東洋一の歓楽街とも言われる歌舞伎町。その中心地とも言えるTOHOビルや歌舞伎町タワーを超えた、ホストクラブをはじめ夜の店が乱立する一角のラブホテルで、スタッフとして働いていた杉山春樹さん(仮名・30代)。 そこは歌舞伎町ではかなりの格安店で、1番リーズナブルだと「休憩4000円前後・祝前日でも宿泊1万円以内」で借りられる部屋もあった。ただそのぶん「変わった客も多かった」と杉山さんは振り返る。
前回の記事に引き続き、欲望渦めく街だからこそ見えてきた、様々な痴情のもつれや、理解し難い迷惑客に遭遇してきた体験を明かす。
◆年60回以上泊まる妙齢の女性
杉山さんが勤務しているラブホテルは、格安なうえ、ポイントカードがあった。「年間10回以上利用すると次回から10%オフ・20回以上だと12%オフ」といったように、宿泊した回数によって特典が変わるシステムだった。
その最高ランクが「年間60回以上で20%オフ」というものだったが、杉山さんが知る限り、3人ほどそのランクに達している常連客がいたという。
「3人とも30代後半から50代の妙齢の女性なんです。しかも皆さん1泊2泊されることがほとんどで、半分ホテル暮らしのような生活をしているんです。
たまにフロントを通るときに様子を伺うと、最初は夕方ごろに1人で来て、夜着替えて出かけていくんです。深夜になると男性を連れ込んでいるので、ホストに出かけるためわざわざホテルに泊まっているんでしょうね。
特に週末の明け方なんかは、水商売の来店客でホテルが埋まってしまうことも多いので、事前に宿を確保しているんでしょうか……」
◆「労働基準法を完全無視した」勤務体系
ラブホテルの清掃バイトは、迷惑客に遭遇するストレスもあるが、職場環境もグレーな側面があったという。
「ウチのホテルは、毎回のシフトが24時間勤務で、朝10時から翌10時まで拘束されるんです。全部で15部屋ぐらいのキャパでしたが、基本的に常駐しているスタッフは3人、そのうち受付1人、清掃2人で回しています。その3人グループが計3つあって、それを当番制のように回しているので、基本的には3日に1回、24時間働くわけですね。
ただ当然、1人が休むと、その埋め合わせで他の人が出ないといけなくなるわけです。欠番が出ると、3人組のリーダーが代わりに出勤する決まりになっていましたが、僕の班の人は5日連続で勤務していることもありましたね。リーダーの役職手当も月5000円上乗せされるだけなので、全然割りに合わない」
◆「楽な仕事」だと思っていたはずなのに…
「リーダーからしたら、他のグループの皺寄せを被っている形になるので、それが続くと職場内の雰囲気がギスギスするんです。前日のグループの清掃が雑だとリーダーが怒って、他の同僚の悪口をひたすら言ってましたね。
お互いがお互いを監視するように目クジラを立てたり、『ウチのグループはこんな丁寧に掃除したぞ』とマウントを取り合ったりと、神経をすり減らすような雰囲気でした。正直、ラブホテルの清掃なんて楽だと思って働いたようなものなのに、気が抜けず面倒くさかったです」
◆ラブホテル勤務で変わった自身の価値観
迷惑客の相手もしないといけないうえ、職場の風通しも悪かったなか、1年近く勤務を続けた杉山さん。歌舞伎町の色恋模様に触れてきたならではの経験や、自身の価値観が変わった部分をこう語る。
「ホテルでの勤務を続けていて思ったのは、周辺の繁華街を歩いている女性が、性風俗で働いているかどうかが見極められるようになってきました。
それに加えて髪をセットしていない方がほとんどです。毎回シャワーを浴びるからだと思いますが、結んでまとめ上げているパターンも多いです。それから甘ったるい香水の匂い。服装、髪型……いくつかの特徴が全部当てはまっていると、風俗の仕事をされている方なのかなと察するようにもなりました」
◆以前に比べて性欲が減った気が…
また、勤務に慣れていくにつれ、自身の性に対する価値観も変わっていったという。
「勤務当初は、入室される女性が美人だとムラッとする時もありましたが、すぐに何も思わなくなりましたね。清掃をしていると、体臭がキツかったり、体液でベッドやシーツが汚れていたり、使用後の性玩具が放置されていたりと、生々しい光景のほうが記憶に残るんですよ。
街中や電車の中でカップルを見ても、羨ましいとかそういう感情はなく、むしろみんなやることはやってるんだなと悟りに近い感情です。働く以前に比べたら性欲も減った気がします……」
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勤務期間は1年にもかかわらず、数々の強烈なエピソードを明かしてくれた杉山さん。愛の形は三者三様だが、変わった性的嗜好を持った人は一定数いるようだ。
<取材・文/佐藤隼秀>