〈「もともと私は病気と障害を持っている」19歳で売春を覚え、21歳で街娼に…“彼氏”監視のもと「立ちんぼ」を続ける女性の壮絶人生〉から続く
毎月、稼ぐ額は350万円……路上売春をしてまで、恵美奈(仮名、19歳)さんが大金を稼がなければいけない理由とは?
《特別グラビア》「私は病気と障害を持っている」19歳で売春を覚え、21歳で街娼になった女性
2022年夏ごろから増え始めた10代後半から20代前半の街娼たちの実情を、ノンフィクションライターの高木瑞穂氏の新刊『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/前編を読む)
◆◆◆ホストクラブに使う金は「1回150万を月に2回」 2022年10月中旬――。大久保病院側に立っていた新顔・恵美奈(仮名、19歳)とふたりで職安通り側の路肩に座り、恵美奈の了承を得てから僕はボイスレコーダーの録音ボタンを押した。 約15人の新顔がいたなか恵美奈に話を聞きたいと思ったのは、ほかでもない。恵美奈がいちばん普通だったからだ。できればホス狂い以外の新顔にと思っていたからだ。 地味でも派手でもない服を着て、通りにぽつんと佇む恵美奈は、見るからにどこにでもいそうな19歳で、病んでいる様子がそれほどない。それを下敷きに、なるべくホストクラブに通っているようには見えない子を選んだのである。ファーストコンタクトでキャバ嬢でも風俗嬢でもなく「現役の女子大生」だと話したことも決め手になった。――立ち始めたのはいつぐらいから?「最近。7月末とかから。ほぼ毎日立ってる」――稼げる?「夕方ぐらいから夜の12時、1時とかまでで、1日15万くらい」――1回いくら?「人によるんですよね。たまに相場がわかってない人がいて、3(万円)とか5(万円)とかくれることもあるんですよ。最低は1(万円)でゴム有り。で、本当に焦ってるときは、生外で2(万円)以上とかやる。キスとかフェラはあんまりしたくないから、したいって言われてもキスなしゴムフェラにしてもらってる。生中(膣内射精)とかはやんないですね、病気が怖いし」 しかし僕の思いは空転していく。「焦っている」という言葉の裏に意外性はなく、やはりホストの売り掛け返済のため立ちんぼをしている展開だった。ホストクラブには最近行き始めたと話し、月にいくら使っているのかと僕が尋ねると、「1回150万を月に2回」だと恵美奈は言う。 その「1回150万を月に2回」の内訳は、高級シャンパンをおろすなどして「売り掛けで」と言われ、「他に生活費が50万。だから月に350万くらい必要で、正確な数字はわからないけどそのくらいは稼いでる」と続けたことにはさすがに驚いた。確かに恵美奈は梨花より客が付きそうな印象ではある。それにしても、月に60万円ほどしか稼いでいないと語っていた梨花(#1)に対して、歳も2つしか違わない恵美奈が月に350万円も稼げるものなのか。 ともかく、恵美奈はその数字に嘘はないと重ねた。「えっ、だって、日に15(万円)稼げば20日で300(万円)ですよ。残り50万なんて2、3日も立てば楽勝だし」 恵美奈が言うように、確かにこの計算どおりコトが運べば無理はない。モヤっとした違和感があるが、そんなものかと納得するよりなかった。メン地下の“推し活”のため売春を開始 恵美奈は自分といまの担当ホストの関係について、他の子と私は違い、最初は客じゃなかったと強調した。つまり恵美奈は、彼氏彼女の関係とまでは言えないが、自分は「特別な存在」だと言いたいのだろう。だけれども、その「特別な存在」であることすらどこまでいっても自信が持てないと吐露する。 いま入れ込む担当に声をかけられたのは2ヶ月前の夜7時のことだ。