一歩踏み出せる人、チャンスを掴む人が実践するコツとは(写真: Fast&Slow / PIXTA)
考えること、判断することはできる。でも実行はできない、一歩を踏み出せないという人は少なくないでしょう。では、どうすれば状況を変えられるのでしょうか。脳科学者の茂木健一郎氏は、それまでの価値観や判断基準など思考の枠組み、経験や教育、先入観からつくられた思考パターンをいったん取り払う「マインドセット」と同じくらい、「セルフコントロール」の力を高めることが重要だと話します。茂木氏の『「本当の頭のよさ」を磨く脳の使い方~いま必要な、4つの力を手に入れる思考実験「モギシケン」』の一部を抜粋・再編集し、誰でも実践できるチャンスを掴むためのシンプルなコツをご紹介します。
「やらなければいけないことがあるのに、モチベーションが上がらない」誰にでもこのようなときがあるはず。これはセルフコントロールがしっかりできていない証拠でもあります。
セルフコントロールとは、自分で自分のモチベーションをコントロールすること。一流のビジネスパーソンやスポーツ選手は、自分の感情をうまくコントロールして感情や環境に大きく左右されることなく、つねに高いパフォーマンスを発揮できるように努めています。
言うまでもありませんが、赤ちゃんや子どものときは、誰もがセルフコントロールできないところからスタートします。赤ちゃんであれば、お腹が空いたら泣くし、子どもでも腹が立ったら物を投げつけたりしますよね。つまり、人間には、もともとはセルフコントロールできない自分しかいないわけです。
脳科学的には、社会的なセルフコントロールができるようになるのはティーンエイジャーからといわれています。つまり、16、17歳から18歳あたりで脳のセルフコントロール機能が急速に発達することがわかっています。
でも、セルフコントロールしなければ……と思ってできるものでもないですし、どんなやり方がよいかもわかりませんよね。一番シンプルなやり方は「もう1人の自分をつくること」です。
どういうことかといえば、たとえば、何かの誘惑に負けて今日はどうも仕事をやる気が起きないというとき、サボろうとする自分に対して「いや、ちゃんと仕事をしなきゃ」ともう1人の自分に注意させます。1人では足りないなら2人目、3人目と「複数の自分」をつくり、とにかく「やりたくない自分」に発破をかけるのです。
こうしたセルフコントロールの方法は、衝動的な感情の抑制にも役立ちます。それこそ、社会的に成功していて、性格もとてもおだやか、と言われているような人が、もともとは怒りっぽい性格だったということがありますよね。
これを脳科学的に分析すると、脳には思考や理性をコントロールする脳の司令塔と呼ばれる前頭葉という部位と、情動反応の処理をする扁桃体という部位があります。僕たちが感情を露わにするときは、つねに前頭葉と扁桃体がせめぎ合っています。
茂木健一郎さん(写真:日本実業出版社提供)
「本当に頭のいい人」は、同時にアニマルスピリッツが強い人(理性に偏りすぎずに革新的な挑戦をする人)でもありますから、扁桃体が優位になりがちな場合もあります。
でも、そこでぐっとセルフコントロールをする。前頭葉の働きに従う。扁桃体を中心とする感情の力学がコントロールしにくい人であればあるほど、それをおさえつけよう、コントロールしようとすることで、精神的に強くなれます。
つまり、扁桃体の働きが優位な人は、前頭葉が優位なもう1人の自分をつくるのです。そして、扁桃体のアクセルに前頭葉がブレーキをかけるようにセルフコントロールするのです。
インターネットが浸透した現代社会では、不確かな未来を予測し、立ち向かうには、膨大な情報を集め、敏感に反応することが求められています。しかし、そんな時代だからこそ「鈍感力」も必要だと思うのです。
以前、ラジオの仕事でスタッフと話していて「なるほどな」と思ったことがありました。それは、「Twitterで書き込まれる意見に合わせた番組づくりをすると、99%のリスナーが逃げてしまう」というものでした。
そもそもラジオとTwitterは相性がいいと言われていて、ほとんどのラジオで番組への意見や書き込みなどをTwitterで募集しています。ところが、Twitterの書き込みをしているリスナーというのは全リスナーのわずか1%程度で、いい意味でも悪い意味でも偏った意見が多いのだそうです。
だからTwitterの1%のリスナーの反応を「参考にする程度」ならいいのですが、あまりにもその意見に合わせた番組づくりをしてしまうと、99%のリスナーが逃げてしまうというわけです。これこそ、情報に過敏すぎてはいけないという好例ではないでしょうか。
何か動き出そうとするときに動けない。実行力に欠ける。そういう人は、情報や他人の目、世間体に敏感に反応しすぎていて、「自分の内なる声」に反応できなくなっているのかもしれません。他人の評価を気にしすぎて自分らしさを大事にせず、本来の自分らしさを押し殺してしまうのはもったいないことです。
これは映画にもなった実話なのですが、ニューヨークの社交界のトップに歌うことが大好きなフローレンス・フォスター・ジェンキンス(1868~1944)という女性がいました。マダム・フローレンスと呼ばれていた彼女は自分自身を絶世の歌姫だと思い込んでいて、実は音痴でそれに気づいていないのは自分だけ。それでも、夫の協力を得ながらソプラノ歌手になって音楽の殿堂であるカーネギーホールで歌うという夢を叶えたのです。もし、マダム・フローレンスが「どうせ私は歌が下手だから……」と世間の目ばかり気にしていたとしたら、カーネギーホールで歌うことなどできなかったでしょう。ある意味での「鈍感力」が彼女をカーネギーホールのステージに立たせたのです。一歩踏み出せない、そんな人はセルフコントロールしながら、あえて鈍感力を発揮することにチャレンジしてみてください。(茂木 健一郎 : 脳科学者)
これは映画にもなった実話なのですが、ニューヨークの社交界のトップに歌うことが大好きなフローレンス・フォスター・ジェンキンス(1868~1944)という女性がいました。
マダム・フローレンスと呼ばれていた彼女は自分自身を絶世の歌姫だと思い込んでいて、実は音痴でそれに気づいていないのは自分だけ。それでも、夫の協力を得ながらソプラノ歌手になって音楽の殿堂であるカーネギーホールで歌うという夢を叶えたのです。
もし、マダム・フローレンスが「どうせ私は歌が下手だから……」と世間の目ばかり気にしていたとしたら、カーネギーホールで歌うことなどできなかったでしょう。ある意味での「鈍感力」が彼女をカーネギーホールのステージに立たせたのです。
一歩踏み出せない、そんな人はセルフコントロールしながら、あえて鈍感力を発揮することにチャレンジしてみてください。
(茂木 健一郎 : 脳科学者)