23歳のときに勤めていたブラック企業を突然解雇され、約20か月の裁判を争った末に700万円の和解金を手にする。さらに、29歳のときに勤めていた運送会社でも解雇され、裁判の結果、今度は4000万円を手に……。
2社を訴え、総額4700万円を勝ち取った佐藤大輝氏が、大金を獲得して変わったこと・変わらなかったこと、そしてつかみ取った大金のその後を語る。
私はお金が大好きだ!!
和解金が振り込まれた時は人生で初めて、銀行口座から100万円の現金を引き落としてみた。お、おお、これがお札の重量か。意外と重いな。それから、ああ、触っているだけでなんだか癒されるぞ。マイナスイオンが出てるのかな。き、気持ちいぃ。
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社会に出てからずうっっっと、私は人生をお金に支配されてきた。もっと、もっと、お金が欲しい。お金があれば幸せになれる。不幸を避けることができる。この考えは、大金を手にする前も後も本質的には大きく変わっていない。
だが、何かがおかしい。利息付きの奨学金480万円を背負っていた20代の貧乏社会人だった頃も、預金残高が1000万円を軽々と超えている32歳キラキラ無職の今も、私の頭の中にあるのは金、金、金……。お金の奴隷から解放されていないままなのだ。
もちろん変化はあった。大金を手にする前は「お金を手に入れたい欲」が強く、これに伴いストレスや不満が生じていた。友人が海外旅行へ遊びに行ったり、マイカーを買ったと聞かされた時に感じるあのモヤモヤ感だ。
けれど大金を手にしてみて、今度は「お金を失いたくない欲」が新たに台頭してきた。その証拠に、人生2回目の裁判後、私が買った高価な物品ランキング1位は冷蔵庫(3万円弱)。2位はベッドのマットレス(2万円弱で、展示品だった)。裁判期間中の生活費を稼ぐために始めたウーバーイーツ配達員の仕事も変わらず続けている。
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もしかしたら今この記事を読んでくれている読者様の中には「お金を稼ぐことの大変さを骨身に染みているから無駄遣いしないのではないか」といったポジティブな考えが浮かんでいるかもしれない。
たしかに一理ある。裁判期間中は住民税未納で差し押さえを経験。国民健康保険への加入すら躊躇っていた私だ。節約魂は誰にも負けない。つい最近だと道端に落ちていた袋入りのホウレンソウを拾い、お浸しにして自宅で美味しくいただいた。
けれど、どうにも「謙虚」といった響きの良い回答はしっくりこない。なぜなら人生1回目の裁判で獲得した和解金700万円は、振り込み日から1年を過ぎた頃にはほぼ全滅した過去があるからだ。
原因は人生初の資産運用への挑戦。お金に働いてもらい、お金がお金を生むことを信じて、勘と度胸を頼りに私は株取引を行った。レバレッジ25倍でFXの売り買いを繰り返したこともある。結果、150万円~200万円の損失を被った。
当時26歳。投資の基本戦略である長期・分散・積み立てといった知識は頭にあった。だが、知っているのと実際にやるのでは全然違う。こうして私は投資と投機の違いを学んだわけだが、一番の収穫は「お金に支配されないことを意識しないと、人は簡単にお金の魅力にひれ伏す」ということだ。
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投機という名のギャンブルだけでなく、あの頃の私は地上47階あるいは70階にあるホテルのレストランで散財を繰り返した。気になる女性との食事は全額奢り(けれど嫉妬は不要だ。付き合うことはもちろん、手を繋ぐことすら一度も叶わなかったからだ)。
獲得した和解金は賠償金のため全額非課税だったが、弁護士費用やら訴訟に伴う実費やらで手元に残るのはおおよそ60%弱。散財を繰り返せばあっと言う間にお札に羽が生え、飛び立ってしまう。どうやら裕福をつかみ取る能力と、裕福を維持する能力は全くの別物らしい。
マネー漫画の名作『賭博黙示録カイジ』をご存じだろうか。多額の負債を抱えた主人公カイジが命を懸けた様々なギャンブルに挑み、勝利したかと思いきや最後はトホホな展開を迎える青年漫画なのだが、私を含めこれが人間という愚かな生き物の性なのかもしれない。
だが、対策はある。後編〈2社から計4700万円を勝ち取った“モンスター社員”が教える「お金を支配する」3つの心得〉では、お金に関する様々な心理研究と筆者の体験談に基づき、お金を支配する心得について紹介する。