他の街娼たち同様に客待ちしていた。そのころ恵美奈は、「メン地下」の「推し活」のため、“現在地”でカラダを売りカネを稼いでは「推し」に貢ぐ日々を続けていた。「メン地下」とは、小規模なライブやイベントで活動し、若い女性の人気を集める「メンズ地下アイドル」の略称である。若者の間では、応援するアイドルを「推し」、推しを応援する活動を「推し活」と呼ぶ。 恵美奈がメン地下にハマったのは高3のときだ。17歳の終わりからで、ジャニーズの追っかけをしていた母親譲りだとした。「カラダ(売春)を始めたのは18(歳)になってから。最初はツイッターでのパパ活です。私はカラダをしてまで推しに貢ぐなんて想像してなかったけど、メン地下推しの子ってフーゾクとかやってる子多いから周りに影響されて。で、まだ高校生で風俗で働けない年齢だからパパ活をやった。毎日泣きながらやってた。でも、客の羽振りは良くて、当時はゴム有りで4(万)とか5(万)とか普通にもらえてた」写真はイメージ getty――泣いてまで売春しなきゃいけないほどメン地下に依存してた。「依存してたっていうか、周りがチェキとかでいっぱいお金を使ってるのに、自分が使えてないっていうのが悔しくて」 単に推しを独占したいから売春に走ったのではない。周りより容姿スペックが高いと自負している。恵美奈はそこに――そんな私が雑に扱われるなんてと――自尊心をくすぐられたのだ。「可愛いからお金など使わなくても私は贔屓されるはずだ」と恵美奈は思っていた。だが、アイドルビジネスは競争心を煽りカネを使わせる手法が根幹にあるもので、推しへの消費の多さによりファンの価値は上位に置かれる。それが恵美奈のプライドと共振したのである。「私はひとりっ子で、オモチャや食べ物を兄弟と奪い合うなんて経験がない。だから、興味のないことに関しては全く競争心は湧かないけど、自分が好きなことに対しては絶対にいちばんじゃないと嫌だ、っていうのがある。勉強とか運動とかはビリでもいいけど、好きなメン地下に対しては。自分で言うのもなんだけど、私はあの子たちより可愛いから売春すればぜったいに稼げると。だからいちばん稼いでやるってなった」――なんでさあ、売春してまでいちばんになりたいと思うようになったの?「えっ、なんでだろう。いや、いちばんになりたいっていうか、負けたくないっていうか。なんだろう、義務感」――カラダも心もすり減らして、泣いて。そうまでして全うする強い義務感ってなんだろう。「よくわかんない。というか、(売春なんて)すぐやめるだろうと思いながらやってました。当初は推しに会いたいから頑張ってたんだと思う。けど、それがいつの間にか義務に変わってきて、って感じ」ホストに聞かれるままLINEのID交換 メン地下の推しは主に東京で活動していた。大阪生まれ大阪育ちで、そのころ関西では多少名の知れた大学に通っていた恵美奈は、さらに推し活に励むため大学が夏休みになるのを待って東京に遠征した。 このとき公園で街娼をすることになる。1回あたりの単価は高いパパ活だが、数をこなすのには限界がある。しかも、新たに東京でパパを探すのも無理がある。そこでメン地下仲間に相談すると公園を勧められたのだ。 実際に赴いて立っていると、すぐにひとりの男に「遊べる?」と声をかけられる。売春の交渉は始まり、3万円を提示され近くのラブホに。セックスを終えて再び立つと、またすぐ男に声をかけられる。初日から何度も公園とラブホとを往復する。するとそのとき「こんなに稼げるんだ」と味を占めてしまったという。 街娼行為を覚え、ファンのなかでいちばんカネを使うようになってからも、恵美奈が売春をやめることはなかった。他の子も風俗で働いたりパパ活や立ちんぼをしたりなどしてカネを使っていたので、推しを独占することはできない。