21歳の女性が、なぜ歌舞伎町で街娼として働くようになったのか……そこには売上のために客に高額の借金を背負わせるホストの魔の手があった。
《特別グラビア》立ちんぼで「毎月350万円」を稼ぐ19歳女性
2022年夏ごろから増え始めた10代後半から20代前半の街娼たちの実情を、ノンフィクションライターの高木瑞穂氏の新刊『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
歌舞伎町で街娼として働く梨花(仮名、21歳)さん。彼女が現在に至るまでの過去を追った(写真:筆者提供)
◆◆◆
ホストクラブには、「売り掛け」と呼ばれる制度がある。シャンパンなど注文して高額になった飲食の代金を、返済期日を取り決めていったんは猶予してもらい、あとから支払う方法だ。銀座の高級クラブなどでは昔から同様の制度が優良客への“サービス”としてあり、それは企業が接待に使った毎月の支払いをまとめて後払いするためのものだったが、ホストクラブでは個人の女性客に背負わせる形に変化した。
この売り掛けにホストで遊ぶ女性たちが期待したのは、いまは手持ちのカネがないが1ヶ月後には入金の見込みがあるといったように、返済能力があるからこそ、この制度を利用することだったはずだ。だが、現実に担当と客との間で横行しているのは「半強制的な借金」。
これでは飲食店の“サービス”ではなく、現段階では返済能力がないにもかかわらず、それでも貸し付ける闇金のやり口だ。事実、ホストの口車にのせられ意図せず売り掛けしてしまい、やむを得ず学生やOLから風俗業界へと転じる女性も少なくない。
確かに売り掛けは、返済期日までに女性がカネを用意できなかったり女性に飛ばれたりした場合、ホスト個人にそっくりそのまま店への借金としてふりかかってしまう諸刃なものではある。しかし闇金業者がそうであるように、ある程度の容姿スペックの女性であればカネを作ってくることなどわけないとホストは考えている。斡旋とまでは言えないかもしれないが、地方のデリヘルなどに少しの間「出稼ぎ」に行くように仕向け、そこでみっちり働き大金を持ってこさせたりするのが、売り掛け回収の常套手段だ。
こうした知識があったため、僕はホストに対してあまり良いイメージがない。しかし現状は、ホストにハマって多額の借金を作り、身を粉にして働く女性たちを「ホス狂い」と括り、まつりあげている。
ここで、改めて「ホス狂い」について説明したい。
「ホス狂い」とは、文字通りホストに狂ってしまった――ハマってしまった女性のことを指す。“狂う”=常軌を逸するまでに、となるわけで、かわいそうな存在を連想しがちだが――いや、実際の状況はどう見積もっても不幸であるとしても――いまや悲壮感などいっさい見せず「私はホス狂いである」と自称して、ホス狂いになった経緯や担当に使った金額の誇示やその矜持、愛情、憎しみ、不満、不安などの内情をSNSなどでひけらかし、共感を得たり優越感に浸るなどして承認欲求を満たすのがトレンドだ。
その「ホス狂い」の世界を描いた漫画に、『明日、私は誰かのカノジョ』(をのひなお・小学館)がある。累計500万部超のベストセラーになりテレビドラマ化までされるなど、ホス狂いだけではなく一般女性も巻き込み大きなムーブメントになっている。
つまりいま、幸か不幸かホストという職業がマスコミでもてはやされている。彼女たちは自ら望んでホストに大金を使っている。それで幸せ。そうホス狂いを評した意見があるにしても、売り掛けの問題をただすどころか目をつむるようなふるまいは、はなはだ疑問だ。 抱いていた悪印象の輪郭がはっきりとしたのは21歳の街娼・梨花(仮名)にインタビューしたなかでのことだった。幼い顔立ちで、体は肉感的。短めの金髪で、白いブラウスに黒の短パン姿には、美容系の専門学生にいそうな雰囲気がある。 東京の路上売春の“現在地”=新宿歌舞伎町ハイジア・大久保公園外周(通称“交縁”)の状況を簡単に整理しておこう。