昨年12月15日、海上自衛隊は神奈川県の厚木航空基地でパワハラ案件があったと公表した。報じられた事件の概要は、厚木基地に所属する50代の2等海曹が「上司5人に暴言」などの“逆パワハラ”を働いたとして、懲戒免職になったというもの。これまで詳細は報じられていなかったが、実はこの2等海曹は女性。つまり女性隊員が上司に対してパワハラを行った、という過去あまり耳にしなかったケースなのである。何があったのか、ことの詳細と、本誌「週刊新潮」に対して本人が告白した内容をご紹介しよう。
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【写真10枚】インド空軍の「美しすぎる女性パイロット」の写真をみる 「女性軍人」の躍進は世界中で進んでいる この女性隊員は、2020年6月から22年8月にかけて、厚木航空基地隊の3等海佐ら複数の上司に対して暴言を吐き、さらに職場のネットワークシステムのデータを故意に消去して業務を妨害したとされる。結果、パワハラを受けた上司のうち4人が精神的な疾患を発症し、配置換えを余儀なくされた。酒井良海上幕僚長 まず規律の厳しいはずの自衛隊という組織にあって、上官に「暴言」を吐くこと自体が極めてまれなケースに思えるが、いったい何があったというのか。「懲戒免職となった2曹は、航空隊ではその名を知らぬ者はいない女傑です」 そう明かすのは、さる防衛省関係者だ。自衛隊でハラスメントといえば、どうしても被害者は階級の低い者か女性隊員と思われがちだが、今回は事情が違うとして、こう続ける。「軍事組織である自衛隊では、上官に対しては絶対服従が基本。ところが加害者である彼女は、上官に対して意に染まないことがあると口汚くののしるなど、まるで女帝のように振る舞っていたそうです。見た目は女優の国生さゆり似で短髪。仕事はできるが気性が荒い面があった」「前の職場も2日で逃げたんだから…」 ここに、本誌が入手した今回のパワハラ事件についての〈懲戒処分説明書〉がある。昨年12月21日に海自の横須賀地方総監の名義で作成されたものだが、そこに記された〈違反事実〉をみると、上司と部下の恐るべきやり取りの仔細が記録されていた。 たとえば、ある上官への暴言については、〈日常的に「あんた」と呼ぶとともに、「作業にあんた行きなさいよ」「ばかじゃないの」と暴言を吐いた〉 また暴言とは別にパワハラとして指摘されているのは、以下の通りだ。〈上司である就職援護室員1等海尉に対し、(中略)「今の職場で仕事していく気あるの?前の職場も2日で逃げたんだから、厚木勤務にこだわらず自宅近辺の横須賀に帰りなよ」との1尉の病歴である「適応障害」を揶揄する等の人格を否定する発言によって精神的苦痛を与え、1尉が精神疾患を発症する一因をなした〉「本当に納得がいきません」 こうした言動が問題となり、懲戒免職処分となったわけだが、この件はまだ落着していない。 処分が下された女性海曹は、これを不服として海自に対して不服申し立てを行っているという。その言い分を聞くべく、彼女の自宅へ足を運ぶと、以下のように答えるのだった。「私が口にしたとされる暴言について、2年前のことなども多く含まれていて正直なところ詳細は記憶にないのですが、厳しく意見具申を行ったことは確かにありました。私は防衛省のためにと思って頑張っていたつもりではありますが、上司にも意見を繰り返すので、きっと組織では疎(うと)まれていたんでしょうね……」 彼女の認識はこうだ。「当時の上司である1等海曹に強い口調で意見したのは事実ですが、それは彼が女性自衛官の官舎から出たゴミを漁っているのを目撃し、見とがめたということもあります。こうした行動をとる上司を注意するのは、それほどにおかしいことでしょうか」 また上司の病歴を揶揄したとしてパワハラ認定を受けたケースについては、「この上司は幹部自衛官ではありますが、私と同期で以前からLINEのやり取りをする関係でした。彼女からのメッセージには“(適応障害の)診断をもらえれば、異動も早急にやってもらえるかもという戦略でもあります”と書かれていたこともあって、勤務先を替えたいがための詐病だろうと考えていました。こうした彼女の態度をとがめて言ったことを、その発言に至るまでの事情を加味せず被疑事実とするのは、本当に納得がいきません」 言い分は真っ向から対立したままだが、間違いなくいえるのはこのところ自衛隊で不祥事が頻発しているということだろう。座礁事故、大麻取締法違反での検挙、窃盗、暴行等々。2月9日発売の「週刊新潮」では、防衛力増強が叫ばれる中で揺れる自衛隊の現状、そして今回のパワハラに関する内部文書の全貌と、女性隊員側の反論を4ページにわたって特集する。「週刊新潮」2022年2月16日号 掲載