それは当然のこととして割り切れてはいたのだが、自分より貢いでいないひとりの子を推しが平等に重宝しているのを見ると我慢できずに、やがて推しに嫌悪感を抱くようになった。 嫌悪感を抱くようになってからも、恵美奈は「ファンが減られたら困るから」と推しに一応の理解を示す。だが、その嫌悪感は、次第に憎悪へと変わったのだと、恵美奈は話した。 公園に女性がひとりで立っているところに声をかけてくるのは買春客以外にいないと思っていた。だが、売春の交渉ではなく「可愛いね。何してんの? こんど遊ぼうよ」とナンパのように話しかけられ、内心、見ればわかるでしょと思いつつ、イケメンだったからホストに聞かれるままLINEのID交換に応じた。「で、そのホストから『会おうよ』とDMが来て、みたいな」 実はそのころ、恵美奈は推しに貢ぐ意味を見出せなくなっていた。現段階で私よりお金使ってないのに、「私がいちばん好き」みたいな感じのことをずっと言ってるあの子。それがキモかったばかりか、推しメンもファンが減られては困るからと言いたげな表情をして優しくする。私がいちばんお金使っている。誰が見てもいちばん頑張っている。なのに、それ相応の見返りがないのは違うんじゃないかと思っていた。 そんなときに現れた、ホストの男。これが世にいう色恋営業――僕からすれば地獄の始まりだった。恵美奈はいま、大阪から出てきてそれっきり、約3ヶ月も“現在地”からも担当がいるホストクラブからも近いビジネスホテル『リブマックス』に泊まりながら街娼で稼ぐ日々を続けている。「営業なんじゃないですか?」――そのホストはさぁ、ちゃんとカネを使ったぶんだけ応えてくれるんだ。「うん。ご飯食べに行ったりとか、ビジホにも会いに来てくれる。ビジホには、朝来てくれることもあるし、夜、営業終わりのこともある。向こうが仕事終わるのが深夜1時だから、私も同じくらいに立ちんぼをやめて、ふたりで一緒にビジホに帰ることも。で、一緒に寝て。店には月2回しか行かないけど、なんだかんだで毎日会ってる感じかな。今日も夕方5時とかまで一緒にいた」――カラダの関係はあるの?「まあ、ある。セックスはほぼ毎日。最初は、私が店に行く前に。外で会って、ご飯食べた、その日に」――じゃあ、向こうは恵美奈のことが本当に好きなんだね。「いや、わかんない。営業なんじゃないですか? 本当のところはわかんないけど、まあ、別に好きでも営業でもどっちでもいい」――たとえば地元の友達と付き合うんじゃダメなの?「いや、メン地下やってる男としか付き合ったことなくて。中学でも高校でも一般の彼氏がいたことがない。女の扱いがうまくないと好きになれない。そこにきて、ホストやメン地下は女の扱いがうまいから。なんか私がめっちゃ性格がひん曲がってるから。すぐ拗ねたりとかするから。それをなだめてくれる人じゃないとダメなんだと思う。普通の男の子って拗ねたりしたらすぐ戸惑うじゃないですか」――そうだね。もういいよってなるよね。「意地っぱりなんで、もういいよって言われたら私から切ると思う。でも、ホストやメン地下の子はなだめてくれるから」――まあ、カネだとしても。「うん、まあそうね」「というより暇つぶしかな。暇なんで」――じゃあ、フツーに彼氏を作るよりメン地下やホストのほうが熱中できるわけだ。「うん。推し活してる自分が好きなんだよね。彼氏にはお金を使えないじゃないですかぁ。お金払ってワーキャーしてるのが楽しい。お金使いたい。ホストがどういうものかってのはちゃんと理解している。メン地下のファンだったから、余計にね。でも、別に仕事でもここまでしてくれるんだったら幸せかな、みたいな」――それで幸せなんだ。「いや、幸せとまでは言えないかも」――自分でもわからないんだ。