これまで30代から60代の比較的、歴が長い古株の街娼たちが中心だったが、2022年夏ごろからは10代後半から20代前半の新顔たちが大挙して立つという問題がクローズアップされつつあった。どういう経緯かまでは窺い知れないが、職安通り側に立つ古株たちと区別されるように新顔たちは大久保病院側を好んだ。この棲み分けは不思議といまのいままで続いている(2023年6月現在)。歌舞伎町の街娼として働く21歳女性 2022年7月。平日の昼間――。気怠そうな顔をして大久保病院側に立っていた新顔の梨花は、約半年前にホストにハマり売り掛けをしてしまい、借金返済のためここに流れ着いた。 そう話した直後、梨花は苦笑しながら言った。「まあ、よくあるパターンだよね」 これまでの取材経験からすれば、確かによくある話である。そして僕が「またか」と顔をしかめたのも事実である。だが、先に記したヤクザとホストの色濃い関係を補強するように、梨花には借金返済のなかでヤクザに拉致られほだされの経験があったのだ。 梨花は昼過ぎから夜9時ごろまでほぼ毎日路上に立つ街娼で、ハイジアの地下1階にあるネットカフェ『アプレシオ』暮らしをしていた。実家は都下・町田の3Kアパートで、親はふたりとも健在なうえ、子沢山でもない。 母26歳、父27歳のときに生まれた一人っ子だ。だが梨花の父親はコンビニ店員などのアルバイトを転々とする、ロクに定職にも就かず消費者金融で借金を重ねるパチンコ三昧の男で、その生活苦から梨花は幼稚園にも保育園にも通わせてもらえなかった。ついに梨花が小2のころには生活保護を受けるまでに。生まれてこのかた、ずっと貧乏暮らしを強いられてきた。「もともと私は病気と障害を持っている」「もともと私は病気と障害を持っている」と梨花は話した。若干の斜視と、軽度の知的障害である。一見すると梨花は、斜視も言われるまで僕には気づけなかったし、質問に対する受け答えもハキハキしていたしで、貧乏暮らし以外はどこにでもいそうな21歳に見えた。 だが、勉強がすごく遅れていて、小2より普通学級から離れて特別支援学級で学校生活を送るような子どもだったと話す。とりあえず高校までは行かせてもらったが、入学したのはやはり町田市内の特別支援学校で、それもほとんど出席しなかった。いわゆる不登校だった。 梨花には同じ中学校に、中3の終わりごろから付き合う同い年の彼氏がいた。梨花はその彼氏のことが本当に好きで、ゆくゆくは結婚を考えていたという。しかし別々の高校に進学し、ふたりは離れ離れになると、梨花はあっさりフラれてしまう。そして失恋をきっかけに、精神を病みリストカットを繰り返すようになった。「この人がいないなら私死ぬ、みたいな」と梨花が話したように、精神安定剤の大量摂取、いわゆるODもしたが、ついに死ねなかったという。 それだけ本気の恋だったが、時がたてばなんとやらで、アルバイトで貯めたカネで金髪に染めたりピアスをあけたりしてそれなりに楽しい高校生活を過ごした。「もう完全にオトコ依存症。恋愛してないともうだめ、っていう」 相手がカラダ目当てであっても、一緒にいてくれさえすればそれでいい――。タガがはずれた梨花は、手当たり次第に男漁りをしたことで、若いカラダという武器を使えば男は優しくしてくれることを知ったのである。 高校卒業から1年半ほどして歌舞伎町で遊ぶようになった19歳の梨花は出会いカフェの存在を知り、自然、周囲に流されるようにして売春を覚えた。コンドームは着用しないが膣外射精をしてもらう“生外”を条件に、1回1万5千円から2万円で若いカラダを売った。同時にマッチングアプリでの男漁りにも目覚め、そこでひとりの男と知り合い交際する。 ホストの集客方法は2013年に施行された『新宿区公共の場所における客引き行為等の防止に関する条例』により、ここ数年で路上でのキャッチからツイッターやインスタグラム、マッチングアプリなどのSNSに様変わりした。