「発達障害グレーゾーン」の人たち…「発達障害」と診断される人の、数倍は存在すると推測されている。しかも、その症状は必ずしも軽いわけではない。「発達障害」と確定診断されるかどうかの、まさにボーダーラインなのだ。
「発達障害」という言葉は、広く知られるようになった。その結果、自分も当てはまるのではないかと感じて、多くの人が医療機関を訪れるケースが非常に増えているその中に「発達障害グレーゾーン」と呼ばれる人々が少なからず存在する。
「発達障害」の診断基準をいくつか満たしているものの、全て満たしているわけではないため、「発達障害」の確定診断が受けられない。しかし、「グレーゾーン」の人は、「発達障害」と診断された人の何倍もいると見ている専門家もいる。
注意しなければならないのは、医師から「発達障害グレーゾーン」と言われた場合、「障害ではないので安心だ」とは、ならないケースが多いことだ。「グレーゾーン」の人は、「発達障害」と診断されている人より、症状が必ずしも軽いわけではない。症状が軽いから「グレーゾーン」なのではなく、複数ある診断基準のすべては満たさなかったということ。
国際的に利用される診断基準を1つでも満たさなければ、確定診断は下りずに「グレーゾーン」となる可能性が高い。だから、発達障害の確定診断を受けた人と同等、もしくはそれ以上に特性が強く出る人もいる。
にもかかわらず、「発達障害」の診断がないため、治療もされず、健常者と対等に扱われる立場にも置かれやすい。障害レベルの人に比べて「生きづらさ」が弱まるどころか、より深刻な困難を抱えることがあるのだ。
「発達障害グレーゾーン」というのは、正式な病名ではなく、あくまで「発達障害の傾向はあるが、確定診断を下すことができない状態」のこと。そのため、症状はかなり幅広いのが特徴だ。
「簡潔にまとめて」といった、漠然とした指示を理解できない。他人と話す時に、細かいところまで質問を重ね続けてしまう。「空気が読めない」、「共感するのが苦手」、「生きづらさ”を感じる」等々…。
大人の「発達障害グレーゾーン」の場合、受診する動機で多いのは「対人関係」だ。発達障害の特性のひとつに、コミュニケーション障害があるが、「グレーゾーン」の人たちは、ある程度の対人関係は作っても、うまく続けることができない。孤立しがちになり、孤独感に苦しむ。職場では、ある程度は社会適応しているが、うまくいかない場面・経験もあり、ミスや叱責を恐れて、緊張が続く。このように、健常者と「発達障害」のはざまで、「グレーゾーン」特有の葛藤に苦しんでしまう。
「発達障害グレーゾーン」は、「発達障害」同様の治療は出来るのだろうか。結論から言うと、「発達障害グレーゾーン」の治療に、「発達障害」のような保険診療は適用されない。すべて自費診療になる。発達障害かどうかを調べることは保険診療の範囲で可能だが、診断基準に満たない場合は、特性についてのアドバイスを受けて終了となるケースが多いだろう。また、「発達障害」の確定診断を受けた人は、障害者手帳(精神障害者保健福祉手帳)が取得できるが、「グレーゾーン」の場合は、障害者手帳の交付はされない。
このように、「発達障害」の確定診断があれば保険診療や公的支援もあるが、「グレーゾーン」だと、その対象とならない。そうしたことも、「発達障害グレーゾーン」の方の大きな悩みとなる。
発達障害を持つ人は、その「生きづらさ」から、うつ病などの「二次障害」を発症することが少なくない。そして、「二次障害」は、「グレーゾーン」の人にも現れやすい特徴があり、うつ病や双極性障害、不安障害など幅広い精神疾患が該当する。
こうした「二次障害」の症状が出ている場合、放っておくと重症化したり、入院治療が必要になるケースもある。早期に治療を受けるためにも、「発達障害グレーゾーン」の場合は、「二次障害」の症状も含めて医師に相談することをおすすめする。
自分や周囲は「発達障害」の症状があると思っているのに、確定診断がおりなかった場合は、確定診断に向けて「セカンドオピニオン」を検討してもいいかもしれない。
「グレーゾーン」の人は、診断基準を満たすか満たさないかのボーダーラインにいるため、ちょっとした体調の違いでも症状がブレてしまいがちだ。受診した時の体調によっては、症状の現れ方が軽かったり、一部の症状が現れなかったりして、診断がおりない場合もある。「発達障害者支援センター」に問い合わせれば、住んでいるエリアの専門医を教えてくれる。
また、確定診断がなくても利用できる公的支援も、いくつか存在する。例えば、「発達障害者支援センター」では、発達障害に関する全般的な相談が可能だ。家族が発達障害の可能性があるという場合にも相談可能。「障害者就業・生活支援センター」では、仕事の悩みと生活の悩みの双方を相談出来る。
(小林晶子 医学博士・神経内科専門医)