「磯丸水産はコンセプトだけなら今でも通用するはずなんですよ……。けれど店の環境に問題がありました」と指摘するのは、外食専門コンサルタントの永田雅乙氏だ。
かつて一大ブームを築いた「海鮮居酒屋」が軒並み閉店ラッシュに追い込まれている。そのブームを牽引していた磯丸水産も例外ではなく、’17年にピークを迎えた155店舗から、今では99店舗(’25年2月末時点、FC店舗を除く)とその数を大きく減らしている。
生簀に魚が泳ぎ、板前が目の前で魚を捌いてくれ、さらに浜焼きもできる。そんな非日常的な体験を提供するチェーン店の先駆者にもかかわらず、磯丸水産はなぜオワコンとなってしまったのか。
【前編記事】『一大ブームだった「海鮮居酒屋」が軒並み《閉店ラッシュ》で姿を消したシンプルな原因…たった10年で「磯丸、はなの舞、さくら」オワコンに』に引き続き、解説する。
SPFホールディングスが運営する居酒屋チェーン「磯丸水産」といえば、生簀や水槽、トロ箱(魚の入った箱)などを店内に配置した、いわゆる”トロ箱系居酒屋”を世に広めた先駆者として知られる。
同チェーンの醍醐味といえば、名物の「浜焼き」。卓上コンロでお客自ら魚介類を焼くという体験は、そのエンターテインメント性から人気を集めた。前出の永田氏は言う。
「『浜焼き』という体験に価値があるのは間違いありません。しかも磯丸水産の場合、当初は山手線沿線やターミナル駅などを中心に展開していました。都心部で、しかも24時間営業で楽しめるというコンセプトは今でも通用しておかしくありません」
かつては、「はなの舞」や「さくら水産」といった他の海鮮居酒屋チェーンにはない魅力で、客を惹きつけていた磯丸水産。ではなぜ、これほど凋落してしまったのか。永田氏が続ける。
「ひとつには、コロナ禍により強みであった『24時間営業』をやめる流れになった影響は大きいと考えられます。アフターコロナとなって、磯丸水産を含め24時間、ないしは深夜営業を再開したチェーンも少なくありません。
しかし、この営業形態で客足を維持しているは、ロードサイドにあるラーメンチェーンくらい。その理由は、特定のメニューを食べるために訪れるといった『目的来店』によるものです。居酒屋の場合、来店動機の中心が“何気ない飲み会”となるため、目的来店に当てはまらず、客足は戻ってきてないのが現状です」
やはりコロナ禍による影響は大きかったようだが、永田氏によれば、それよりもずっと深刻な問題を磯丸水産は抱えたままだという。それは同チェーンが《外国人だらけ》という点だ。
確かに今、国内のあらゆる業種で人手不足が問題になっている。コンビニなどを見ればわかる通り、もはや外国人店員が働いていることは日常の風景だ。そう考えれば、磯丸水産の店員が外国人だらけになるのも、時代的に仕方ないと思えるが――。
前出の永田氏は「磯丸水産の業態と外国人店員とでは、他の業態より相性が悪すぎる」と指摘する。
「肉を扱う業態などと違い、新鮮な魚を、それも『浜焼き』などを前面に押し出している磯丸水産は、それだけ消費者には“日本らしさ”も魅力として映っているはず。そんな業態で外国人店員だらけだったら、お客が『この人、本当に魚を上手に捌けるの?』といった不信感を募らせるのは無理もありません。
ただでさえ、磯丸水産はオープン当初から時間が経つにつれ、『水槽の水が臭い』など鮮度や衛生面でも不安の声が広がっていて、安かろう悪かろうの印象が定着しつつありました。それに加えて、外国人店員だけという店とのミスマッチが顕著になり、結果として、コロナ明け以降も客足が戻ってこず、店舗数も激減したままでいると考えられます。
せめて『丸亀製』のように、外国人店員は多いけれど、日本人の職人を置くなど、店のイメージに直結する要所には日本人を配置すればいいのですが……。なにか対応策を取らない限り、磯丸水産の復活の目はないかもしれません」
どれだけ優れた、他にはないコンセプトでも環境の変化に対応せず、研ぐことを怠れば、その刃がどんどん錆びていくのは仕方ないのかもしれない。
【こちらも読む】『閉店ラッシュに陥るサンマルクを救った《ウルトラCの離れワザ》…「カフェからの脱却」で業績は爆上がりへ』
【こちらも読む】閉店ラッシュに陥るサンマルクを救った《ウルトラCの離れワザ》…「カフェからの脱却」で業績は爆上がりへ