生まれたばかりの我が子を殺害した罪などに問われている小関彩乃被告(23)の裁判。札幌高裁は、懲役5年の1審判決を支持し、被告側の訴えを棄却しました。小関被告は、事件前、性風俗店で働き、誰にも相談できないまま、子どもを出産していました。社会から孤立し、声を上げられなかった背景には、何があったのでしょうか。【写真を見る】「とっさに殺してしまおうと…」客に“本番行為”強要され一人で出産 社会から孤立しても声を上げられなかった理由【news23】「とっさに殺してしまおうと・・・」たった一人で出産去年6月、北海道・千歳市の駅のコインロッカーから乳児の遺体が見つかった事件。

記者「遺体が入っていたロッカーは、暗証番号やICカードでロックする“キーレスタイプ”のもので、発見時、ロックがかかった状態だったということです」殺人と死体遺棄の罪に問われたのは、23歳の小関彩乃被告です。5月23日の控訴審判決で、札幌高裁は、懲役5年の1審判決を支持し、被告側の訴えを棄却しました。犯行前に「赤ちゃんポスト」「妊娠SOS」と検索していたという小関被告。なぜ誰にも相談せず、一人で子どもを産み落とし手にかけたのでしょうか?記者「小関被告は高校時代、ソフトボール部での活動に打ち込む一方、部内では“いじめ”にあっていたといいます」家族にも相談できず唯一悩みを打ち明けたのは、交際していた1学年下の男性でした。高校を卒業してすぐに、彼との子どもを身ごもりますが親の説得で中絶。その後、マッチングアプリで出会ったのは、仙台市に住む大学生でした。仕事が長く続かない。人間関係でトラブルになる。小関被告が飛び込んだのは、“性風俗”の仕事でしたが、月収約60万円は、すべて交際相手の競馬代や奨学金の返済などに消えていきました。そして性風俗の客に、いわゆる“本番行為”を強要され妊娠しました。【1審の被告人質問】小関被告「客に口をふさがれ、スマホを没収され、手足を縛られ、抵抗できないようにされた。『もう同意だよね?』と言われ、中出しされた」弁護人 「レイプだと思った?」小関被告「思いました」弁護人 「なぜ警察に言わなかったのですか?」小関被告「風俗をやっている以上、こうしたリスクはつきもので相談できないと思った。他の人から『相談してもほぼ門前払い』だと聞いていた」妊娠のことを誰にも打ち明けられないまま、去年5月に陣痛が始まった小関被告。ホテルの浴槽に、お湯を張り水中で出産しましたが、その後、生まれ落ちた赤ちゃんを湯船に沈め殺害しました。小関被告「赤ちゃんと目が合ったような気がした。以前に中絶した子どもと、この子に『なんでお前ばかり幸せなんだ』と責められているような気がした。とっさに殺してしまおうと思って、横向きで水の中に沈めてしまった」“グレーゾーン”の女性たち声が上げられない小関被告と面会し精神鑑定を行った医師は、“孤立出産”に至った背景をこう指摘します。人吉こころのホスピタル 精神科・興野康也精神科医師「小関さんに関して鑑定結果としてあったのは、一つは境界知能、もう一つはADHDのグレーゾーンですね」グレーゾーンとは「発達障害の診断基準には至らないものの一部症状が見られる状態」です。また、小関被告はIQも平均を下回っていたといいます。医師はこうした特性が、“妊娠を相談できなかった”原因だと見ているのです。興野医師「困ったときに『私困っている』とちゃんと言える人は、孤立出産にまでならない。自分の困っていることを感じるのも苦手だし、それを意識して人に伝えるのも苦手なことが多い」小関被告「親に風俗をやっている事を知られるのがすごく嫌だった。金銭的余裕もない、赤ちゃんの父親もわからない。サポートは受けられないと思っていた」性風俗で働いていた事を理由に、声をあげなかった小関被告。夜の世界で働く女性たちの中には、客から性行為を求められるなど、小関被告と同じような経験をした人も少なくありません。札幌の風俗で働くアキさん(仮名)「サイトに書かれているウソを、お客様が信じてくることは結構ある。何で指名されたんですかと聞いた時に、サイトで“本番”ができると書いてあったから、『できるんだよね』と言われたことがあって。泣き寝入りが多いと思います。(Q.場合によっては、なし崩し的にやらせちゃう子もいる?)いると思います」「普通の人生が生きられない」“孤立”した女性たち“それでも風俗で働くしかなかった”。パニック障害になり、生活のため風俗で働いていた女性はこう振り返ります。