遺品整理の現場では、いまの日本人、あるいは日本社会の現実に直面させられる。多くの人が、「最期は一人で死んでいく」という現実だ。いま孤独死・自殺の現場では何が起こっているのか。遺品整理業者が、日本人の知らない遺品整理の実情を克明に記した『遺品は語る』(赤澤健一著)より、抜粋してお届けする。
前回記事【「リビングを血の海」にした自殺現場…「遺品のなかから3000枚の宝くじ」ゴミ屋敷で亡くなった60代男性の「最後の希望」】
ゴミ屋敷の多くは、一人暮らしの高齢者が住んでいる。ゴミを片づける体力を失ったり、面倒になったりしたためにゴミ屋敷化するのだ。認知症との関連を指摘する専門家もいるようだ。
だが、一人暮らしではなく、ご高齢の母親と四〇代の娘さんが一緒に住んでいるのにゴミ屋敷となった案件を経験したこともある。
ADHDという発達障害がある。注意欠陥多動性障害といって、忘れ物が多かったり、衝動的で落ち着けなかったりといった症状を示す。この障害のためにものを片づけられなくなってしまった娘さんが原因の案件だった。
お二人から依頼を受け、話を聞いてみると、娘さんは若いころからADHDのため片づけができず、お母さんが元気なうちは片づけをしてくれていた。ところが、お母さんが高齢化して、掃除や片づけができなくなってしまったのだという。
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見積もりに伺うと、古い家だが一戸建てで、屋内のみならず廊下や玄関まで、腰の高さのゴミに埋め尽くされていた。悪臭もひどく、ハエやゴキブリも大量発生している。
そんな中で生活すること自体が危険だ。早急にゴミを片づける必要がある。
ゴミ屋敷で恐いのは、ゴミのために転倒が多くなることだ。それでケガをすることもあれば、打ちどころが悪くて死亡することさえある。
迅速に処理する必要がある一方で、ゴミ屋敷の案件では作業量自体も多くなりがちだ。たとえば、この案件のようなケースでは、大量のゴミを運び出す以外に、部屋を清掃し、薬剤で消毒し、さらにゴキブリなど害虫を駆除するといった追加作業が欠かせない。
事実、比較的小さな家だったが、ゴキブリが壁の隙間にまで入り込んでしまっていた。徹底的に駆除しなければ、繁殖してまた大量発生することになる。ゴミ屋敷では、ほかにも配水管など配管の隙間にまでゴキブリが入り込んでいるのが普通だ。
もちろんこれらは、私どもが遭遇した中でもかなり困難な事例であることは確かだ。しかし、レアケースというわけでもない。なにしろいまや、こうした事例が全件数の一割以上を占めているのだから。
また、これほど極端ではないにしても、一般的な遺品整理でさえ、故人の家からは大量の廃棄物が出るものだ。その量は、たとえばマンションの2DK、五〇平方メートルくらいで四五リットルのゴミ袋一二〇個分くらい。二トントラックで運ぶと三台は必要になる。
一戸建てだともっと多く、3LDK、八〇平方メートルくらいの小さな家でもゴミ袋二〇〇個分、二トントラック五台分以上になるのが普通だ。つまり、私たちはみな、それだけのものに囲まれて生活しているということになる。
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住人が亡くなられるとそれらは廃棄物、つまりゴミとなる。「ゴミ屋敷は極端なケースであって、自分とは無関係」と、一般の方は楽観しているかもしれないが、そうとばかりはいっていられない。見方によれば、誰でも未来のゴミを大量に所有しているともいえる。
こうした現場で感じるのは、身の回りを片づけて亡くなられる方や、あるいは亡くなられた故人の家を、ご家族の方々が上手に片づけることができているケースは実際にはとても少ないということだ。一時期「お片づけ」がブームになり、いまでもマスコミでそうした記事や情報を目にするが、その割には身辺をきれいに保って亡くなられていく人はそう多くはない。
むしろ遺品整理の現実を目の当たりにするにつけ、誰もが、いつでもこんな事態に直面するリスクを抱えているという思いをいっそう強くする。そもそも、多くの人が問題なく片づけることができるのなら、私ども「遺品整理サービス」になど、そんなにたくさんの依頼が来るはずがないのだから。
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