それを知ってか知らずか、その彼氏が「たまたま売れないホストだった」と梨花は話した。 単にそのホストから「本営」を掛けられただけではないのか。本営とは、ホストが客にしたい女性に対して「本命の彼女」を装う営業方法で、表向きは恋愛感情があるような態度を取っているに過ぎない。つまりは本命の彼氏のように振る舞ってはいるが、店で“彼氏”を指名してそれなりのカネを使わなければ関係は続けてくれないという利害をともなう。 梨花はやはり、ほどなくその“彼氏”に「ちょっと来てよ」と店に誘われた。それも一回だけでなく頻繁にだ。月平均35万ほど出会いカフェでの売春で稼いでいたが、気づけばそのほとんどを“彼氏”が働く店で使うようになっていた。 果たしてそれは本当の“彼氏”なのか。それを問うと、「いや、別に本営でも私は好きだったから」と、愛情と怒りとが交錯したような表情をした。 梨花がこのあと街娼にまでなるストーリーは、マッチングアプリで出会ったときから、すでにそのホストにより描かれていたようだ。「『シャンパンおろして』って言われて、『出稼ぎで稼いでからだったらいいよ』って断った。なのに『イベントだから頼む』って、強引にシャンパンを入れさせられた。私が曖昧な返事をしたのもいけなかったけど、ほぼほぼOKしてない状態だったのに」 結果、梨花は60万円もする高級シャンパンを売り掛けでおろす(ホストクラブではシャンパンを注文することを“おろす”と言う)ハメになる。そのころには出会いカフェでの売春だけでは彼氏の店で遊ぶ生活が追いつかなくなっていた梨花は、出会いカフェの売春仲間から出稼ぎすればまとまったカネが得られることを知り、千葉のデリヘルに3週間、山梨のデリヘルにまた3週間と出稼ぎを繰り返していた。 客入りに対して女の子の数が間に合っていない地方の繁盛店は、客を優先的に付けてくれたり、1日3万円前後の「最低保証金制度」を採用して出稼ぎ嬢を集めている場合も多い。そこで梨花は、次の出稼ぎ先は1日2万5千円の最低保証があること、寮費を3千円引かれても「1日平均6万円くらいは稼げるよ」と店長から言われていることを“彼氏”に話してしまっていた。「裏を使って拉致られた」 “彼氏”が梨花に売り掛けをさせたころは恋に盲目になっていた時期で、梨花は「ホス狂い」に育ちつつあった。“彼氏”からすれば梨花をハメるなど訳なかったことになる。「多少強引でもみんなやっちゃってますね」 客に売り掛けをさせることについて、あるホストはそう話した。 若ければ、カネを回収する方法などいくらでもある――こんなドミノ倒しの悲劇があちこちに拡散している――梨花もそのひとりに過ぎなかったのだろう。――その売り掛けはどうしたの?「そのことをきっかけに、“彼氏”に対して急に冷めちゃって、飛んだ」 “飛ぶ”とは、売り掛けを払わず逃げることを意味している。――どうやって?「名古屋に行った。で、出稼ぎしながらまた名古屋のホストとしばらく遊んで気を紛らわしてた」――逃げ切れたんだ。「ううん。そしたら、名古屋のホストとウチが掛けを飛んだ“彼氏”が実は繋がってて、裏を使って拉致られた」――“裏”って?「ヤクザみたいな人です。で、出稼ぎで稼いだ35万円と、これ以上逃げられないようにスマホとカバンも没収、みたいな。ホストはそこまでやるんだよ。スゲエよ。諦めるホストも多いって聞いて軽い気持ちで飛んだけど、その人はトコトンまで追いかけるタイプだったみたいで」 そこから東京へ戻され、“彼氏”に監視されながら出会いカフェでの売春で残り25万円の借金返済の日々は始まり、いまに至る。公園を知ったのは、やはり出稼ぎを教えてくれた出会いカフェの売春仲間からだった。 25万円などすぐに返せると思っていた。だが出会いカフェでの売春を覚えてから数ヶ月が過ぎていた梨花は、好事家たちからすでに“ベテラン嬢”とみなされていた。 