焼肉食べ放題店『焼肉きんぐ』には、「焼肉ポリス」という肉に熟知した店員がいる。客席をまわって焼き方や食べ方を指南し、いわば“おせっかい”を焼いてくれるわけだが、そんな「焼肉ポリス」が接客中に「こうすればもっと美味しくなるのに……もったいない!」と思うのはどのような時なのか。 今回は、より美味しく焼肉を楽しむためのポイントを聞いた。
◆せっかくの焼肉も「残念な焼き方」ではもったいない!
話を聞いた香取和樹氏は、「焼肉ポリス」を教育する立場。焼肉きんぐにいる約1万5000人のスタッフの中でも200名程度しかおらず、厳しい試験を通った精鋭の「おせっかいマスター」でもある。 そんな香取氏が考える「残念な焼き方」とは? 話を聞こうとすると、まず香取氏はこう前置きする。 「そもそも味というのは人それぞれの好みなので、“美味しい/美味しくない”は、その人にしかわからない感覚です。いちばんやってはいけないのは“押し売り”だと思うんです。
前提として、私は接客時にも『絶対にこれが美味しいから!』というよりも、『こちらがおすすめですよ!』というスタンスです。今回もよりお肉を美味しく食べるための“おすすめ”っていう観点で聞いてくださいね」(香取氏、以下同)
◆「火が燃え上がっても火力は下げない!」
香取氏によると、焼肉屋で多くの人がやってしまいがちな「勘違い」があるという。 「家でやる焼肉とお店の焼肉で大きく異なるのは“火力”です。家のホットプレートの温度は煙が出ないように200℃ぐらいまでしか上がらないのですが、お店の網は油が下に落ちるようになっているので煙が出ず、より高い温度で熱することができるので、肉がパリッと仕上がるんです」
網の下にある「熱盤」の中央部分には穴が開いており、これのおかげで高温になる仕組みだ。高温にこだわる理由は、「肉は高温で焼くのが美味しいから」なのだとか。 「肉は高温で焼くのが美味しいのですが、火が燃えあがった時に『肉が焦げそう』『火が強すぎるのかも』と弱火にしてしまう方が多いんです。実は火が上がるのは温度が高すぎるのが原因ではなく、油が燃えているだけ。肉から出た油が熱盤に当たることで一瞬火が出て、その火が網のコゲに燃えうつったりして燃え上っているように見えているのです」
そこで慌てて火力を弱めても火は消えないうえ、焼いている途中だった肉の美味しさも半減してしまうという。 「火が出てきたら焼いているお肉を網の外側に寄せてください。そうすれば肉から出た油は下の水が溜まっている部分に落ちるので、それ以上は火が出なくなります。そして、火が収まったら店員を呼んで網を交換してもらいましょう」
◆ホルモンは弱火、赤っぽい肉は強火 極力火力を落とさない方が肉は美味しくなるため、火が燃え上がっても慌てない。
ただ、弱火で焼いた方が美味しくなる肉もあるという。 「ホルモンは強火で焼くと、中まで火が通る前に周りが焦げちゃうので、弱火でじっくりと焼きましょう。強火がおすすめなのは赤っぽい肉、と覚えておくといいですね。赤身の肉は強火で一気に焼き色をつけると良いと思います」

逆に肩のバラ肉のようにコラーゲンを多く含む肉、脂身の多い肉は熱をしっかり通すことによって柔らかくなるのだそう。 ◆肉をまとめて大量に焼くのは残念…
ここからは、意外とやりがちだが、残念な行動。大人数で焼肉店に行くと、一気に焼いてしまおうとお皿から網へザーッと乗せてしまうこともあるが……。 「一度にたくさんのお肉を網に乗せてしまうと、一気に焼きあがっちゃいますよね。すると、すべてのお肉を食べるまでに時間がかかってしまいます。焼きたてを食べるのが焼肉の醍醐味なので、少しもったいないと思います」 焼きあがった肉を皿の上に置いて“キープ”状態にしておくだろうが、これでは肉が冷えてしまうという。
「せっかく溶けてとろっとした油が、冷えるとかたく戻っちゃうんです。焼く際にはタンのようにサッと焼いて食べる系のお肉と、カルビのようにじっくり焼いて食べる系のお肉を、人数×1~2枚ずつくらい焼いていくのがちょうどいいと思います。
網の真ん中にはサッと焼く系、外側には時間がかかるじっくり焼いて食べる系のお肉を置く。焼けたら1枚ずつお皿に乗せて食べるのを繰り返すのがベストです」 とはいえ、焼肉きんぐのような「食べ放題」の店では、一度に大量の肉を焼いた状態で会話に夢中になっている客も多いのでは……?
そういう時は「焼肉ポリス」としてどのように対応するのか。 「お話を楽しんでる時間はかけがえないものだと思いますので、お客様の焼き方を否定することはありません。ポリスとしては、“めっちゃ焦げてるな”という場合は“食べどき”を伝えます。『真ん中だけそろそろよさそうですよ~』『周りのお肉を寄せちゃうと早く焼けますよ~』みたいな感じで、お客様の焼き方で最も美味しいタイミングを逃さないように声をかけてますね」 焼肉の楽しみ方も美味しいと感じる焼き加減も人それぞれだが、肉の特徴に合った焼き方を知っているだけで「美味しい」と感じる確率は上がるかもしれない。
<取材・文・撮影/松本果歩>
―[美味い肉には理由がある]―