUさんの行動を通して、Uさんのまじめさと熱意が伝わったこともあり、現在では父親と良好な関係だそうです。
奨学金の返済は、奨学金を利用していない人に比べると負担ではありますが、通常の教育ローンなどと比べても金利は低く、月々の返済は1~2万円ほどです。仕事をしていれば返済できない金額ではありません。
高卒と大卒では、生涯年収の差は数千万単位に開きます。目先の負担を考えて「奨学金を借りるくらいなら大学に行かないほうがいい」といった考えは損でしょう。
また、就職後なんらかの理由で収入が減った場合には、日本学生支援機構に相談することで返済額の減額や返済を待ってもらうことができる場合があります。
家計が苦しくなったときには、奨学金を滞納してしまう前に専門家に相談しましょう。
借金や投資など「お金のこと」に関しては、ついイメージで判断してしまう・されてしまうこともあります。しかし、だからこそしっかりと情報収集をおこない、自分の人生にとって有益な制度や仕組みがあれば有効活用していくことが大切です。
武田 拓也
株式会社FAMORE
代表取締役