だからというわけではないが、客が思うように取れなくなっていた梨花は、「ならやってみようか、みたいなノリで始めた」と振り返る。 そのころ公園は、街娼の素性や売値を記したある好事家のツイートがバズり、女の子と買春客とで溢れかえっていた。「多い日で4人とか5人とか。(売値は)1(万円)とかイチゴー(1万5千円)とかで。最近は、今日あまり客が付かなそうだなって思ったら、ホテル代込みで1万とかに値下げして、とりあえずネカフェ代やメシ代を確保するとかはあるけど」「デリヘルとかで働くことも考えてはいるよ」――でも、その金額だとその日の暮らしで終わっちゃわない?「まあそうだね。でもメシ代なんてそんなにかからない」――いつも何を食べてるの?「コンビニ弁当かな。お金があるときはネカフェ(アプレシオ)でカツカレーとか注文したりするけど」――ちょっと贅沢にしゃぶしゃぶとか焼肉とか食べないの?「自分のお金では行かない。たまにお客さんに奢ってもらうことはあるけど」――借金は?「2週間くらいで返し終わったよ。夜9時ごろ、“仕事”を終えて泊まってるアプレシオに帰るよね。すると翌日の昼、“彼氏”がアプレシオに来てその日稼いだぶんを回収していく感じで。東京に戻ってネカフェ(インターネットカフェ)暮らしを始めたのは1ヶ月半前のことで、最初はグランカスタマ(ハイジアからほど近いインターネットカフェ)にいたんだけど、なんか店員が男性客と話すなとか急にうるさくなって。それで友達から『アプレ(シオ)のほうが過ごしやすいよ』って聞いて移ってきた感じ」 “うるさくなった”とは、2022年6月11日に写真週刊誌『FRIDAY』が報じた「新宿・歌舞伎町にある『売春ネットカフェ』潜入ルポ!」の記事をさしていた。グランカスタマの個室で「ネットカフェ売春」が横行していることは、もとより広く知られた公然の秘密であったが、同誌は同店の実名を出し、改めてここが売春の温床であることを白日のもとに晒す。 当初、“彼氏”はグランカスタマにカネの回収に来ていた。同誌が実名を出した影響は思いのほか大きく、“彼氏”は買春目的の客と間違われるため店に無断で来れなくなっていたのだ。「仕事って割り切ってやってる」――カラダを売ることに対して、いつごろから“仕事”って割り切れるようになったの?「初めてやったときに思った。好きじゃない人とすることで、感情がわかないことで、『これ、仕事だな』って。なら割り切っちゃおう、って。で、それからずっともう、仕事って割り切ってやってる」――補導やみかじめ料のたぐいは?「ないし、払ってない。払えとも言われたことないよ」――これからも街娼を続けるの?「うーん、デリヘルとかで働くことも考えてはいるよ」(#2に続く)〈《写真あり》立ちんぼで「1日15万円稼ぐ」ことが日課になった“19歳女性の特殊事情”〉へ続く(高木 瑞穂/Webオリジナル(外部転載))
つまりいま、幸か不幸かホストという職業がマスコミでもてはやされている。彼女たちは自ら望んでホストに大金を使っている。それで幸せ。そうホス狂いを評した意見があるにしても、売り掛けの問題をただすどころか目をつむるようなふるまいは、はなはだ疑問だ。
抱いていた悪印象の輪郭がはっきりとしたのは21歳の街娼・梨花(仮名)にインタビューしたなかでのことだった。幼い顔立ちで、体は肉感的。短めの金髪で、白いブラウスに黒の短パン姿には、美容系の専門学生にいそうな雰囲気がある。
東京の路上売春の“現在地”=新宿歌舞伎町ハイジア・大久保公園外周(通称“交縁”)の状況を簡単に整理しておこう。これまで30代から60代の比較的、歴が長い古株の街娼たちが中心だったが、2022年夏ごろからは10代後半から20代前半の新顔たちが大挙して立つという問題がクローズアップされつつあった。どういう経緯かまでは窺い知れないが、職安通り側に立つ古株たちと区別されるように新顔たちは大久保病院側を好んだ。この棲み分けは不思議といまのいままで続いている(2023年6月現在)。