幸せか、どうか。「というより暇つぶしかな。暇なんで」 かえりみれば、恵美奈は自分の暴走を止めるためのきっかけを模索し続けているようだ。それは、「幸せとまでは言えないかも」という恵美奈の言葉を、できればカネなしで自分のすべてを受け止めてほしいのではと僕は理解したからだ。 なのに担当は、1回150万円もの売り掛けをさせ、それを恵美奈は売春の稼ぎで返済するなか――むろん、毎日会うなど恋人同然に振る舞っているのだとしても――恵美奈に、最後に「暇つぶし」と言わせたのは皮肉というしかない。 再び大久保病院側に戻った恵美奈は、スーツ姿のサラリーマン風情に買われた。その間わずか10分弱だった。(高木 瑞穂/Webオリジナル(外部転載))
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2022年10月中旬――。大久保病院側に立っていた新顔・恵美奈(仮名、19歳)とふたりで職安通り側の路肩に座り、恵美奈の了承を得てから僕はボイスレコーダーの録音ボタンを押した。
約15人の新顔がいたなか恵美奈に話を聞きたいと思ったのは、ほかでもない。恵美奈がいちばん普通だったからだ。できればホス狂い以外の新顔にと思っていたからだ。
地味でも派手でもない服を着て、通りにぽつんと佇む恵美奈は、見るからにどこにでもいそうな19歳で、病んでいる様子がそれほどない。それを下敷きに、なるべくホストクラブに通っているようには見えない子を選んだのである。ファーストコンタクトでキャバ嬢でも風俗嬢でもなく「現役の女子大生」だと話したことも決め手になった。
――立ち始めたのはいつぐらいから?
「最近。7月末とかから。ほぼ毎日立ってる」
――稼げる?
「夕方ぐらいから夜の12時、1時とかまでで、1日15万くらい」
――1回いくら?
「人によるんですよね。たまに相場がわかってない人がいて、3(万円)とか5(万円)とかくれることもあるんですよ。最低は1(万円)でゴム有り。で、本当に焦ってるときは、生外で2(万円)以上とかやる。キスとかフェラはあんまりしたくないから、したいって言われてもキスなしゴムフェラにしてもらってる。生中(膣内射精)とかはやんないですね、病気が怖いし」
しかし僕の思いは空転していく。「焦っている」という言葉の裏に意外性はなく、やはりホストの売り掛け返済のため立ちんぼをしている展開だった。ホストクラブには最近行き始めたと話し、月にいくら使っているのかと僕が尋ねると、「1回150万を月に2回」だと恵美奈は言う。
その「1回150万を月に2回」の内訳は、高級シャンパンをおろすなどして「売り掛けで」と言われ、「他に生活費が50万。だから月に350万くらい必要で、正確な数字はわからないけどそのくらいは稼いでる」と続けたことにはさすがに驚いた。確かに恵美奈は梨花より客が付きそうな印象ではある。それにしても、月に60万円ほどしか稼いでいないと語っていた梨花(#1)に対して、歳も2つしか違わない恵美奈が月に350万円も稼げるものなのか。
ともかく、恵美奈はその数字に嘘はないと重ねた。
「えっ、だって、日に15(万円)稼げば20日で300(万円)ですよ。残り50万なんて2、3日も立てば楽勝だし」
恵美奈が言うように、確かにこの計算どおりコトが運べば無理はない。モヤっとした違和感があるが、そんなものかと納得するよりなかった。
恵美奈は自分といまの担当ホストの関係について、他の子と私は違い、最初は客じゃなかったと強調した。つまり恵美奈は、彼氏彼女の関係とまでは言えないが、自分は「特別な存在」だと言いたいのだろう。だけれども、その「特別な存在」であることすらどこまでいっても自信が持てないと吐露する。
