あなたは、「食道にカビが生える病気」があることを知っていますか。「食道カンジダ症」という病気で、食道内でカビが繁殖してしまう病気だそうです。なぜカビが生えてしまうのでしょうか。そして、どんな症状が起こり得るのでしょうか。八王子クリニック新町(東京都八王子市)院長で消化器科専門医の井藤尚武さんに聞きました。
Q.食道にカビが生える「食道カンジダ症」とは、どのような病気ですか。
井藤さん「食道カンジダ症とは、『カンジダ・アルビカンス』という名前のカビ(真菌)が食道内で増殖し、炎症を起こす感染症です。このカンジダ菌は、ラテン語で『雪のように白い』という意味があり、胃カメラで見ても真っ白い見た目が特徴的です。ヒトの口や喉、消化管などに常に存在している菌で、通常、病原性はありません。
なぜ、この菌が人体に悪さを引き起こすのかというと、その答えは免疫機能です。加齢や糖尿病、ステロイドの内服などによって体の免疫が低下すると、カンジダ菌を抑え込むことができなくなって発症してしまうのです。さらに、特に基礎疾患のない正常な人でも、ストレスや疲れなどで体の免疫が低下し、発症してしまうこともあります」
Q.食道カンジダ症になると、どのような症状が出るのですか。
井藤さん「食道カンジダ症は、軽症であれば大半の人は無症状です。症状が進行すると、食べ物の飲み込みづらさ、喉の違和感が出ることがあります。自然治癒することがほとんどですが、症状があれば抗真菌薬の薬を使います。
まれではありますが、進行して重症化してしまうと、血液中にカンジダ菌が侵入する『菌血症』を引き起こし、体がブルブルと震えるような悪寒戦慄(せんりつ)症状や、意識障害に至ることもあります。受診の判断は、食事の飲み込みづらさが続く場合などを目安にするとよいでしょう」
Q.食道カンジダ症にかかりやすい人の特徴はありますか。
井藤さん「先述したように、この病気は免疫力の低下によって常在菌が増えてしまうことが原因です。そのため、免疫力低下の原因となる疲労やストレス、また、糖尿病や悪性腫瘍、HIVといった免疫力が低下する基礎疾患を持っている人、免疫力の低下傾向のある高齢の人は注意が必要です。
また、ステロイドや抗がん剤など免疫力が低下することがある薬はもちろん、抗生物質や胃薬の内服が原因となることもあり、『誰でもかかる可能性がある』といえるかもしれません。
ちなみに、当院の人間ドックでも、無症状の人に食道カンジダを見つけることがあります。その方々の背景は、関節リウマチの薬を内服されていたり、長期のステロイドを使用していたりとさまざまですが、やはり免疫力が低下している状態でした」
Q.食道カンジダ症は、どのような治療を行うのですか。
井藤さん「アメリカ、日本ともに深在性真菌治療薬『フルコナゾールカプセル』の内服が最も多く使われています。その他、重症度によって注射剤などの治療薬もあります。
治癒はしますが、再発もします。繰り返しになりますが、カンジダ・アルビカンスは常在菌であり、常に周囲に存在しているためです。免疫の低下が起きると再度感染し、発症してしまいます」
Q.食道カンジダ症を予防することは可能ですか。
井藤さん「可能です。食道カンジダ症は、健康な人なら発症しない病気です。バランスのよい食事、質のよい睡眠など、日々の健康状態を管理することが大切といえるでしょう。
また、基礎疾患や内服薬により『自分は免疫力が低下してしまっているかも』と心配な人もいることでしょう。食事、睡眠、過度な疲労に注意することは同じですが、定期的な胃カメラ検査を行うことで、早期に見つけて対処することも大切です。喉の違和感や食事の詰まり感などがある場合は、早めに胃カメラ検査を行ってください」