(写真:K-Angle/GettyImages)
先日からSNS上で「下着ユニバ」「下着USJ」なる単語が話題になっている。まるで下着のような露出度の高い衣服をまとって、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ、大阪市)を訪れた女性たちの写真が拡散され、風紀を乱すのではと、批判が集中したのだ。
SNSで影響力を持つインフルエンサーを起点とする炎上事案は珍しくないが、今回は施設側が「ルールとマナーへの協力」を呼びかける声明を発表するまでに発展した。
マスコミ各社にも報じられた今回のケース。一見すると、炎上としては異例に思えるが、経緯や背景をひもとくにつれて、これは「令和の炎上」の代名詞的な事案になるのではないかと思えてくる。
USJでは現在、ハロウィーンイベントが開催されている。ハロウィーンといえば仮装だが、話題となった写真もまた、「コスプレ」として投稿された。インスタグラムにあげられた画像は、建物の前の階段に、複数人が腰掛けているもの。詳細は割愛するが、とくに前列2人の女性の露出部分が多いように見受けられる。
この画像は、ツイッターにも転載され、主に「家族連れや子どもたちが多数訪れるテーマパークで、刺激的な格好をするのはいかがなものか」といった批判の文脈で拡散された。
公式ツイッターによる「お願い」も話題に(出所:USJ公式ツイッター)
結果として「下着ユニバ」がトレンド(投稿頻度の多い単語)に入り、より火に油を注ぐ結果に。一連の騒動を受けて、USJの公式ツイッターアカウントは、このようなアナウンスを投稿した。
「さまざまな仮装でパークを楽しむゲストを歓迎していますが、多くのゲストの安心安全のため、ルールとマナーへのご協力をお願いします。公序良俗に反する服装やパークにふさわしくない過度な露出はお断り、退場いただく場合があります」
USJ公式サイトの「パーク内での仮装について」には、退出や入場禁止措置を取る場合があるケースが列挙されているが、今回の事案は「公序良俗に反する服装、および公然わいせつ罪などの法律に抵触する服装(パークにふさわしくない過度な露出、刺青など)」に該当するのだろう。
「以下はお断りします」の項の3つ目に、「過度な露出」に関する記載がある(出所:USJ公式サイト)
なお各種報道によると、インスタグラマーらは上着を羽織っていたといい、USJ担当者も、仮に入場時からこの格好であれば、注意を促していたとの趣旨を話しているという。
長年ネットに触れてきている人には、「なぜこうした炎上は繰り返されるのか?」という疑問を抱く人もいるに違いない。
しかし、冒頭でも軽く触れたが、筆者は以下の3つの理由から、今回の炎上を「令和の炎上テンプレ」だと指摘したい。
(1)技術革新によって断ち切られた文脈
(2)インスタとツイッターといったサービスによる文化の違い
(3)仲間内と世間での価値観の違い
順番に説明していこう。
(1)技術革新によって断ち切られた文脈
筆者はネットニュース編集者として、約10年にわたってネット上での炎上を目撃してきた。「USJで炎上」というフレーズを聞いて思い出されたのは、約10年前に起きた事案だ。
大学生がボートをわざと転覆させたり、走行中のアトラクションから身を乗り出したりする迷惑行為を、まるで「武勇伝」のようにブログなどで語って大炎上。主犯格の学生が停学となるほか、他大学の学生も加担していたなど、そこそこの社会問題となった。
今でこそ、インスタやTikTokのように、写真や動画メインのSNSが主流になっているが、当時はネット上での発信と言えば、文字がメインだった。2000年代前半にブログ、後半にツイッターが登場。画像も添付できたが、あくまで文章を彩るサブの存在だったわけだ。
大きな社会問題となった、そして親世代を震撼させた「バカッター」「バイトテロ」なども、ツイッターやブログ起点の話題だった……と言えば、時の流れの早さを実感する人は少なくないだろう。
そんな文章メインという性質が変わったのが、2014年のインスタグラム日本上陸だ。正方形の画像がどーんと配され、文章はあくまで添えものというスタイルは、これまでのSNS観を大きく変えるものだった。3年後には「インスタ映え」がユーキャン新語・流行語大賞(年間大賞)となり、確固たるポジションを築くのと並行して、インスタを起点にした炎上も目立つように。TikTokの登場で動画投稿のハードルも下がり、ネットで消費されるSNSコンテンツは、一気にビジュアル重視へと移っていった。
