新型コロナウイルスによる死者が国内で4万人を超える中、都道府県別では、大阪府が6000人を突破し、最も多い状態が続いている。
人口、感染者がいずれも1・5倍の東京都よりも約700人多く、全国の15%を占める。なぜなのか。
■高齢者の割合・3世代同居率高く
6月下旬から始まった第7波でも大阪府の死者は3日現在で987人と最多だが、第7波以前から東京都を上回る水準が続いており、三つの要因が浮かび上がる。
まず、東京都に比べて、重症化しやすい高齢者の人口に占める割合が高い。総務省人口推計(2021年10月時点)によると、大阪府の75歳以上の後期高齢者は129万6000人で、東京都の170万1000人より少ないが、人口に占める割合は14・7%で、東京都の12・1%より、2・6ポイント高くなっている。
厚生労働省によると、感染者のうち70歳以上の割合(8月28日時点)は、大阪府が東京都の8・1%より2ポイント高い10・1%だった。新型コロナの患者では、年齢が上がれば重症化リスクも高まる。第7波の大阪府では、死者のうち70歳以上が約9割を占める。
二つめは、3世代同居率の高さだ。厚労省の国民生活基礎調査(2019年)によると、3世代同居の割合は、大阪府が2・5%、東京都が1・8%だった。若者から重症化リスクの高い高齢者に感染が広がれば、命にかかわるケースもある。
名古屋市立大の鈴木貞夫教授(公衆衛生学)は「大阪の高齢者の割合は東京に比べて高いが、それだけで死者が多いことの説明にはならない。3世代同居率が高く、高齢者と若者の接触が多いことも背景にある」と指摘する。
■世帯収入と持病割合に相関関係
三つめは、経済格差。健康と経済には強い相関関係があるとされる。新型コロナでも欧米では関わりが強いと指摘されたが、国民皆保険で医療へのアクセスがよいとされた日本でも、その関係が示された。
21年7月に当時、米ハーバード公衆衛生大学院に在籍していた日本人研究員らが、47都道府県の新型コロナの死亡リスクを世帯収入の多い順に五つのグループに分けるなどして分析した論文を発表した。
その結果、世帯収入のデータ(総務省)で、47都道府県中、最も多い東京都の入ったグループと、34位だった大阪府が入ったグループを比べると、新型コロナの死亡リスクは約1・7倍だった。
大阪公立大の城戸康年教授(感染症学)は「ヨーロッパを中心に、経済格差による死亡リスクの違いが報告されている。経済的に厳しい人は、持病を持つ割合が高くなりがちだ。持病があれば死亡リスクも上がることも影響する。東京と大阪の経済格差は重要な要因だ」と分析する。
大阪府はこの2年半、死者数を抑えるための対策を打ってきたが、変異するウイルスに翻弄(ほんろう)され続けた。
感染の第1波が始まった当初、確保病床は重症病床で現在の20分の1の30床、軽症・中等症病床で10分の1以下の300床程度しかなかった。感染拡大で保健所による地域単位での入院先確保が難しくなり、府は2020年3月、広域的に入院先を調整する入院フォローアップセンターを設置。病床や検査体制の拡充を手探りで進めた。
局面が変わったのが第4波(21年3月1日~6月20日)だ。従来株から変異したアルファ株は重症化しやすく、重症患者が第3波の3倍のスピードで増えた。重症病床は221床まで増やしていたが追いつかず、「医療崩壊」に直面した。自宅療養中に容体が急変して亡くなる人も相次いだ。
府はこれを教訓に早期治療や病床のさらなる拡充に取り組み、デルタ株が主流となった第5波(21年6月21日~12月16日)の終わりには、重症病床は4波当初の3倍近い610床を確保した。ワクチンの接種が進んだほか、「抗体カクテル療法」と呼ばれる点滴薬も活用できるようになり、死亡率は第4波の7分の1の0・4%に低下した。
しかし、第6波(21年12月17日~22年6月24日)で再び想定外のことが起きた。新たに登場したオミクロン株は重症化しにくい一方で、爆発的な感染力を持っていた。この時は軽症・中等症病床の使用率が100%を超え、高齢者施設ではクラスター(感染集団)が多発。入院できない高齢者が続出し、死者も相次いだ。
府は今年1月末~5月末、大阪・南港の展示場「インテックス大阪」で大規模臨時医療施設(1000床)を運用した。だが、利用を見込んでいた若い世代は症状が軽いことなどからニーズが高まらず、利用者は4か月間の累計で約300人にとどまった。
■高齢者重点化
現在の第7波(6月25日~)では高齢者の命を守るための対策に重点化。高齢者施設に対し、コロナ治療ができる協力医療機関の確保を支援したり、24時間以内に施設に往診する医療機関を増やしたりした結果、死亡率は第6波の3分の1の0・08%に抑えている。
7月に高齢者向けに開設した臨時医療施設「ほうせんか」(40床、大阪市住之江区)は6割程度の病床が埋まり、活用が進む。
ただ、現在主流のオミクロン株の新系統「BA・5」はさらに感染力が強く、高齢者施設でのクラスターは第6波の797件を上回る1209件発生。施設クラスターを抑えるとの課題が積み残されている。
府幹部は「感染の波が収まるごとに、次の波に備えて足りないところを補ってきた。次の第8波に向けても何が必要かを検討したい」と語った。
■病床1000床程度不足
東京都との比較では、医療体制にも課題が残る。
大阪府の高齢者人口は昨年10月時点で東京都の4分の3程度の一方で、コロナ用に確保された病床数は3分の2程度となっており、不足することもある。
大阪府の専門家会議で座長を務める朝野和典・大阪健康安全基盤研究所理事長は、「病床を必要とするのは高齢者が中心で、東京と同程度の医療体制にするなら、1000床程度増やす必要があるだろう。死者を減らすために、施設で暮らす高齢者も病院で治療できるようにすべきだ」と、早期の改善を提案する。
先月25日の大阪府対策本部会議で第7波でもコロナ死者が増えていることについて議論が交わされた。一方で、死者数を感染者数で割った死亡率は、改善されてきている。
昨年夏の第5波の0・4%、今年2月にピークを迎えた第6波の0・27%と比べると、第7波では高齢者施設への往診などの医療支援が奏功し、全国平均並みの0・08%へと大きく下がった。
第5波で3・7%、第6波で2・1%だった60歳以上の死亡率も、第7波では、0・48%で、朝野氏は「8月下旬の60歳以上の死亡率は、厚労省の提示した季節性インフルエンザの死亡率(60歳以上0・55%)と、ほぼ同じ水準になったと言える」と話す。
今後、死者を増やさないためには、ワクチン接種率の向上も欠かせない。大阪府では、ワクチンの3回接種を済ませた人の割合は、80歳代、90歳代以外は、すべての世代で全国平均を下回っている。ワクチン接種の啓発をさらに強化し、高齢者への感染を防ぐ対策につなげる必要がある。