過去に風俗で勤務していたにゃんさん(仮名)「“普通”と呼ばれるような人生、そういう風に生きられない人たちも、たくさんいるのも事実で、障害がある身としては、ありがたいなというか、風俗でしかお金を稼いで生きていけない」その上で妊娠を相談できなかった小関被告については…にゃんさん「自分が小関被告の立場に立った時にどうするかなと思うと、同じようにSOSを出せなかったと思いますね。実際助けを求めたところで、責められるだけで終わって、帰されたらどうしようとか、いろんな不安との葛藤があって、相談に行けなかったんだろうなって」風俗で働く女性に法律相談などの支援を行う「風テラス」。ソーシャルワーカーの橋本さんは、風俗業界には、経済面や人間関係など困難を抱えた人が集まりやすく、中にはグレーゾーンや軽度知的障害の人も少なくないのではとみています。風テラス橋本久美子さん「デリヘルが良い例で、時間には縛られない。マニュアルも最低限。社会の複雑な仕組みの労働には就けない中で、今まで散々クビになってきている中で、やっとお金もらえるわけですよね。(Q.女性ばかりが責められて、男性は責任をとらないが?)私のような支援者と呼ばれる人たちも『風俗で働いている。とんでもない』となりがちなんですね。自分で選んで自分で決めたんだよね。『自分で責任を取りなさい』じゃなくて、人は誰でも困ったときは助けを求めていいんだというふうに変わっていかなくちゃいけない」“妊娠相談できなかった”「境界知能」「グレーゾーン」とは?山本恵里伽キャスター:小関被告を鑑定した興野医師も妊娠を相談できなかった背景にあると指摘している「境界知能」と「グレーゾーン」の特性についてです。平均的なIQは85以上115以下と言われています。一方で知的障害と診断を受けるIQは70以下とされています。そしてどちらにも当てはまらない間が“境界知能”ということです。興野医師が行った知能テストでは、小関被告のIQは平均を下回る81。つまり境界知能だったということです。そしてもう一つの特性“グレーゾーン”ですけれども、グレーゾーンというのは「発達障害の診断には至らないものの、一部症状が見られる状態」のことを言います。そして興野医師によりますと、小関被告には、▼集中力が続かない、▼後先を考えずに行動してしまう、といった発達障害の一つであるADHDの一部特性があったということです。小関被告が妊娠を相談できなかったのも、ADHDのグレーゾーンの特性が原因だと興野医師は指摘しています。“生きづらさ”抱える女性たち取材した記者は・・・小川彩佳キャスター:事件発生から裁判まで傍聴をして、そして取材を通して小関被告について、どんなことを感じましたか。貴田岡結衣記者:グレーゾーンの特性があるからといって、罪を犯していい理由には決してなりません。また、その特性のある人が犯罪を起こしやすいということでも全くありません。しかし、被告と同じように、生きづらさを抱えている人たちがいるのではないかと感じ、取材を続けていました。小関被告は片付けができないとか、忘れ物が多いという一面もあり、幼い頃は親から叱られることが多かったそうです。興野医師は小さい頃から、ADHDやグレーゾーンを知っていれば、被告もこんなに自己否定をせず、また周囲の人も必要以上に責めることなく違う生き方ができたのではないかと話していました。落語家 蝶花楼桃花さん:グレーゾーンという言葉を知らなかったんですけども、まずはグレーゾーンだということを当人が認識するシステムがあることによって、事件を未然に防いだり、手を差し伸べたりということが、できるのではないかなと感じました。小川キャスター:繰り返さないためには、どうしたことが必要なのかですよね。全国で相次いでいる同様の事件があるわけですが、防ぐにはどういったことが必要だと感じますか。貴田岡記者:乳児の遺棄事件が相次いでいる中で、妊娠・出産をして遺棄してしまった事件を起こした女性たちを、どうしても「だらしない」とか「相談しなかったのが悪いんじゃないか」と、女性1人だけの問題として背景を考えることなく、“自業自得”という言葉でくくってしまっているのが現状だと思います。しかし、こうした事件を繰り返さないためには、事件の事実に蓋をすることなく、女性1人の背景を見ないものとせずに声を上げにくい女性の存在を見つめ続けて、支援のあり方を考えていくことが大切だと感じました。小川キャスター:ソーシャルワーカーの方も、人は誰でも困ったときは助けを求めていいんだというふうに変わっていかなければならないと、おっしゃっていましたけれども、そうした環境・社会を作っていくのは、私達1人1人であって、私達1人1人が当事者意識を持って、どんなふうに向き合うかということでも大きく変わっていくのかなと感じました。
