高校バレーの名門・西日本短期大学附属高校。同校を4度、春高バレーに導いたI監督に使途不明金などの疑惑が浮上している。前編「『お前は発達障害だ』春高バレー4度出場の”名監督”にくすぶる『壮絶ハラスメント&使途不明金』」に続き、I監督の疑惑の数々を明かす。
使途不明金の行方をめぐり、保護者らがI監督を疑うようになった別の理由も存在する。西短高の関係者が明かす。
「I監督は過去に、懇意にしている八女市内のスポーツ用品店に架空の領収書を作らせたり、バレー部の遠征時の宿泊代金を学校に請求したりということを繰り返していたのです。遠征費用に関しては、保護者会や学校が負担するので、I監督が個人でたて替えることはあり得ない。しかも、学校側も、5年ほど前にこうした金銭問題を把握していて、弁護士に依頼して調査も行っている。その結果、I監督による不正請求は数百万円に上ることがわかりました。
しかし、学校側は、ちょうど定年退職するタイミングだったI監督の退職金を支払わない代わりに、過去の不正請求を問題視しないことにした。そのうえでI監督は定年後も学校に残り、女子バレー部を指導することになったのです。学校側も、有名指導者の金銭問題というスキャンダルを隠そうとしたのではないでしょうか」
保護者会関係者によると、I監督の金銭問題が発覚した5年ほど前、学校側は、保護者会の一部役員に、口頭で調査結果を報告したという。学校側からの説明を受けたとされる当時の保護者会長で、現在、同部のOG会長をしているH氏に話を聞くと、「I監督による経費の不正請求に関しては聞いたことがない。学校側からも説明を受けたことはありません」と答えた。
一方、I監督に対して、架空領収書を発行したとされるスポーツ用品店の関係者は次のように話した。
「西短高に営業を行っていた担当者は、2年ほど前に自己都合で退職している。現在は西短高とは取引がありません。当時の担当者が、架空領収書に関して、学校側から事情を聞かれていたかどうかもわかりません」
I監督とカネをめぐっては、ほかにも次のような証言がある。
「I監督は10台近い乗用車を所有していて、それらを自宅近くの空き地に駐車していました。I監督がこれらの乗用車を日替わりで乗りかえて学校まで運転していた姿は、保護者や生徒ら多くの関係者が目撃しています」(保護者)
バレー部の複数の関係者の話を総合すると、I監督が所有していたとみられる乗用車は、いずれもトヨタのワンボックスカーである黒色の「ノア」と銀色の「ノア」、黒色の「ハイエース」、黒色の「ボクシー」があった。また、ホンダの軽ワンボックスの「バモス」やダイハツの軽乗用車「ムーヴ」のほか、軽トラックやマイクロバスもあった。ただ、I監督の退任後、これらの乗用車はすべて、駐車していた空き地では確認できなくなったという。
定年まで同校の保健体育の一教員だったI監督が、一度にこれだけの乗用車を保有できたのは、給料以外の収入があったからではないのか。
保護者らがI監督の自宅を訪れたという前述の場面で、そのあたりの事情についても尋ねるやりとりがあった。保護者たちがI監督に対して「(所得税の)税金はきちんと納めているんですか」と問いただすと、I監督は次のように返答したという。
「そんな個人的なことを、あなたたちに言われる筋合いはない」
これらの疑惑に対して、I監督はどう答えるのか。8月20日、I監督の携帯電話を鳴らした。
――FRIDAYです。
「はい」
――女子バレー部の寮費に関して、領収書のない使途不明金が1826万円あまりあったと保護者に報告しています。このお金の具体的な支出内容について説明を聞きたい。
「いや、これは生活費として、1日3食ご飯を食べてですね、光熱費も全部入れてですね、1カ月4万円、1日1300円をめどということで。税理士さんの方でも、なにも問題ないということで提出させてもらっています。
子どもたちにはご飯食べさせてないわけじゃないんで。とってない(保存していない)レシートとか、欠品しとる領収書もあったりとか。たとえば、お米とかは農家さんから直接買ったりとかしとるもんだからですね、領収書とかも出なかったりとかっていうのも実際あるんですね」
――税理士が調査報告書を作っているということですが、領収書がなく、裏づけがない部分はI監督へのヒアリングによって推測したということでは、客観性が確保されていないのでは。
「いや、金額がですね、大きな金額であるのであれば、これはいろいろ問題があるかもわからないんですけれども。結局、1日1300円で生活させとるもんだからですね。とりあえず、なんも問題ありませんということで」
――保護者が寮費を支払った29カ月間で、積み重なった領収書のない支出は1800万円ほどになる。これは大金ではないでしょうか。
「だからそのお金をですね、まるまる着服しているというんであれば、問題になると思うんですけど。これは、生徒たちが(西短高に)就学する前から『(寮生活をするにあたって)これだけかかりますよ』ということで、ちゃんと話していますし、保護者にもそういう話をして、なにも問題ないということで話はもう終わっているんですけれど」
――では、I監督は、寮費を私的に使ったことはない?