2022年7月。平日の昼間――。気怠そうな顔をして大久保病院側に立っていた新顔の梨花は、約半年前にホストにハマり売り掛けをしてしまい、借金返済のためここに流れ着いた。
そう話した直後、梨花は苦笑しながら言った。
「まあ、よくあるパターンだよね」
これまでの取材経験からすれば、確かによくある話である。そして僕が「またか」と顔をしかめたのも事実である。だが、先に記したヤクザとホストの色濃い関係を補強するように、梨花には借金返済のなかでヤクザに拉致られほだされの経験があったのだ。
梨花は昼過ぎから夜9時ごろまでほぼ毎日路上に立つ街娼で、ハイジアの地下1階にあるネットカフェ『アプレシオ』暮らしをしていた。実家は都下・町田の3Kアパートで、親はふたりとも健在なうえ、子沢山でもない。
母26歳、父27歳のときに生まれた一人っ子だ。だが梨花の父親はコンビニ店員などのアルバイトを転々とする、ロクに定職にも就かず消費者金融で借金を重ねるパチンコ三昧の男で、その生活苦から梨花は幼稚園にも保育園にも通わせてもらえなかった。ついに梨花が小2のころには生活保護を受けるまでに。生まれてこのかた、ずっと貧乏暮らしを強いられてきた。
「もともと私は病気と障害を持っている」と梨花は話した。若干の斜視と、軽度の知的障害である。一見すると梨花は、斜視も言われるまで僕には気づけなかったし、質問に対する受け答えもハキハキしていたしで、貧乏暮らし以外はどこにでもいそうな21歳に見えた。
だが、勉強がすごく遅れていて、小2より普通学級から離れて特別支援学級で学校生活を送るような子どもだったと話す。とりあえず高校までは行かせてもらったが、入学したのはやはり町田市内の特別支援学校で、それもほとんど出席しなかった。いわゆる不登校だった。
梨花には同じ中学校に、中3の終わりごろから付き合う同い年の彼氏がいた。梨花はその彼氏のことが本当に好きで、ゆくゆくは結婚を考えていたという。しかし別々の高校に進学し、ふたりは離れ離れになると、梨花はあっさりフラれてしまう。そして失恋をきっかけに、精神を病みリストカットを繰り返すようになった。「この人がいないなら私死ぬ、みたいな」と梨花が話したように、精神安定剤の大量摂取、いわゆるODもしたが、ついに死ねなかったという。
それだけ本気の恋だったが、時がたてばなんとやらで、アルバイトで貯めたカネで金髪に染めたりピアスをあけたりしてそれなりに楽しい高校生活を過ごした。
「もう完全にオトコ依存症。恋愛してないともうだめ、っていう」
相手がカラダ目当てであっても、一緒にいてくれさえすればそれでいい――。タガがはずれた梨花は、手当たり次第に男漁りをしたことで、若いカラダという武器を使えば男は優しくしてくれることを知ったのである。
高校卒業から1年半ほどして歌舞伎町で遊ぶようになった19歳の梨花は出会いカフェの存在を知り、自然、周囲に流されるようにして売春を覚えた。コンドームは着用しないが膣外射精をしてもらう“生外”を条件に、1回1万5千円から2万円で若いカラダを売った。同時にマッチングアプリでの男漁りにも目覚め、そこでひとりの男と知り合い交際する。
ホストの集客方法は2013年に施行された『新宿区公共の場所における客引き行為等の防止に関する条例』により、ここ数年で路上でのキャッチからツイッターやインスタグラム、マッチングアプリなどのSNSに様変わりした。それを知ってか知らずか、その彼氏が「たまたま売れないホストだった」と梨花は話した。
単にそのホストから「本営」を掛けられただけではないのか。本営とは、ホストが客にしたい女性に対して「本命の彼女」を装う営業方法で、表向きは恋愛感情があるような態度を取っているに過ぎない。つまりは本命の彼氏のように振る舞ってはいるが、店で“彼氏”を指名してそれなりのカネを使わなければ関係は続けてくれないという利害をともなう。