生まれたばかりの我が子を殺害した罪などに問われている小関彩乃被告(23)の裁判。札幌高裁は、懲役5年の1審判決を支持し、被告側の訴えを棄却しました。小関被告は、事件前、性風俗店で働き、誰にも相談できないまま、子どもを出産していました。社会から孤立し、声を上げられなかった背景には、何があったのでしょうか。
【写真を見る】「とっさに殺してしまおうと…」客に“本番行為”強要され一人で出産 社会から孤立しても声を上げられなかった理由【news23】「とっさに殺してしまおうと・・・」たった一人で出産去年6月、北海道・千歳市の駅のコインロッカーから乳児の遺体が見つかった事件。

記者「遺体が入っていたロッカーは、暗証番号やICカードでロックする“キーレスタイプ”のもので、発見時、ロックがかかった状態だったということです」殺人と死体遺棄の罪に問われたのは、23歳の小関彩乃被告です。5月23日の控訴審判決で、札幌高裁は、懲役5年の1審判決を支持し、被告側の訴えを棄却しました。犯行前に「赤ちゃんポスト」「妊娠SOS」と検索していたという小関被告。なぜ誰にも相談せず、一人で子どもを産み落とし手にかけたのでしょうか?記者「小関被告は高校時代、ソフトボール部での活動に打ち込む一方、部内では“いじめ”にあっていたといいます」家族にも相談できず唯一悩みを打ち明けたのは、交際していた1学年下の男性でした。高校を卒業してすぐに、彼との子どもを身ごもりますが親の説得で中絶。その後、マッチングアプリで出会ったのは、仙台市に住む大学生でした。仕事が長く続かない。人間関係でトラブルになる。小関被告が飛び込んだのは、“性風俗”の仕事でしたが、月収約60万円は、すべて交際相手の競馬代や奨学金の返済などに消えていきました。そして性風俗の客に、いわゆる“本番行為”を強要され妊娠しました。【1審の被告人質問】小関被告「客に口をふさがれ、スマホを没収され、手足を縛られ、抵抗できないようにされた。『もう同意だよね?』と言われ、中出しされた」弁護人 「レイプだと思った?」小関被告「思いました」弁護人 「なぜ警察に言わなかったのですか?」小関被告「風俗をやっている以上、こうしたリスクはつきもので相談できないと思った。他の人から『相談してもほぼ門前払い』だと聞いていた」妊娠のことを誰にも打ち明けられないまま、去年5月に陣痛が始まった小関被告。ホテルの浴槽に、お湯を張り水中で出産しましたが、その後、生まれ落ちた赤ちゃんを湯船に沈め殺害しました。小関被告「赤ちゃんと目が合ったような気がした。以前に中絶した子どもと、この子に『なんでお前ばかり幸せなんだ』と責められているような気がした。とっさに殺してしまおうと思って、横向きで水の中に沈めてしまった」“グレーゾーン”の女性たち声が上げられない小関被告と面会し精神鑑定を行った医師は、“孤立出産”に至った背景をこう指摘します。人吉こころのホスピタル 精神科・興野康也精神科医師「小関さんに関して鑑定結果としてあったのは、一つは境界知能、もう一つはADHDのグレーゾーンですね」グレーゾーンとは「発達障害の診断基準には至らないものの一部症状が見られる状態」です。また、小関被告はIQも平均を下回っていたといいます。医師はこうした特性が、“妊娠を相談できなかった”原因だと見ているのです。興野医師「困ったときに『私困っている』とちゃんと言える人は、孤立出産にまでならない。自分の困っていることを感じるのも苦手だし、それを意識して人に伝えるのも苦手なことが多い」小関被告「親に風俗をやっている事を知られるのがすごく嫌だった。金銭的余裕もない、赤ちゃんの父親もわからない。サポートは受けられないと思っていた」性風俗で働いていた事を理由に、声をあげなかった小関被告。夜の世界で働く女性たちの中には、客から性行為を求められるなど、小関被告と同じような経験をした人も少なくありません。札幌の風俗で働くアキさん(仮名)「サイトに書かれているウソを、お客様が信じてくることは結構ある。