「もちろん、そうですよ」
――自宅近くの空き地に、10台くらいの乗用車を保有されていると聞いた。これらの車はどうやって購入したんでしょうか。
「いやいや、10台もないですよ。バレー部の車両が多いときで3台くらいあって、自分が使っていた軽四のトラックと乗用車、家内の車で6、7台ですかね」
――乗用車の購入の原資は、教員としての給料ですか。
「もちろんそうだし、自分の両親からも相当な援助を受けていましたので」
――5年ほど前、学校側に経費などを不正に請求したことが問題になったとも聞いています。
「全然、問題ないですよ(経費不正請求の疑惑は存在していない)。(学校側の)会計監査も終わって、すべて終わっている部分なので。なにかあったら、その都度、指摘されているはずなんですけれど(実際は学校側からの指摘はない)」
――学校側は、不正請求によって支払った経費分と、I監督に支払う予定だった退職金を相殺することで、不問に付すことにしたとも聞いた。
「いや、違います、それは」
――I監督は、退職金を受けとった?
「受けとりました」
――全額ですか?
「そうです」
西短高には文書で、寮費として集めた金銭の一部が使途不明になっていること、I監督らへの聴取の結果、I監督が過去に経費を不正請求していた疑惑などについて事実関係の確認を求めたが、「いただいた質問状についてはお答えしません」との回答だった。
I監督のこれまでの言動について、ある保護者が振り返る。
「思い返せば、I監督による部活動や寮の運営には不審な点が多かった。保護者は寮に近づくことを許されていないし、携帯電話の所持を禁止されている子どもたちに対して、保護者から連絡する手段もありませんでした。そのうえ保護者は、I監督の許可がないかぎり、普段の練習も遠征も公式戦でさえも観戦することはできません。そうやって保護者を子どもたちから遠ざける一方で、寮費の支払いは現金でしか受けつけていませんでした」
なによりも最大の犠牲者は女子バレー部の生徒たちだった。
「29人分の1日の食費が1万円では、育ち盛りの子どもたちに十分な食事を用意することはできません。これはあとから聞いてわかったことですが、寮では食材が足りず、朝食のおかずがきゅうり1本のときもあったし、油揚げ1枚だけ、卵1個だけのときもあったようです。一方で、白米に関しては、OGの農家から寮費とは別に購入していたようで潤沢にあった。練習後のお腹を空かせた彼女たちは白米だけはめいっぱい食べることができたので、アスリートなのに体脂肪ばかり増えていった。こんなバランスの悪い栄養状態で、どうやって試合に勝つことができるのでしょうか」(同前)
昨年9月末にI監督らが退任したこともあり、退部を申し出ていた3年生5人のうち4人はその意向を撤回。10月、春高バレーの予選に臨んだが、かつての有力チームは県大会1回戦で敗退した。