梨花はやはり、ほどなくその“彼氏”に「ちょっと来てよ」と店に誘われた。それも一回だけでなく頻繁にだ。月平均35万ほど出会いカフェでの売春で稼いでいたが、気づけばそのほとんどを“彼氏”が働く店で使うようになっていた。
果たしてそれは本当の“彼氏”なのか。それを問うと、「いや、別に本営でも私は好きだったから」と、愛情と怒りとが交錯したような表情をした。
梨花がこのあと街娼にまでなるストーリーは、マッチングアプリで出会ったときから、すでにそのホストにより描かれていたようだ。
「『シャンパンおろして』って言われて、『出稼ぎで稼いでからだったらいいよ』って断った。なのに『イベントだから頼む』って、強引にシャンパンを入れさせられた。私が曖昧な返事をしたのもいけなかったけど、ほぼほぼOKしてない状態だったのに」
結果、梨花は60万円もする高級シャンパンを売り掛けでおろす(ホストクラブではシャンパンを注文することを“おろす”と言う)ハメになる。そのころには出会いカフェでの売春だけでは彼氏の店で遊ぶ生活が追いつかなくなっていた梨花は、出会いカフェの売春仲間から出稼ぎすればまとまったカネが得られることを知り、千葉のデリヘルに3週間、山梨のデリヘルにまた3週間と出稼ぎを繰り返していた。 客入りに対して女の子の数が間に合っていない地方の繁盛店は、客を優先的に付けてくれたり、1日3万円前後の「最低保証金制度」を採用して出稼ぎ嬢を集めている場合も多い。そこで梨花は、次の出稼ぎ先は1日2万5千円の最低保証があること、寮費を3千円引かれても「1日平均6万円くらいは稼げるよ」と店長から言われていることを“彼氏”に話してしまっていた。「裏を使って拉致られた」 “彼氏”が梨花に売り掛けをさせたころは恋に盲目になっていた時期で、梨花は「ホス狂い」に育ちつつあった。“彼氏”からすれば梨花をハメるなど訳なかったことになる。「多少強引でもみんなやっちゃってますね」 客に売り掛けをさせることについて、あるホストはそう話した。 若ければ、カネを回収する方法などいくらでもある――こんなドミノ倒しの悲劇があちこちに拡散している――梨花もそのひとりに過ぎなかったのだろう。――その売り掛けはどうしたの?「そのことをきっかけに、“彼氏”に対して急に冷めちゃって、飛んだ」 “飛ぶ”とは、売り掛けを払わず逃げることを意味している。――どうやって?「名古屋に行った。で、出稼ぎしながらまた名古屋のホストとしばらく遊んで気を紛らわしてた」――逃げ切れたんだ。「ううん。そしたら、名古屋のホストとウチが掛けを飛んだ“彼氏”が実は繋がってて、裏を使って拉致られた」――“裏”って?「ヤクザみたいな人です。で、出稼ぎで稼いだ35万円と、これ以上逃げられないようにスマホとカバンも没収、みたいな。ホストはそこまでやるんだよ。スゲエよ。諦めるホストも多いって聞いて軽い気持ちで飛んだけど、その人はトコトンまで追いかけるタイプだったみたいで」 そこから東京へ戻され、“彼氏”に監視されながら出会いカフェでの売春で残り25万円の借金返済の日々は始まり、いまに至る。公園を知ったのは、やはり出稼ぎを教えてくれた出会いカフェの売春仲間からだった。 25万円などすぐに返せると思っていた。だが出会いカフェでの売春を覚えてから数ヶ月が過ぎていた梨花は、好事家たちからすでに“ベテラン嬢”とみなされていた。 だからというわけではないが、客が思うように取れなくなっていた梨花は、「ならやってみようか、みたいなノリで始めた」と振り返る。 そのころ公園は、街娼の素性や売値を記したある好事家のツイートがバズり、女の子と買春客とで溢れかえっていた。「多い日で4人とか5人とか。(売値は)1(万円)とかイチゴー(1万5千円)とかで。