この女性隊員は、2020年6月から22年8月にかけて、厚木航空基地隊の3等海佐ら複数の上司に対して暴言を吐き、さらに職場のネットワークシステムのデータを故意に消去して業務を妨害したとされる。結果、パワハラを受けた上司のうち4人が精神的な疾患を発症し、配置換えを余儀なくされた。
まず規律の厳しいはずの自衛隊という組織にあって、上官に「暴言」を吐くこと自体が極めてまれなケースに思えるが、いったい何があったというのか。
「懲戒免職となった2曹は、航空隊ではその名を知らぬ者はいない女傑です」
そう明かすのは、さる防衛省関係者だ。自衛隊でハラスメントといえば、どうしても被害者は階級の低い者か女性隊員と思われがちだが、今回は事情が違うとして、こう続ける。
「軍事組織である自衛隊では、上官に対しては絶対服従が基本。ところが加害者である彼女は、上官に対して意に染まないことがあると口汚くののしるなど、まるで女帝のように振る舞っていたそうです。見た目は女優の国生さゆり似で短髪。仕事はできるが気性が荒い面があった」
ここに、本誌が入手した今回のパワハラ事件についての〈懲戒処分説明書〉がある。昨年12月21日に海自の横須賀地方総監の名義で作成されたものだが、そこに記された〈違反事実〉をみると、上司と部下の恐るべきやり取りの仔細が記録されていた。
たとえば、ある上官への暴言については、
〈日常的に「あんた」と呼ぶとともに、「作業にあんた行きなさいよ」「ばかじゃないの」と暴言を吐いた〉
また暴言とは別にパワハラとして指摘されているのは、以下の通りだ。
〈上司である就職援護室員1等海尉に対し、(中略)「今の職場で仕事していく気あるの?前の職場も2日で逃げたんだから、厚木勤務にこだわらず自宅近辺の横須賀に帰りなよ」との1尉の病歴である「適応障害」を揶揄する等の人格を否定する発言によって精神的苦痛を与え、1尉が精神疾患を発症する一因をなした〉
こうした言動が問題となり、懲戒免職処分となったわけだが、この件はまだ落着していない。
処分が下された女性海曹は、これを不服として海自に対して不服申し立てを行っているという。その言い分を聞くべく、彼女の自宅へ足を運ぶと、以下のように答えるのだった。
「私が口にしたとされる暴言について、2年前のことなども多く含まれていて正直なところ詳細は記憶にないのですが、厳しく意見具申を行ったことは確かにありました。私は防衛省のためにと思って頑張っていたつもりではありますが、上司にも意見を繰り返すので、きっと組織では疎(うと)まれていたんでしょうね……」
彼女の認識はこうだ。
「当時の上司である1等海曹に強い口調で意見したのは事実ですが、それは彼が女性自衛官の官舎から出たゴミを漁っているのを目撃し、見とがめたということもあります。こうした行動をとる上司を注意するのは、それほどにおかしいことでしょうか」
また上司の病歴を揶揄したとしてパワハラ認定を受けたケースについては、
「この上司は幹部自衛官ではありますが、私と同期で以前からLINEのやり取りをする関係でした。彼女からのメッセージには“(適応障害の)診断をもらえれば、異動も早急にやってもらえるかもという戦略でもあります”と書かれていたこともあって、勤務先を替えたいがための詐病だろうと考えていました。こうした彼女の態度をとがめて言ったことを、その発言に至るまでの事情を加味せず被疑事実とするのは、本当に納得がいきません」
言い分は真っ向から対立したままだが、間違いなくいえるのはこのところ自衛隊で不祥事が頻発しているということだろう。座礁事故、大麻取締法違反での検挙、窃盗、暴行等々。2月9日発売の「週刊新潮」では、防衛力増強が叫ばれる中で揺れる自衛隊の現状、そして今回のパワハラに関する内部文書の全貌と、女性隊員側の反論を4ページにわたって特集する。
「週刊新潮」2022年2月16日号 掲載