何で指名されたんですかと聞いた時に、サイトで“本番”ができると書いてあったから、『できるんだよね』と言われたことがあって。泣き寝入りが多いと思います。(Q.場合によっては、なし崩し的にやらせちゃう子もいる?)いると思います」「普通の人生が生きられない」“孤立”した女性たち“それでも風俗で働くしかなかった”。パニック障害になり、生活のため風俗で働いていた女性はこう振り返ります。過去に風俗で勤務していたにゃんさん(仮名)「“普通”と呼ばれるような人生、そういう風に生きられない人たちも、たくさんいるのも事実で、障害がある身としては、ありがたいなというか、風俗でしかお金を稼いで生きていけない」その上で妊娠を相談できなかった小関被告については…にゃんさん「自分が小関被告の立場に立った時にどうするかなと思うと、同じようにSOSを出せなかったと思いますね。実際助けを求めたところで、責められるだけで終わって、帰されたらどうしようとか、いろんな不安との葛藤があって、相談に行けなかったんだろうなって」風俗で働く女性に法律相談などの支援を行う「風テラス」。ソーシャルワーカーの橋本さんは、風俗業界には、経済面や人間関係など困難を抱えた人が集まりやすく、中にはグレーゾーンや軽度知的障害の人も少なくないのではとみています。風テラス橋本久美子さん「デリヘルが良い例で、時間には縛られない。マニュアルも最低限。社会の複雑な仕組みの労働には就けない中で、今まで散々クビになってきている中で、やっとお金もらえるわけですよね。(Q.女性ばかりが責められて、男性は責任をとらないが?)私のような支援者と呼ばれる人たちも『風俗で働いている。とんでもない』となりがちなんですね。自分で選んで自分で決めたんだよね。『自分で責任を取りなさい』じゃなくて、人は誰でも困ったときは助けを求めていいんだというふうに変わっていかなくちゃいけない」“妊娠相談できなかった”「境界知能」「グレーゾーン」とは?山本恵里伽キャスター:小関被告を鑑定した興野医師も妊娠を相談できなかった背景にあると指摘している「境界知能」と「グレーゾーン」の特性についてです。平均的なIQは85以上115以下と言われています。一方で知的障害と診断を受けるIQは70以下とされています。そしてどちらにも当てはまらない間が“境界知能”ということです。興野医師が行った知能テストでは、小関被告のIQは平均を下回る81。つまり境界知能だったということです。そしてもう一つの特性“グレーゾーン”ですけれども、グレーゾーンというのは「発達障害の診断には至らないものの、一部症状が見られる状態」のことを言います。そして興野医師によりますと、小関被告には、▼集中力が続かない、▼後先を考えずに行動してしまう、といった発達障害の一つであるADHDの一部特性があったということです。小関被告が妊娠を相談できなかったのも、ADHDのグレーゾーンの特性が原因だと興野医師は指摘しています。“生きづらさ”抱える女性たち取材した記者は・・・小川彩佳キャスター:事件発生から裁判まで傍聴をして、そして取材を通して小関被告について、どんなことを感じましたか。貴田岡結衣記者:グレーゾーンの特性があるからといって、罪を犯していい理由には決してなりません。また、その特性のある人が犯罪を起こしやすいということでも全くありません。しかし、被告と同じように、生きづらさを抱えている人たちがいるのではないかと感じ、取材を続けていました。小関被告は片付けができないとか、忘れ物が多いという一面もあり、幼い頃は親から叱られることが多かったそうです。興野医師は小さい頃から、ADHDやグレーゾーンを知っていれば、被告もこんなに自己否定をせず、また周囲の人も必要以上に責めることなく違う生き方ができたのではないかと話していました。落語家 蝶花楼桃花さん:グレーゾーンという言葉を知らなかったんですけども、まずはグレーゾーンだということを当人が認識するシステムがあることによって、事件を未然に防いだり、手を差し伸べたりということが、できるのではないかなと感じました。小川キャスター:繰り返さないためには、どうしたことが必要なのかですよね。全国で相次いでいる同様の事件があるわけですが、防ぐにはどういったことが必要だと感じますか。貴田岡記者:乳児の遺棄事件が相次いでいる中で、妊娠・出産をして遺棄してしまった事件を起こした女性たちを、どうしても「だらしない」とか「相談しなかったのが悪いんじゃないか」と、女性1人だけの問題として背景を考えることなく、“自業自得”という言葉でくくってしまっているのが現状だと思います。