政府の水際対策も大幅に緩和され、外国人観光客の個人旅行も解禁された。
コロナ禍で途絶えたインバウンド(訪日外国人客)需要の盛り返しに期待を寄せる観光地のひとつが淡路島だ。令和2年秋に本社機能の一部移転計画を大手人材派遣会社のパソナグループが発表してから2年が経過。以前から働いている社員を含め今では、900人を超える社員が淡路島で働いているという。変貌を遂げる淡路島のアフターコロナの展望を探った。
転入が転出を上回る
「こんなに事業展開するとは思ってなかった」
パソナの誘致を働きかけた兵庫県淡路市の門康彦市長はこう振り返る。淡路市にはこれまでに三十数社が企業進出してきたが、平成20年にやってきたパソナは先駆け的存在。最初の事業は就農を目指す農業ベンチャーの支援事業だった。
その後、パソナは淡路島で多くの事業展開をしていくが、ひときわ注目を浴びたのは、本社機能の一部移転だった。同社の南部靖之代表が「テレワークが普及し地方でも仕事ができる。淡路島は自然豊かで人材育成に適した地」と言及。脱東京一極集中と地方創生事業での雇用創出を目指す考えを示したのだ。
計画では令和6年5月までに社員約1800人のうち約1200人を島に異動させる。これまでに約470人が移住。仕事はオンライン中心で行い、「ストレスから解放された職場環境と、自然や食材にめぐまれた住環境に満足している」と話す社員が多いという。
淡路市ではパソナの移転に絡み、2年から2年連続で転出より転入が上回る人口の社会増に。門市長は「税収は増え、社会人口も増加した。なによりパソナのおかげで全国的にも認知度が高まった」と喜ぶ。
課題は住居不足だ。島内の不動産業者によると、淡路市内の新築アパートなどはパソナが一棟借りするなど物件不足が深刻で、家賃も2~3割アップした。洲本市や南あわじ市の物件にも及び、一般入居者への影響も出ているという。
本物志向のクールジャパン
パソナは、淡路島でレストランやアニメパークのニジゲンノモリ、人気キャラクター「ハローキティ」の世界観が満喫できる施設のほか、大自然の中で禅体験ができる「禅坊靖寧」などを相次いでオープンさせ、いまや島の一大観光事業者となった。
急速な事業展開が注目されたのか、新たな飲食店やグランピングなどでの宿泊事業者も相次いで進出。島観光への相乗効果も生んでいる。
パソナの観光事業の特徴は「クールジャパン」の本物志向。ニジゲンノモリでは人気アニメ「クレヨンしんちゃん」や「NARUTO」、映画「ゴジラ」、人気ゲーム「ドラゴンクエスト」などの制作会社とタイアップし、マニアならずとも一度は足を踏み入れたくなる施設づくりにこだわる。
同社広報は「アニメやキャラクターの世界観を体験できる内容。島の自然や食、文化の魅力も合わせて楽しめるよう企画している」と自信を見せる。
中心ターゲットはそのファン層。例えばハローキティは欧米、クレヨンしんちゃんはアジア系から人気が高いという。
コロナ禍の打撃
しかし、コロナ禍の打撃は想像以上に大きかった。今年5月期決算によると、島での事業を含む「地方創生ソリューション」の売上高は44億2600万円で、営業利益はマイナス26億1200万円。島の事業だけでは赤字で、本業からの補(ほてん)が行われているとされる。
同社の伊藤真人常務執行役員もこうした事実を認めたうえで、「コロナ禍は目標の半分程度。ただ淡路島はコロナ禍でも比較的観光客が来ていたので、もしこれがなければ2~3割だったのでは」と打ち明ける。
ニジゲンノモリは入場料は無料だが、アトラクションごとに料金がかかる。3000~4000円台の料金設定で、来場者に話をきくと、「内容は満足したが料金が高かった」と不満を持つ人もいた。
伊藤氏は「地元にも還元できるサービス価格帯に設定している。(パソナの施設が)価値あるものと分かってもらえるよう、努力したい」と話していた。
期待されるのがインバウンドの復調だ。政府は10月11日から水際対策を緩和し、「Go To トラベル」に代わる「全国旅行支援」もスタート。同社がターゲットとするインバウンドの来場に見通しが立ってきた。
3年後の大阪・関西万博も見据え、さらに新たな事業展開を計画しているという。同社担当者も「これから反転攻勢に出たい」と意気込んでいる。(勝田康三)