《牛丼の値下げはデフレのはじまり》すき家のプライスダウンを「手放しで喜んではいけない」理由…株価大暴落で市場関係者は戦々恐々

実に11年ぶりのことである。ゼンショーHD傘下の大手牛丼チェーン「すき家」は、8月28日、牛丼など一部商品を9月4日から一斉に値下げすると発表したのだ。
牛丼の「並盛」の価格は、現行の480円から30円引き下げて450円に。8月28日時点で、他の牛丼チェーン大手の牛丼並盛の価格は、「吉野家」が498円、「松屋」は460円となっており、最も安い価格となる形だ。
当然、値下げと聞いて消費者たちは喜ぶかもしれない。だが、市場関係者は喜ぶどころか、これが引き金となって日本経済が悪化するのではないか、と戦々恐々としているという――。
8月28日の「牛丼値下げ」発表直後、真っ先に反応を示したのは株式市場だ。ゼンショーの株価は、値下げによる収益性の悪化を懸念した売りが優勢となり、一時511円の大幅安に。関連して、吉野家HD、松屋フーズHDも同じく大幅安となった。
一般消費者の目線で言えば、値上げ圧力が常態化し、家計負担に重くのしかかっている昨今の事情を考えると、今回の牛丼値下げは「懐事情的に助かる」と思う人も少なくないかもしれない。
だが、市場や金融関係者は警戒心を強めている。
「みな、バッドニュースとして受け止めています。現にゼンショーや他の牛丼チェーンはもとより、牛丼とは関係ない外食産業の銘柄も総じて急落しています。
日本では『牛丼が値下げを始めたら、それがデフレの合図』というのが、我々の常識。コロナ禍は不測の事態だったとして、基本的に外食の需要というのは、よほどのことがない限り、需要は減りません。
その前提で、ひとつの企業が値下げによって顧客を集めようとすれば、当然、他社も対抗し、デフレマインドに陥るわけです。したがって、すき家の牛丼値下げが引き金となって、外食産業全体で値下げ合戦に発展する可能性は非常に高いと言えます」(機関投資家)
インフレ値上げ基調から一転して、デフレ時代に逆戻り――。実はすでに同じような不気味な動きがアメリカでも起きているという。
相次ぐ値上げラッシュによって消費者の懐事情が悪化しているのは、アメリカも同じ。そんななか、まるで抜け駆けするかのごとく、突然値下げに踏み切ったのが、ファーストフード界の巨人「マクドナルド」だ。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが報じたところによれば、今年9月より、ビッグマックなどの主力商品の値下げを決定した。これまではインフレに伴うコスト高に合わせて値上げを続けてきたが、その結果、深刻な客離れが懸念され、値下げに踏み切ったという。
前出の機関投資家はこう指摘する。
「長年にわたって米国の経済・市場分析をリードしてきた著名エコノミストで経済学者のデイビッド・ローゼンバーグ氏も直近、『(米国はインフレ状態にあるものの)我々はデフレの危機に直面している』と警鐘を鳴らしています。
同氏はトランプ関税、移民制限、人口高齢化をデフレ化の主たる原因に挙げていますが、マクドナルドの値下げを皮切りに、本格的にインフレからデフレに転じる可能性は否定できません」
デフレにおける“炭鉱のカナリア”が、外食企業の値下げだとしたら――同時期に起きたマクドナルドとすき家の値下げは、日米ともにデフレ化の合図なのかもしれない。
それにしても、国内外食企業初の1兆円企業であるゼンショーならば、安易な値下げが市場の混乱を招くことぐらいは予測できたはず。にもかかわらず、なぜ11年ぶりの牛丼値下げに踏み切ったのか。【後編記事】『すき家が苦渋の「牛丼値下げ」を決めた「やむを得ない事情」…異物混入の客離れは想像以上に深刻だった』で詳報する。
【つづきを読む】すき家が苦渋の「牛丼値下げ」を決めた「やむを得ない事情」…異物混入の客離れは想像以上に深刻だった