気持ちよく酔っていたはずが、翌日気づくと銀行口座から多額の金が無くなっていた-。
立ち飲みや大衆酒場など千円ほどで楽しめる「せんべろの街」として親しまれる東京・赤羽。近年、強引な客引きで無理やり飲まされて泥酔し、多額の金を口座から引き出される被害が相次いでいた。逮捕された女らは、コーラの中にアルコール度数の高い中国の酒を混ぜるなど、手荒な手口で荒稼ぎしていた。記者も過去に遭遇していた恐ろしいやり口とは。
手を握り、しつこい勧誘
「お兄さん、2軒目どう?」
今年初め、深夜のJR赤羽駅南口。勤務を終えて帰宅途中に喫煙所に入った記者にアジア系の女性2人が声をかけてきた。
記者が「一滴も飲んでない。行かないよ」と断っても、「一杯だけでも」と2人は食い下がる。問いかけに無視を決め込み自宅の方へ歩き続けても、2人は引き下がらない。攻防戦は数百メートルにわたって続き、信号待ちの横断歩道では、なんと記者の手まで握ってきた。
それでも身じろぎもしなかった記者のかたくなな態度にあきらめた2人はそこで去っていった。
こうした強引な客引きの女に連れていかれた店で無理やり酒を飲まされて泥酔した後、口座から多額の現金がなくなっていたという被害が、令和2年ごろから赤羽駅周辺で急増していた。
警視庁に届けられた同地域でのトラブルの相談件数は元年の15件から2年には50件に増加。被害額も1年で約360万円から約1650万円に跳ね上がった。だが、酩酊(めいてい)状態の被害とあって、犯行場所や引き出しの状況などが明確ではなく、捜査は難航した。
警視庁は昨秋から赤羽署に加え、32署から約150人の捜査員を動員して本格的な捜査を実施。今年6~8月にかけ、一連の被害に関連したとして、客引きをしていた中国籍の女ら20人を風営法違反や窃盗などの疑いで逮捕した。
コーラに中国の「白酒」
容疑者のうち窃盗容疑で逮捕された中国籍の女2人から犯行の一端も明らかになってきた。
常套(じょうとう)の手口は自らが客引きと客の接待もし、中国の「白酒(パイチョウ)」と呼ばれる高い度数の酒を飲ませ、近くのコンビニエンスストアのATMで多額の現金を引き出させるというものだ。
女らは中国のSNS「微信(ウェイボ)」で頻繁にやりとりもしていた。
《コーラの缶の中に白酒入れた。食べさせて、相手の言っていることを聞いて「はいはい」とか「偉いですね」とか言えばいいよ》
《この客はあまり期待できない。ずっと帰りたいと言っていて、意識がはっきりし過ぎてる》
複数の女で酔客を囲んでコンビニへ連れて行き、現金を引き出す様子も赤羽駅近くの防犯カメラに収められていた。女は酔わせた男性に現金90万円を3回に分けて引き出させており、男性本人ではなくグループの1人がATM暗証番号を入力して現金を引き出す場面もあった。
日本人は貧乏
客引きの女らは、売上の2割を接待で使う店に納め、8割を手に入れていたことから、関係者の間では「ニハチ」と呼ばれ、荒稼ぎしていたという。中には高級車を所有する容疑者もいたという。赤羽駅付近では「東口グループ」「南口グループ」に分かれ、30人以上がニハチとして活動していたとみられる。
手荒な手口に味をしめ、荒稼ぎしていた容疑者のSNSにはこうしたやりとりも残っていた。
《日本人は金持ってない》《今のお客さんはお金持っていなくて、私たちより貧乏。日本人は家族や生活費にお金を使う。お客さんは年間5、60万円の貯金しかできない》
警視庁は捜査と並行して駅前の警戒にも注力。昨年には約70件、約3700万円の被害相談があったが、捜査幹部は「今では外国人の客引きは壊滅状態。ほとんどいない」と話す。
それでも、過去には赤羽以外の地域でも同様の被害があったと指摘し、「違う地域でまたやる可能性もある。今後も取り締まりは続けていく」と表情を引き締めた。(内田優作)