いま入れ込む担当に声をかけられたのは2ヶ月前の夜7時のことだ。他の街娼たち同様に客待ちしていた。そのころ恵美奈は、「メン地下」の「推し活」のため、“現在地”でカラダを売りカネを稼いでは「推し」に貢ぐ日々を続けていた。
「メン地下」とは、小規模なライブやイベントで活動し、若い女性の人気を集める「メンズ地下アイドル」の略称である。若者の間では、応援するアイドルを「推し」、推しを応援する活動を「推し活」と呼ぶ。
恵美奈がメン地下にハマったのは高3のときだ。17歳の終わりからで、ジャニーズの追っかけをしていた母親譲りだとした。
「カラダ(売春)を始めたのは18(歳)になってから。最初はツイッターでのパパ活です。私はカラダをしてまで推しに貢ぐなんて想像してなかったけど、メン地下推しの子ってフーゾクとかやってる子多いから周りに影響されて。で、まだ高校生で風俗で働けない年齢だからパパ活をやった。毎日泣きながらやってた。でも、客の羽振りは良くて、当時はゴム有りで4(万)とか5(万)とか普通にもらえてた」
写真はイメージ getty
――泣いてまで売春しなきゃいけないほどメン地下に依存してた。
「依存してたっていうか、周りがチェキとかでいっぱいお金を使ってるのに、自分が使えてないっていうのが悔しくて」
単に推しを独占したいから売春に走ったのではない。周りより容姿スペックが高いと自負している。恵美奈はそこに――そんな私が雑に扱われるなんてと――自尊心をくすぐられたのだ。
「可愛いからお金など使わなくても私は贔屓されるはずだ」と恵美奈は思っていた。だが、アイドルビジネスは競争心を煽りカネを使わせる手法が根幹にあるもので、推しへの消費の多さによりファンの価値は上位に置かれる。それが恵美奈のプライドと共振したのである。
「私はひとりっ子で、オモチャや食べ物を兄弟と奪い合うなんて経験がない。だから、興味のないことに関しては全く競争心は湧かないけど、自分が好きなことに対しては絶対にいちばんじゃないと嫌だ、っていうのがある。勉強とか運動とかはビリでもいいけど、好きなメン地下に対しては。自分で言うのもなんだけど、私はあの子たちより可愛いから売春すればぜったいに稼げると。だからいちばん稼いでやるってなった」
――なんでさあ、売春してまでいちばんになりたいと思うようになったの?
「えっ、なんでだろう。いや、いちばんになりたいっていうか、負けたくないっていうか。なんだろう、義務感」
――カラダも心もすり減らして、泣いて。そうまでして全うする強い義務感ってなんだろう。
「よくわかんない。というか、(売春なんて)すぐやめるだろうと思いながらやってました。当初は推しに会いたいから頑張ってたんだと思う。けど、それがいつの間にか義務に変わってきて、って感じ」
メン地下の推しは主に東京で活動していた。大阪生まれ大阪育ちで、そのころ関西では多少名の知れた大学に通っていた恵美奈は、さらに推し活に励むため大学が夏休みになるのを待って東京に遠征した。
このとき公園で街娼をすることになる。1回あたりの単価は高いパパ活だが、数をこなすのには限界がある。しかも、新たに東京でパパを探すのも無理がある。そこでメン地下仲間に相談すると公園を勧められたのだ。
実際に赴いて立っていると、すぐにひとりの男に「遊べる?」と声をかけられる。売春の交渉は始まり、3万円を提示され近くのラブホに。セックスを終えて再び立つと、またすぐ男に声をかけられる。初日から何度も公園とラブホとを往復する。するとそのとき「こんなに稼げるんだ」と味を占めてしまったという。