最近は、今日あまり客が付かなそうだなって思ったら、ホテル代込みで1万とかに値下げして、とりあえずネカフェ代やメシ代を確保するとかはあるけど」「デリヘルとかで働くことも考えてはいるよ」――でも、その金額だとその日の暮らしで終わっちゃわない?「まあそうだね。でもメシ代なんてそんなにかからない」――いつも何を食べてるの?「コンビニ弁当かな。お金があるときはネカフェ(アプレシオ)でカツカレーとか注文したりするけど」――ちょっと贅沢にしゃぶしゃぶとか焼肉とか食べないの?「自分のお金では行かない。たまにお客さんに奢ってもらうことはあるけど」――借金は?「2週間くらいで返し終わったよ。夜9時ごろ、“仕事”を終えて泊まってるアプレシオに帰るよね。すると翌日の昼、“彼氏”がアプレシオに来てその日稼いだぶんを回収していく感じで。東京に戻ってネカフェ(インターネットカフェ)暮らしを始めたのは1ヶ月半前のことで、最初はグランカスタマ(ハイジアからほど近いインターネットカフェ)にいたんだけど、なんか店員が男性客と話すなとか急にうるさくなって。それで友達から『アプレ(シオ)のほうが過ごしやすいよ』って聞いて移ってきた感じ」 “うるさくなった”とは、2022年6月11日に写真週刊誌『FRIDAY』が報じた「新宿・歌舞伎町にある『売春ネットカフェ』潜入ルポ!」の記事をさしていた。グランカスタマの個室で「ネットカフェ売春」が横行していることは、もとより広く知られた公然の秘密であったが、同誌は同店の実名を出し、改めてここが売春の温床であることを白日のもとに晒す。 当初、“彼氏”はグランカスタマにカネの回収に来ていた。同誌が実名を出した影響は思いのほか大きく、“彼氏”は買春目的の客と間違われるため店に無断で来れなくなっていたのだ。「仕事って割り切ってやってる」――カラダを売ることに対して、いつごろから“仕事”って割り切れるようになったの?「初めてやったときに思った。好きじゃない人とすることで、感情がわかないことで、『これ、仕事だな』って。なら割り切っちゃおう、って。で、それからずっともう、仕事って割り切ってやってる」――補導やみかじめ料のたぐいは?「ないし、払ってない。払えとも言われたことないよ」――これからも街娼を続けるの?「うーん、デリヘルとかで働くことも考えてはいるよ」(#2に続く)〈《写真あり》立ちんぼで「1日15万円稼ぐ」ことが日課になった“19歳女性の特殊事情”〉へ続く(高木 瑞穂/Webオリジナル(外部転載))
結果、梨花は60万円もする高級シャンパンを売り掛けでおろす(ホストクラブではシャンパンを注文することを“おろす”と言う)ハメになる。そのころには出会いカフェでの売春だけでは彼氏の店で遊ぶ生活が追いつかなくなっていた梨花は、出会いカフェの売春仲間から出稼ぎすればまとまったカネが得られることを知り、千葉のデリヘルに3週間、山梨のデリヘルにまた3週間と出稼ぎを繰り返していた。
客入りに対して女の子の数が間に合っていない地方の繁盛店は、客を優先的に付けてくれたり、1日3万円前後の「最低保証金制度」を採用して出稼ぎ嬢を集めている場合も多い。そこで梨花は、次の出稼ぎ先は1日2万5千円の最低保証があること、寮費を3千円引かれても「1日平均6万円くらいは稼げるよ」と店長から言われていることを“彼氏”に話してしまっていた。
“彼氏”が梨花に売り掛けをさせたころは恋に盲目になっていた時期で、梨花は「ホス狂い」に育ちつつあった。“彼氏”からすれば梨花をハメるなど訳なかったことになる。
「多少強引でもみんなやっちゃってますね」
客に売り掛けをさせることについて、あるホストはそう話した。
若ければ、カネを回収する方法などいくらでもある――こんなドミノ倒しの悲劇があちこちに拡散している――梨花もそのひとりに過ぎなかったのだろう。
――その売り掛けはどうしたの?
「そのことをきっかけに、“彼氏”に対して急に冷めちゃって、飛んだ」
“飛ぶ”とは、売り掛けを払わず逃げることを意味している。
――どうやって?
