北九州市若松区の市立高須中学校体育館で2021年4月、老朽化したバスケットゴールが落下し当時1年生だった女子生徒(15)が負傷した事故を巡り、女子生徒の顔に傷が残ったのは市が長期間にわたりゴールの十分な点検・補修をしていなかったためとして、女子生徒が市に慰謝料など約903万円の損害賠償を求め、福岡地裁小倉支部に提訴したことが判明した。
【写真】事故後8カ月経過しても残る女子生徒の傷痕 訴状によると、事故は21年4月24日午後5時25分ごろ発生。バスケ部の練習をしていた女子生徒が顧問の教員の付き添いのもと、専用器具で高さ約3メートルの壁面にある折り畳み型のバスケゴールを展開する操作をしていたところ、ゴールが落下して女子生徒の左目付近を直撃した。
左目上まぶたには裂傷が残り、事故前に2・0あった左目の視力も事故直後は0・3に低下。その後も0・8までしか回復しなかった。22年には独立行政法人「日本スポーツ振興センター」から障害と認定され、見舞金225万円が支払われた。 市教委によると、落下したゴールは1990年の開校時に設置後、一度も交換していなかった。教職員による年1回の安全点検を義務付けているが、専門業者による点検はしていなかった。 事故を受け、市教委は市立小中学校などで専門業者による一斉点検を実施。その結果、1147基のうち923基が、設置から25年を過ぎているなどの理由で安全性が確保できず、交換が必要と判明した。市は、市立スポーツ施設などを含めた177校・施設968基の交換費用として、約17億2500万円を21年度一般会計補正予算に盛り込み、同年度中に取り換えた。 提訴を受け、市教委施設課は取材に「責任を争うつもりはない。賠償額の折り合いをつけ早期解決を図りたい」としている。操作中に記憶途絶え「命に関わったかも」 バスケットゴールの落下により左目上まぶたに裂傷を負った女子生徒が毎日新聞の取材に応じ、「鏡で傷が見える度に『なくなったらいいのにな』と考える」と心情を吐露した。 バスケ経験者の母や兄の影響で、バスケ部に入部。事故が起きたのは、ボールをつく練習が始まり、部活動に慣れ始めた頃だった。練習で使うゴールを展開する操作を誰がするかは決まっておらず、当日はたまたま顧問に呼ばれて初めて操作した。レバーの回し方が分からず、顧問に教わりながら回した。記憶は、そこで途絶えている。 次に覚えているのは、体育館の壁にもたれ座り込んでいたこと。落下したバスケゴールに突き飛ばされ、打ったような感覚があったが、痛みは覚えていない。救急車で搬送され、医師から「縫うよ」と言われたことは覚えているが、付き添った母親(38)は「本人は何が起こったか分からない様子で、何を話しかけても『うん』と、焦点が合わない様子で答えていた」と振り返る。 しばらくは目が開かないほど顔が腫れ上がり、5月に登校を再開した後も目まいや立ちくらみで授業を最後まで聞けずに早退した。整形外科で首や肩のリハビリを受け、夏を過ぎた頃には部活動にも戻ったが、事故前は自信があった体力も落ち、皆についていけずに悔しい思いをした。 傷痕を少しでも隠そうと、伸ばしていた前髪を切って下ろしても、人からジロジロと見られたり、傷を覆うテーピングを「テープついてるよ」といじられたりするのが嫌だった。22年12月には大学病院の形成外科で傷痕を目立たなくする手術を受け経過観察中だが、実際に薄くなるかは医師にも分からないと言われたという。 母親は取材に「ゴールの一斉更新をするお金があるのなら、最初から点検しておけば事故は起きなかったはず。女の子の顔に傷が残るのはつらいことで、打ち所が悪ければ命にも関わる事故だった。責任をはっきりさせたい」と話した。 将来、まつげエクステンションなど目元の施術を行うアイリストになりたいという女子生徒は「今一番やりたいことは」との記者の質問に「病院に通わない、皆と同じ学校生活を送りたい」と声を絞り出した。【成松秋穂】
訴状によると、事故は21年4月24日午後5時25分ごろ発生。バスケ部の練習をしていた女子生徒が顧問の教員の付き添いのもと、専用器具で高さ約3メートルの壁面にある折り畳み型のバスケゴールを展開する操作をしていたところ、ゴールが落下して女子生徒の左目付近を直撃した。
左目上まぶたには裂傷が残り、事故前に2・0あった左目の視力も事故直後は0・3に低下。その後も0・8までしか回復しなかった。22年には独立行政法人「日本スポーツ振興センター」から障害と認定され、見舞金225万円が支払われた。
市教委によると、落下したゴールは1990年の開校時に設置後、一度も交換していなかった。教職員による年1回の安全点検を義務付けているが、専門業者による点検はしていなかった。
事故を受け、市教委は市立小中学校などで専門業者による一斉点検を実施。その結果、1147基のうち923基が、設置から25年を過ぎているなどの理由で安全性が確保できず、交換が必要と判明した。市は、市立スポーツ施設などを含めた177校・施設968基の交換費用として、約17億2500万円を21年度一般会計補正予算に盛り込み、同年度中に取り換えた。
提訴を受け、市教委施設課は取材に「責任を争うつもりはない。賠償額の折り合いをつけ早期解決を図りたい」としている。
操作中に記憶途絶え「命に関わったかも」
バスケットゴールの落下により左目上まぶたに裂傷を負った女子生徒が毎日新聞の取材に応じ、「鏡で傷が見える度に『なくなったらいいのにな』と考える」と心情を吐露した。
バスケ経験者の母や兄の影響で、バスケ部に入部。事故が起きたのは、ボールをつく練習が始まり、部活動に慣れ始めた頃だった。練習で使うゴールを展開する操作を誰がするかは決まっておらず、当日はたまたま顧問に呼ばれて初めて操作した。レバーの回し方が分からず、顧問に教わりながら回した。記憶は、そこで途絶えている。
次に覚えているのは、体育館の壁にもたれ座り込んでいたこと。落下したバスケゴールに突き飛ばされ、打ったような感覚があったが、痛みは覚えていない。救急車で搬送され、医師から「縫うよ」と言われたことは覚えているが、付き添った母親(38)は「本人は何が起こったか分からない様子で、何を話しかけても『うん』と、焦点が合わない様子で答えていた」と振り返る。
しばらくは目が開かないほど顔が腫れ上がり、5月に登校を再開した後も目まいや立ちくらみで授業を最後まで聞けずに早退した。整形外科で首や肩のリハビリを受け、夏を過ぎた頃には部活動にも戻ったが、事故前は自信があった体力も落ち、皆についていけずに悔しい思いをした。
傷痕を少しでも隠そうと、伸ばしていた前髪を切って下ろしても、人からジロジロと見られたり、傷を覆うテーピングを「テープついてるよ」といじられたりするのが嫌だった。22年12月には大学病院の形成外科で傷痕を目立たなくする手術を受け経過観察中だが、実際に薄くなるかは医師にも分からないと言われたという。
母親は取材に「ゴールの一斉更新をするお金があるのなら、最初から点検しておけば事故は起きなかったはず。女の子の顔に傷が残るのはつらいことで、打ち所が悪ければ命にも関わる事故だった。責任をはっきりさせたい」と話した。
将来、まつげエクステンションなど目元の施術を行うアイリストになりたいという女子生徒は「今一番やりたいことは」との記者の質問に「病院に通わない、皆と同じ学校生活を送りたい」と声を絞り出した。【成松秋穂】