第1回【猛暑で最高気温40度が連発、30年後には50度に達する可能性はあるのか 異常気象の専門家は「外国の50度より、日本の40度のほうが体感温度は高い」と指摘】からの続き──。8月7日現在、日本の最高気温のワースト1位は8月5日に群馬県伊勢崎市で観測された41・8度。だが体感温度は50度に達している可能性があるという。(全2回の第2回)
***
【写真】やっぱり…気象庁の最高気温ランキングは“今年の気温”ばかり。猛暑日(35度以上)、真夏日(30度以上)の急激な右肩上がりに絶句するしかない気象データも
地域の気温、風向き、風速、降水量などを観測しているアメダス(地域気象観測システム)の設置場所には決まりがある。必ず下は芝生で、風通しの良い場所でなければならない。気温も地表から1・5メートルの高さで計測する。
異常気象の専門家である三重大学大学院生物資源学研究科の立花義裕教授は、『異常気象の未来予測』(ポプラ新書)などの著作で知られる。なぜアメダスは涼しそうな場所に置いてあるのか、立花教授に話を聞いた。
「大切な理由の一つに、観測地点の条件を全国で統一するという目的が挙げられます。ある観測地点ではアメダスがコンクリートの上に置かれ、ある観測地点では土砂の上に置かれると観測結果の地域誤差が大きくなってしまいます。さらに地上から1・5メートルの気温を計測するのは、このあたりの気温を人間が体感すると考えられているからです。ただし、確かに都市の繁華街で35度以上の真夏日だった場合、アメダスが計測した最高気温より体感温度は高い可能性は充分に考えられます」
立花教授が着目するのは、サーモグラフィーを使ってアスファルトの道路の表面温度を測った時の結果だ。
「猛暑日の場合、都市部でも農村部でも、アスファルトの表面温度は60度を超えます。大人の場合は足元から膝ぐらいまでの気温は50度に達している可能性が考えられます。ベビーカーに乗っている赤ちゃんや、小学校低学年の児童だと全身が50度の気温に包まれていても不思議ではありません。アメダスの計測気温は、頭のてっぺんの気温だと思って間違いないでしょう。渋谷のハチ公前にサーモグラフィーを設置し、動画サイトで24時間、表面温度を流し続けると反響が大きいのではないでしょうか。猛暑だと70度近い温度になる可能性がありますので、私たち専門家にとっても興味深いデータになります」(同・立花教授)
日本に猛暑が襲いかかっているのは「偏西風の蛇行」が原因だという。地球温暖化で北極の気温が上昇、熱帯との気温差が現象したことで起きた現象だ。
「偏西風は北極の寒い空気と、熱帯の熱い空気の境目に発生し、西から東に吹きます。偏西風が蛇行するというのは、カーテンをイメージしてもらうと分かりやすいでしょう。レースのカーテンに風が当たると奥や手前に揺れます。これと同じように日本列島の上を吹く偏西風のカーテンは北や南に揺れてきました。昔の日本は偏西風のカーテンレールが列島上に設置され、南の熱い風が強いと偏西風は北に移動して猛暑に、北の冷たい風が強いと偏西風は南に移動して冷夏となりました。ところが現在、地球温暖化が原因で偏西風のカーテンレールは北海道より北、カムチャツカ半島のあたりに設置されています。カーテンが揺れても揺れなくても全く関係なく、日本の夏は熱い風にすっぽりと覆われ、必ず猛暑となってしまうのです」(同・立花教授)
中学の地理では「やませ」を習う。東北地方の太平洋側では夏に冷たく湿った北東の風が吹くことがある。冷害や飢饉の原因となってきたが、立花教授は「地球温暖化の影響で、冷たいやませはもう吹かないでしょう」と予測する。
さらに日本を太平洋高気圧が覆うと、下降気流が発達する。上空の空気は地表に近づくにつれ、気圧の関係で圧縮されて熱を持つ。「夏の間、日本列島は巨大なドライヤーで熱風を浴びせられているようなもの」(立花教授)というわけだ。
偏西風の蛇行と高気圧から生じる下降気流の直撃で、日本各地の気温は熱帯よりも暑くなっている。フィリピンのマニラやシンガポールの最高気温は30度前後。「地球で起きる異常気象は、世界のどこよりも日本に悪影響をもたらす」と立花教授は指摘する。
「猛暑の常態化で憂慮すべき問題は多岐にわたりますが、ここでは2点だけ指摘します。1点目は熱中症による死亡者の増加です。2024年に熱中症で亡くなった方は約2000人と発表されていますが、これに熱中症関連死は含まれていません。猛暑により心臓病が悪化して亡くなられても、死因はあくまでも心臓病なのです。今後20年間のスパンで、温暖化対策を一切しない場合、夏の最高気温が45度に達するのは確実視されています。45度に上昇すると熱中症で亡くなる方は年間1万人に増え、熱中症関連死は年間5万人に達するという推計があります」
2点目は農業に与える悪影響だ。立花教授は「特にコメ栽培に与えるダメージは相当なものがあります」と指摘する。
「令和のコメ騒動で、やはり日本人にとって大切な主食はコメであり、その価格が上昇しただけで大変な騒ぎになると浮き彫りになりました。国家が食糧危機に直面すると、国民の言動が先鋭化するという指摘もあります。戦前の日本人はコメをたくさん食べたので国内生産だけでは足りず、コメを輸入していました。太平洋戦争は南方の資源だけでなく、コメの確保も目的だったと歴史家が明らかにしています。そして日本のコメは冷害に強い品種改良なら長い歴史を持っていますが、猛暑に強い品種はまだ少ないといわざるを得ません。日本の人心を安定させるためにも、コメの猛暑対策は喫緊の課題でしょう」
地球温暖化を食い止めるにはどうしたらいいか、立花教授は「まずは何よりも国民的な議論が必要です」と訴える。
「私に考えがありまして、政治家に『猛暑対策で首都移転を行うべき』と国会で審議してほしいのです。これまで経済的な観点から首都移転は議論されてきましたが、温暖化対策の視点は初めてでしょう。きっと賛成派と反対派で激しい議論が行われるはずです。そして、それこそが目的なのです。激しい議論を通じ、日本人は温暖化に関する知識を増やし、認識を深めるでしょう。もし首都移転が実現すれば、東京は人口や車両量、クーラーの排熱などが減少するので多少は涼しくなるはずです。さらに移転した首都では涼しい気温で国会が開かれますので、国会議員や官僚は快適に仕事ができるはずです。生産性の上昇が期待されます」
第1回【猛暑で最高気温40度が連発、30年後には50度に達する可能性はあるのか 異常気象の専門家は「外国の50度より、日本の40度のほうが体感温度は高い」と指摘】では、日本の最高気温40度は外国の50度より体感気温が高いという理由や、四方を海に囲まれたメリットとデメリットについて詳細に報じている──。
デイリー新潮編集部