世界最大級のカルデラを有する熊本県阿蘇山周辺の景観が激変し、物議をかもしている。阿蘇郡高森町でペンションを営む、福富悟さんも不安を隠せない。
「山の上が太陽光パネルで真っ黒になり、阿蘇の大自然が所々異様な景色に変わってしまいました。この辺りの地盤には火山灰が含まれているので崩れやすく、’16年の熊本地震ではあちこちの山肌が茶色になった。このまま乱開発を認めたら、土砂崩れが起きやすくなるのでは……」
現在、阿蘇の多くの地域が大規模太陽光発電施設(メガソーラー)で覆われている。最大の地域は東京ドーム25個分で、約20万枚もの巨大パネルが並ぶのだ。
「’12年に国の再生可能エネルギー固定価格買取制度が始まると、設置計画が次々と出始めた。『阿蘇くじゅう国立公園』の周辺10ヵ所ほどの場所に、メガソーラーができています」(地元紙記者)
確かに再生可能エネルギーの創出は重要だろう。メガソーラーの候補地は、使われなくなった牧草地などの遊休地帯。事業者に貸せば地主に賃料が入り、草刈りの手間も省けるなどメリットがある。
一方で阿蘇は、年間降水量が全国平均の倍近い多雨地域だ。前出の福富さんが不安視するように、メガソーラーの設置で土砂災害の危険が高まる。
景観上も大きな変化をもたらすことから、熊本県知事は危惧を表明。熊本県文化企画・世界遺産推進課の担当者が話す。
「阿蘇は世界文化遺産への登録を目指しているため、展望地などから見える場所にはメガソーラーを設置しないよう事業者にお願いしています」
環境省も国立公園の範囲を広げる方向で見直しを進める。同省の阿蘇くじゅう国立公園管理事務所の担当者が語る。
「国立公園エリアに接する範囲でメガソーラーがいくつか作られているため、新規設置を抑制することなどが目的です。地権者との調整が終わる来年度中には、具体的な内容を固めます」
阿蘇にメガソーラーを設置する事業者の一つ『ジャパン・リニューアブル・エナジー』は、どう考えているのだろうか。
「発電所の外周に林帯を設けて周囲と隔離するなど環境との調和を図っています。事業推進にあたり地域社会との共存や関係法令の順守が大前提だと考えており、弊社の事業をご理解いただいたうえで事業を進めております」(広報CSR部)
阿蘇の大地を覆う無数の巨大太陽光パネル――。適切に設置しないと、景観破壊や大規模な自然災害を招きかねない。
【FRIDAY】2023年7月7日号より
取材・文:形山昌由(ジャーナリスト)