街娼行為を覚え、ファンのなかでいちばんカネを使うようになってからも、恵美奈が売春をやめることはなかった。他の子も風俗で働いたりパパ活や立ちんぼをしたりなどしてカネを使っていたので、推しを独占することはできない。それは当然のこととして割り切れてはいたのだが、自分より貢いでいないひとりの子を推しが平等に重宝しているのを見ると我慢できずに、やがて推しに嫌悪感を抱くようになった。
嫌悪感を抱くようになってからも、恵美奈は「ファンが減られたら困るから」と推しに一応の理解を示す。だが、その嫌悪感は、次第に憎悪へと変わったのだと、恵美奈は話した。
公園に女性がひとりで立っているところに声をかけてくるのは買春客以外にいないと思っていた。だが、売春の交渉ではなく「可愛いね。何してんの? こんど遊ぼうよ」とナンパのように話しかけられ、内心、見ればわかるでしょと思いつつ、イケメンだったからホストに聞かれるままLINEのID交換に応じた。
「で、そのホストから『会おうよ』とDMが来て、みたいな」
実はそのころ、恵美奈は推しに貢ぐ意味を見出せなくなっていた。現段階で私よりお金使ってないのに、「私がいちばん好き」みたいな感じのことをずっと言ってるあの子。それがキモかったばかりか、推しメンもファンが減られては困るからと言いたげな表情をして優しくする。私がいちばんお金使っている。誰が見てもいちばん頑張っている。なのに、それ相応の見返りがないのは違うんじゃないかと思っていた。
そんなときに現れた、ホストの男。これが世にいう色恋営業――僕からすれば地獄の始まりだった。恵美奈はいま、大阪から出てきてそれっきり、約3ヶ月も“現在地”からも担当がいるホストクラブからも近いビジネスホテル『リブマックス』に泊まりながら街娼で稼ぐ日々を続けている。
「営業なんじゃないですか?」――そのホストはさぁ、ちゃんとカネを使ったぶんだけ応えてくれるんだ。「うん。ご飯食べに行ったりとか、ビジホにも会いに来てくれる。ビジホには、朝来てくれることもあるし、夜、営業終わりのこともある。向こうが仕事終わるのが深夜1時だから、私も同じくらいに立ちんぼをやめて、ふたりで一緒にビジホに帰ることも。で、一緒に寝て。店には月2回しか行かないけど、なんだかんだで毎日会ってる感じかな。今日も夕方5時とかまで一緒にいた」――カラダの関係はあるの?「まあ、ある。セックスはほぼ毎日。最初は、私が店に行く前に。外で会って、ご飯食べた、その日に」――じゃあ、向こうは恵美奈のことが本当に好きなんだね。「いや、わかんない。営業なんじゃないですか? 本当のところはわかんないけど、まあ、別に好きでも営業でもどっちでもいい」――たとえば地元の友達と付き合うんじゃダメなの?「いや、メン地下やってる男としか付き合ったことなくて。中学でも高校でも一般の彼氏がいたことがない。女の扱いがうまくないと好きになれない。そこにきて、ホストやメン地下は女の扱いがうまいから。なんか私がめっちゃ性格がひん曲がってるから。すぐ拗ねたりとかするから。それをなだめてくれる人じゃないとダメなんだと思う。普通の男の子って拗ねたりしたらすぐ戸惑うじゃないですか」――そうだね。もういいよってなるよね。「意地っぱりなんで、もういいよって言われたら私から切ると思う。でも、ホストやメン地下の子はなだめてくれるから」――まあ、カネだとしても。「うん、まあそうね」「というより暇つぶしかな。暇なんで」――じゃあ、フツーに彼氏を作るよりメン地下やホストのほうが熱中できるわけだ。「うん。推し活してる自分が好きなんだよね。彼氏にはお金を使えないじゃないですかぁ。お金払ってワーキャーしてるのが楽しい。お金使いたい。ホストがどういうものかってのはちゃんと理解している。メン地下のファンだったから、余計にね。でも、別に仕事でもここまでしてくれるんだったら幸せかな、みたいな」――それで幸せなんだ。