しかし、こうした事件を繰り返さないためには、事件の事実に蓋をすることなく、女性1人の背景を見ないものとせずに声を上げにくい女性の存在を見つめ続けて、支援のあり方を考えていくことが大切だと感じました。小川キャスター:ソーシャルワーカーの方も、人は誰でも困ったときは助けを求めていいんだというふうに変わっていかなければならないと、おっしゃっていましたけれども、そうした環境・社会を作っていくのは、私達1人1人であって、私達1人1人が当事者意識を持って、どんなふうに向き合うかということでも大きく変わっていくのかなと感じました。
去年6月、北海道・千歳市の駅のコインロッカーから乳児の遺体が見つかった事件。
記者「遺体が入っていたロッカーは、暗証番号やICカードでロックする“キーレスタイプ”のもので、発見時、ロックがかかった状態だったということです」
殺人と死体遺棄の罪に問われたのは、23歳の小関彩乃被告です。5月23日の控訴審判決で、札幌高裁は、懲役5年の1審判決を支持し、被告側の訴えを棄却しました。
犯行前に「赤ちゃんポスト」「妊娠SOS」と検索していたという小関被告。なぜ誰にも相談せず、一人で子どもを産み落とし手にかけたのでしょうか?
記者「小関被告は高校時代、ソフトボール部での活動に打ち込む一方、部内では“いじめ”にあっていたといいます」
家族にも相談できず唯一悩みを打ち明けたのは、交際していた1学年下の男性でした。高校を卒業してすぐに、彼との子どもを身ごもりますが親の説得で中絶。その後、マッチングアプリで出会ったのは、仙台市に住む大学生でした。
仕事が長く続かない。人間関係でトラブルになる。小関被告が飛び込んだのは、“性風俗”の仕事でしたが、月収約60万円は、すべて交際相手の競馬代や奨学金の返済などに消えていきました。そして性風俗の客に、いわゆる“本番行為”を強要され妊娠しました。
【1審の被告人質問】小関被告「客に口をふさがれ、スマホを没収され、手足を縛られ、抵抗できないようにされた。『もう同意だよね?』と言われ、中出しされた」弁護人 「レイプだと思った?」小関被告「思いました」弁護人 「なぜ警察に言わなかったのですか?」小関被告「風俗をやっている以上、こうしたリスクはつきもので相談できないと思った。他の人から『相談してもほぼ門前払い』だと聞いていた」
妊娠のことを誰にも打ち明けられないまま、去年5月に陣痛が始まった小関被告。ホテルの浴槽に、お湯を張り水中で出産しましたが、その後、生まれ落ちた赤ちゃんを湯船に沈め殺害しました。
小関被告「赤ちゃんと目が合ったような気がした。以前に中絶した子どもと、この子に『なんでお前ばかり幸せなんだ』と責められているような気がした。とっさに殺してしまおうと思って、横向きで水の中に沈めてしまった」
小関被告と面会し精神鑑定を行った医師は、“孤立出産”に至った背景をこう指摘します。
人吉こころのホスピタル 精神科・興野康也精神科医師「小関さんに関して鑑定結果としてあったのは、一つは境界知能、もう一つはADHDのグレーゾーンですね」
グレーゾーンとは「発達障害の診断基準には至らないものの一部症状が見られる状態」です。また、小関被告はIQも平均を下回っていたといいます。医師はこうした特性が、“妊娠を相談できなかった”原因だと見ているのです。
興野医師「困ったときに『私困っている』とちゃんと言える人は、孤立出産にまでならない。自分の困っていることを感じるのも苦手だし、それを意識して人に伝えるのも苦手なことが多い」
小関被告「親に風俗をやっている事を知られるのがすごく嫌だった。金銭的余裕もない、赤ちゃんの父親もわからない。サポートは受けられないと思っていた」
性風俗で働いていた事を理由に、声をあげなかった小関被告。夜の世界で働く女性たちの中には、客から性行為を求められるなど、小関被告と同じような経験をした人も少なくありません。
札幌の風俗で働くアキさん(仮名)「サイトに書かれているウソを、お客様が信じてくることは結構ある。何で指名されたんですかと聞いた時に、サイトで“本番”ができると書いてあったから、『できるんだよね』と言われたことがあって。泣き寝入りが多いと思います。(Q.場合によっては、なし崩し的にやらせちゃう子もいる?)いると思います」