「名古屋に行った。で、出稼ぎしながらまた名古屋のホストとしばらく遊んで気を紛らわしてた」
――逃げ切れたんだ。
「ううん。そしたら、名古屋のホストとウチが掛けを飛んだ“彼氏”が実は繋がってて、裏を使って拉致られた」
――“裏”って?
「ヤクザみたいな人です。で、出稼ぎで稼いだ35万円と、これ以上逃げられないようにスマホとカバンも没収、みたいな。ホストはそこまでやるんだよ。スゲエよ。諦めるホストも多いって聞いて軽い気持ちで飛んだけど、その人はトコトンまで追いかけるタイプだったみたいで」
そこから東京へ戻され、“彼氏”に監視されながら出会いカフェでの売春で残り25万円の借金返済の日々は始まり、いまに至る。公園を知ったのは、やはり出稼ぎを教えてくれた出会いカフェの売春仲間からだった。
25万円などすぐに返せると思っていた。だが出会いカフェでの売春を覚えてから数ヶ月が過ぎていた梨花は、好事家たちからすでに“ベテラン嬢”とみなされていた。
だからというわけではないが、客が思うように取れなくなっていた梨花は、「ならやってみようか、みたいなノリで始めた」と振り返る。
そのころ公園は、街娼の素性や売値を記したある好事家のツイートがバズり、女の子と買春客とで溢れかえっていた。
「多い日で4人とか5人とか。(売値は)1(万円)とかイチゴー(1万5千円)とかで。最近は、今日あまり客が付かなそうだなって思ったら、ホテル代込みで1万とかに値下げして、とりあえずネカフェ代やメシ代を確保するとかはあるけど」
――でも、その金額だとその日の暮らしで終わっちゃわない?
「まあそうだね。でもメシ代なんてそんなにかからない」
――いつも何を食べてるの?
「コンビニ弁当かな。お金があるときはネカフェ(アプレシオ)でカツカレーとか注文したりするけど」
――ちょっと贅沢にしゃぶしゃぶとか焼肉とか食べないの?
「自分のお金では行かない。たまにお客さんに奢ってもらうことはあるけど」
――借金は?
「2週間くらいで返し終わったよ。夜9時ごろ、“仕事”を終えて泊まってるアプレシオに帰るよね。すると翌日の昼、“彼氏”がアプレシオに来てその日稼いだぶんを回収していく感じで。東京に戻ってネカフェ(インターネットカフェ)暮らしを始めたのは1ヶ月半前のことで、最初はグランカスタマ(ハイジアからほど近いインターネットカフェ)にいたんだけど、なんか店員が男性客と話すなとか急にうるさくなって。それで友達から『アプレ(シオ)のほうが過ごしやすいよ』って聞いて移ってきた感じ」
“うるさくなった”とは、2022年6月11日に写真週刊誌『FRIDAY』が報じた「新宿・歌舞伎町にある『売春ネットカフェ』潜入ルポ!」の記事をさしていた。グランカスタマの個室で「ネットカフェ売春」が横行していることは、もとより広く知られた公然の秘密であったが、同誌は同店の実名を出し、改めてここが売春の温床であることを白日のもとに晒す。
当初、“彼氏”はグランカスタマにカネの回収に来ていた。同誌が実名を出した影響は思いのほか大きく、“彼氏”は買春目的の客と間違われるため店に無断で来れなくなっていたのだ。
――カラダを売ることに対して、いつごろから“仕事”って割り切れるようになったの?
「初めてやったときに思った。好きじゃない人とすることで、感情がわかないことで、『これ、仕事だな』って。なら割り切っちゃおう、って。で、それからずっともう、仕事って割り切ってやってる」
――補導やみかじめ料のたぐいは?
「ないし、払ってない。払えとも言われたことないよ」
――これからも街娼を続けるの?
「うーん、デリヘルとかで働くことも考えてはいるよ」(#2に続く)
〈《写真あり》立ちんぼで「1日15万円稼ぐ」ことが日課になった“19歳女性の特殊事情”〉へ続く
(高木 瑞穂/Webオリジナル(外部転載))