「いや、幸せとまでは言えないかも」――自分でもわからないんだ。幸せか、どうか。「というより暇つぶしかな。暇なんで」 かえりみれば、恵美奈は自分の暴走を止めるためのきっかけを模索し続けているようだ。それは、「幸せとまでは言えないかも」という恵美奈の言葉を、できればカネなしで自分のすべてを受け止めてほしいのではと僕は理解したからだ。 なのに担当は、1回150万円もの売り掛けをさせ、それを恵美奈は売春の稼ぎで返済するなか――むろん、毎日会うなど恋人同然に振る舞っているのだとしても――恵美奈に、最後に「暇つぶし」と言わせたのは皮肉というしかない。 再び大久保病院側に戻った恵美奈は、スーツ姿のサラリーマン風情に買われた。その間わずか10分弱だった。(高木 瑞穂/Webオリジナル(外部転載))
――そのホストはさぁ、ちゃんとカネを使ったぶんだけ応えてくれるんだ。
「うん。ご飯食べに行ったりとか、ビジホにも会いに来てくれる。ビジホには、朝来てくれることもあるし、夜、営業終わりのこともある。向こうが仕事終わるのが深夜1時だから、私も同じくらいに立ちんぼをやめて、ふたりで一緒にビジホに帰ることも。で、一緒に寝て。店には月2回しか行かないけど、なんだかんだで毎日会ってる感じかな。今日も夕方5時とかまで一緒にいた」
――カラダの関係はあるの?
「まあ、ある。セックスはほぼ毎日。最初は、私が店に行く前に。外で会って、ご飯食べた、その日に」
――じゃあ、向こうは恵美奈のことが本当に好きなんだね。
「いや、わかんない。営業なんじゃないですか? 本当のところはわかんないけど、まあ、別に好きでも営業でもどっちでもいい」
――たとえば地元の友達と付き合うんじゃダメなの?
「いや、メン地下やってる男としか付き合ったことなくて。中学でも高校でも一般の彼氏がいたことがない。女の扱いがうまくないと好きになれない。そこにきて、ホストやメン地下は女の扱いがうまいから。なんか私がめっちゃ性格がひん曲がってるから。すぐ拗ねたりとかするから。それをなだめてくれる人じゃないとダメなんだと思う。普通の男の子って拗ねたりしたらすぐ戸惑うじゃないですか」
――そうだね。もういいよってなるよね。
「意地っぱりなんで、もういいよって言われたら私から切ると思う。でも、ホストやメン地下の子はなだめてくれるから」
――まあ、カネだとしても。
「うん、まあそうね」
――じゃあ、フツーに彼氏を作るよりメン地下やホストのほうが熱中できるわけだ。
「うん。推し活してる自分が好きなんだよね。彼氏にはお金を使えないじゃないですかぁ。お金払ってワーキャーしてるのが楽しい。お金使いたい。ホストがどういうものかってのはちゃんと理解している。メン地下のファンだったから、余計にね。でも、別に仕事でもここまでしてくれるんだったら幸せかな、みたいな」
――それで幸せなんだ。
「いや、幸せとまでは言えないかも」
――自分でもわからないんだ。幸せか、どうか。
「というより暇つぶしかな。暇なんで」
かえりみれば、恵美奈は自分の暴走を止めるためのきっかけを模索し続けているようだ。それは、「幸せとまでは言えないかも」という恵美奈の言葉を、できればカネなしで自分のすべてを受け止めてほしいのではと僕は理解したからだ。
なのに担当は、1回150万円もの売り掛けをさせ、それを恵美奈は売春の稼ぎで返済するなか――むろん、毎日会うなど恋人同然に振る舞っているのだとしても――恵美奈に、最後に「暇つぶし」と言わせたのは皮肉というしかない。
再び大久保病院側に戻った恵美奈は、スーツ姿のサラリーマン風情に買われた。その間わずか10分弱だった。
(高木 瑞穂/Webオリジナル(外部転載))