“それでも風俗で働くしかなかった”。パニック障害になり、生活のため風俗で働いていた女性はこう振り返ります。
過去に風俗で勤務していたにゃんさん(仮名)「“普通”と呼ばれるような人生、そういう風に生きられない人たちも、たくさんいるのも事実で、障害がある身としては、ありがたいなというか、風俗でしかお金を稼いで生きていけない」
その上で妊娠を相談できなかった小関被告については…
にゃんさん「自分が小関被告の立場に立った時にどうするかなと思うと、同じようにSOSを出せなかったと思いますね。実際助けを求めたところで、責められるだけで終わって、帰されたらどうしようとか、いろんな不安との葛藤があって、相談に行けなかったんだろうなって」
風俗で働く女性に法律相談などの支援を行う「風テラス」。ソーシャルワーカーの橋本さんは、風俗業界には、経済面や人間関係など困難を抱えた人が集まりやすく、中にはグレーゾーンや軽度知的障害の人も少なくないのではとみています。
風テラス橋本久美子さん「デリヘルが良い例で、時間には縛られない。マニュアルも最低限。社会の複雑な仕組みの労働には就けない中で、今まで散々クビになってきている中で、やっとお金もらえるわけですよね。(Q.女性ばかりが責められて、男性は責任をとらないが?)私のような支援者と呼ばれる人たちも『風俗で働いている。とんでもない』となりがちなんですね。自分で選んで自分で決めたんだよね。『自分で責任を取りなさい』じゃなくて、人は誰でも困ったときは助けを求めていいんだというふうに変わっていかなくちゃいけない」
山本恵里伽キャスター:小関被告を鑑定した興野医師も妊娠を相談できなかった背景にあると指摘している「境界知能」と「グレーゾーン」の特性についてです。
平均的なIQは85以上115以下と言われています。一方で知的障害と診断を受けるIQは70以下とされています。そしてどちらにも当てはまらない間が“境界知能”ということです。興野医師が行った知能テストでは、小関被告のIQは平均を下回る81。つまり境界知能だったということです。
そしてもう一つの特性“グレーゾーン”ですけれども、グレーゾーンというのは「発達障害の診断には至らないものの、一部症状が見られる状態」のことを言います。そして興野医師によりますと、小関被告には、▼集中力が続かない、▼後先を考えずに行動してしまう、といった発達障害の一つであるADHDの一部特性があったということです。小関被告が妊娠を相談できなかったのも、ADHDのグレーゾーンの特性が原因だと興野医師は指摘しています。
小川彩佳キャスター:事件発生から裁判まで傍聴をして、そして取材を通して小関被告について、どんなことを感じましたか。
貴田岡結衣記者:グレーゾーンの特性があるからといって、罪を犯していい理由には決してなりません。また、その特性のある人が犯罪を起こしやすいということでも全くありません。しかし、被告と同じように、生きづらさを抱えている人たちがいるのではないかと感じ、取材を続けていました。
小関被告は片付けができないとか、忘れ物が多いという一面もあり、幼い頃は親から叱られることが多かったそうです。興野医師は小さい頃から、ADHDやグレーゾーンを知っていれば、被告もこんなに自己否定をせず、また周囲の人も必要以上に責めることなく違う生き方ができたのではないかと話していました。
落語家 蝶花楼桃花さん:グレーゾーンという言葉を知らなかったんですけども、まずはグレーゾーンだということを当人が認識するシステムがあることによって、事件を未然に防いだり、手を差し伸べたりということが、できるのではないかなと感じました。
小川キャスター:繰り返さないためには、どうしたことが必要なのかですよね。全国で相次いでいる同様の事件があるわけですが、防ぐにはどういったことが必要だと感じますか。
貴田岡記者:乳児の遺棄事件が相次いでいる中で、妊娠・出産をして遺棄してしまった事件を起こした女性たちを、どうしても「だらしない」とか「相談しなかったのが悪いんじゃないか」と、女性1人だけの問題として背景を考えることなく、“自業自得”という言葉でくくってしまっているのが現状だと思います。
しかし、こうした事件を繰り返さないためには、事件の事実に蓋をすることなく、女性1人の背景を見ないものとせずに声を上げにくい女性の存在を見つめ続けて、支援のあり方を考えていくことが大切だと感じました。