殺人的な猛暑の影響で熱中症による救急搬送が相次ぐなか、強い味方であり救世主になってくれるはずのクーラーが体をむしばむケースがある。愛知県在住のSさん(55才)の母親が亡くなったのは、気温がグッと上がった今年6月のことだった。
【一覧表】クーラーが原因で起こるさまざまな症状「母は母屋に、私たち一家は離れに住んで、敷地内別居のような形で暮らしていました。3日ほど母を残して家族で家を空けることになり、戻ってすぐに母屋に顔を出したら母が冷たくなっていたんです。

クーラーがつけっぱなしになっていたので、熱中症ではなかった。ただ、医師から“脱水症状です”と言われたのには驚きました。熱中症が怖いからケチケチしないでクーラーを使ってと口酸っぱく言ってきたことが、まさか仇となるなんて……」 Sさんは絶句するが、イシハラクリニック副院長の石原新菜さんによれば、クーラーが原因で脱水症状になることは充分に考えられるという。「クーラーから出る冷たい風は、水分が少ない乾燥した空気です。つけっぱなしにしていると無意識のうちに脱水症状を引き起こす可能性がある。特に高齢者は水分摂取を怠ってしまうことが多いので注意が必要です」(石原さん) クーラーが死の引き金になる要素は脱水症状だけではない。石原さんが続ける。「特に危険なのは長時間クーラーの風に当たることで生じる体の“冷えすぎ”です。ある一定の温度まで冷えると、体はそれ以上体温を奪われないように血管を収縮させます。しかし急激な血圧変動は血流を悪化させ、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす場合もある。冬でいうヒートショックの逆バージョンです」 夫がクーラーの設定温度を低くしたことが原因で体調不良に陥ったのは、都内在住のAさん(54才)。昨年夏の出来事を悔しそうに振り返る。「春に定年退職した夫が、家で一日中クーラーをつけっぱなしにしていました。夫は極度の暑がりで、設定温度は20~22℃。長袖のシャツを羽織ったり、靴下を履いたりしても、寒くて寒くてたまらない。買い物などの用事で時折外出していましたが、外と家との温度差で体温調節がうまくいかず、猛暑のなかで鳥肌が立ったり、キンキンに冷えた部屋にいるのに汗がにじんだりするようになりました。 そのうちに片頭痛や肩こり、不眠にも悩まされるようになったため病院を受診したところ、自律神経失調症だと言われました。“クーラーの使いすぎ”という医師の言葉も夫に伝えましたが、夫は“更年期障害なんじゃないの?”と言って気に留めず、設定温度を下げてくれませんでした」 そのうちAさんの症状はますます悪化。食欲もなくなり、体が鉛のように重くなり、布団から出られない状態に陥った。「ついには“死にたい”と思い詰めるまでになっていました。たまたま実家に戻っていた娘に病院に連れていってもらうと、うつ病と診断されました。今年の夏は夫と別居し、実家で適温のなか過ごしています」(Aさん) 石原さんによれば、クーラーで室内を冷やしすぎると、外気との温度差で自律神経が乱れるという。「暑いとき、体は熱を外に放出させて体温を下げるために血管を拡張させて汗をかく。このとき、副交感神経が優位になります。一方、寒いときには血管を収縮させて体温の低下を防ぐために交感神経が優位になる。そのため外気と室内の温度差が激しいと血管の収縮と拡張が頻繁に行われ、その結果、自律神経が乱れてしまいます」(石原さん・以下同) 自律神経が乱れると血液循環のコントロールが正常に働かなくなり、血行不良を引き起こす。それによって冷えやだるさ、疲労感、肩こり、さらには胃腸など内臓の不調が生じる。これがいわゆる「冷房病」「クーラー病」と呼ばれる症状だ。「自律神経はホルモンバランスや免疫などもコントロールしているため、そうした不調に加え、風邪などの病気にかかりやすくなるうえ、不眠や生理不順などの原因にもなります」※女性セブン2023年8月10日号
「母は母屋に、私たち一家は離れに住んで、敷地内別居のような形で暮らしていました。3日ほど母を残して家族で家を空けることになり、戻ってすぐに母屋に顔を出したら母が冷たくなっていたんです。
クーラーがつけっぱなしになっていたので、熱中症ではなかった。ただ、医師から“脱水症状です”と言われたのには驚きました。熱中症が怖いからケチケチしないでクーラーを使ってと口酸っぱく言ってきたことが、まさか仇となるなんて……」
Sさんは絶句するが、イシハラクリニック副院長の石原新菜さんによれば、クーラーが原因で脱水症状になることは充分に考えられるという。
「クーラーから出る冷たい風は、水分が少ない乾燥した空気です。つけっぱなしにしていると無意識のうちに脱水症状を引き起こす可能性がある。特に高齢者は水分摂取を怠ってしまうことが多いので注意が必要です」(石原さん)
クーラーが死の引き金になる要素は脱水症状だけではない。石原さんが続ける。
「特に危険なのは長時間クーラーの風に当たることで生じる体の“冷えすぎ”です。ある一定の温度まで冷えると、体はそれ以上体温を奪われないように血管を収縮させます。しかし急激な血圧変動は血流を悪化させ、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす場合もある。冬でいうヒートショックの逆バージョンです」
夫がクーラーの設定温度を低くしたことが原因で体調不良に陥ったのは、都内在住のAさん(54才)。昨年夏の出来事を悔しそうに振り返る。
「春に定年退職した夫が、家で一日中クーラーをつけっぱなしにしていました。夫は極度の暑がりで、設定温度は20~22℃。長袖のシャツを羽織ったり、靴下を履いたりしても、寒くて寒くてたまらない。買い物などの用事で時折外出していましたが、外と家との温度差で体温調節がうまくいかず、猛暑のなかで鳥肌が立ったり、キンキンに冷えた部屋にいるのに汗がにじんだりするようになりました。
そのうちに片頭痛や肩こり、不眠にも悩まされるようになったため病院を受診したところ、自律神経失調症だと言われました。“クーラーの使いすぎ”という医師の言葉も夫に伝えましたが、夫は“更年期障害なんじゃないの?”と言って気に留めず、設定温度を下げてくれませんでした」
そのうちAさんの症状はますます悪化。食欲もなくなり、体が鉛のように重くなり、布団から出られない状態に陥った。
「ついには“死にたい”と思い詰めるまでになっていました。たまたま実家に戻っていた娘に病院に連れていってもらうと、うつ病と診断されました。今年の夏は夫と別居し、実家で適温のなか過ごしています」(Aさん)
石原さんによれば、クーラーで室内を冷やしすぎると、外気との温度差で自律神経が乱れるという。
「暑いとき、体は熱を外に放出させて体温を下げるために血管を拡張させて汗をかく。このとき、副交感神経が優位になります。一方、寒いときには血管を収縮させて体温の低下を防ぐために交感神経が優位になる。そのため外気と室内の温度差が激しいと血管の収縮と拡張が頻繁に行われ、その結果、自律神経が乱れてしまいます」(石原さん・以下同)
自律神経が乱れると血液循環のコントロールが正常に働かなくなり、血行不良を引き起こす。それによって冷えやだるさ、疲労感、肩こり、さらには胃腸など内臓の不調が生じる。これがいわゆる「冷房病」「クーラー病」と呼ばれる症状だ。
「自律神経はホルモンバランスや免疫などもコントロールしているため、そうした不調に加え、風邪などの病気にかかりやすくなるうえ、不眠や生理不順などの原因にもなります」
※女性セブン2023年8月10日号