そうしたなかで、若者が使うSNSにも変化が生じ、過去の炎上例からの学びの蓄積が適切に行われなかった、引き継がれなかったのではないか……というのが、1つ目の指摘である。
(2)インスタとツイッターといったサービスによる文化の違い
次に(2)だが、今回の事案では、インスタに投稿された画像が、ツイッターに転載され、炎上が加速した。ひとくくりで「SNS」として見れば、両者の違いはあまりないように思えるが、それぞれ異なる文化を持っている。
例えば、インスタとツイッターは、受け手の楽しみ方も異なる。ファンを中心に「いいね」の輪を広げるインスタに対し、ツイッターは斜に構えたユーザーが珍しくない。もちろんどちらが良い悪いという話ではない。ただ、インスタの「称賛」でつながる関係性が、よりインスタグラマーの行動を過激にさせ、結果的に常識の外に追いやってしまうケースがあることは否めない。
2019年にも、今回と似た事例があった。とある女性モデルがテーマパークに面したホテルの一室で撮った写真が話題に。カーテンが開いた窓際に、きわどい格好で立つ様子をインスタグラムに掲載し、ツイッターに転載され、今回同様の批判が相次いだ。「インスタの常識が、ツイッターの非常識」ということは珍しくなく、それが火の元になったり、対応が後手に回ったりする要因にもなりえるのだ。
(3)仲間内と世間での価値観の違い
また、あえて推測すれば、全世界で誰でも閲覧できるSNSにもかかわらず、内輪ノリで乗り切れると思った「見込み違い」もあったのではないか。
「井の中の蛙(かわず)大海を知らず」とは、よく言ったものだ。ただ、インターネットの普及した現代は、それぞれの井戸が自由に行き来できて、大海からも丸見えなことを忘れてはならない。交流が友人・知人など、近いコミュニティ内に限られているようでも、常に衆人環視にさらされている前提でなければならない。
もちろん、内輪ノリには負の側面しかない、というわけではない。内輪ノリから行き着いた先に、ファンや信奉者が増えてくる場合もあるからだ。知名度に比例して、経済圏も広がり、収益も立つようになるだろう。
しかし、さらに承認欲求を満たそうと、その影響力をテコに、「炎上してナンボ」と活動の幅を広げる者もいる。迷惑系YouTuberによる犯罪行為などは、わかりやすい例だろう。
SNSが進化するにつれて、コンテンツの中身だけでなく、流通経路も変わってきた。ツイッターでは、かつては「タイムライン」と呼ばれる、投稿が投稿日時順に並ぶ形式が一般的だったが、技術の進歩によって、ユーザーの行動から、興味を持つと思われるコンテンツを機械的に類推し、「おすすめ」として上位表示されるようになった。
好みのコンテンツに出会いやすくなった反面、わざわざ投稿者のタイムラインをたどる機会は減っていく。うまく文脈が伝わらないまま、画像や映像のみがひとり歩きして、異なるコミュニティにいる人にも届き、炎上ネタを拡散する「炎上系インフルエンサー」に目を付けられる。インスタでの内輪ノリが、ツイッターでの炎上ネタへ。その頃には、すでに「井の中」で対処できるレベルではなくなっている。
今回の事案は、週をまたいでもなお、非難の声は絶えない。ネットユーザーは、時として「都合のよいサンドバッグ」とみなした相手に対して、完膚なきまでの「私刑」を加えることがある。
服装の是非から飛び火して、インスタグラマーが出たとされる高校にも注目が集まり、その校名もまたトレンド入りした。別件で話題になったインフルエンサーも、同じ高校出身だったとして、スポーツになぞらえて「TikTok強豪校」といったフレーズも飛び交っている。
たしかに、共通したコミュニティに属していると、考え方が似てくる部分はありそうだ。ただ、そこに生活する(してきた)人々すべてが、まったく一致した価値観を持っているワケがない。「同じ高校だから」と安易にカテゴライズすることに、筆者個人は批判的な立場だが、ネットユーザーたちは、どこか「地元ノリの空気」と捉えたのだろう。
仲間内と世間での価値観の違い、インスタとツイッターといったサービスによる文化の違い。そして、技術革新によって断ち切られた文脈ーー。それらが複合的に絡み合った結果、ここまで燃え上がった。「令和の炎上」は皮肉にも、ネットユーザーの増加と、技術の進歩によって、テンプレートができつつある。
「下着ユニバ」そのものをめぐる議論は近々、沈静化するだろう。ただ、昨今の炎上をめぐるメカニズムについて、一人ひとりがリテラシーを高めない限り、すぐまた同じような事案が起こるはずだ。次に燃えるのは、あなたや、あなたの大切な人かもしれない。
(城戸 譲 : ネットメディア研究家)