【鎌田 浩毅】世界で起きる巨大地震の「20%」がこの国で発生していた…日本の歴史から浮かび上がる「大災害の法則」

列島誕生以来、地震・噴火・津波などの自然災害の脅威に絶え間なくさらされてきた災害大国・日本。いくつもの巨大災害が、日本史上にその名を残してきた。平安時代を揺るがした「貞観の大津波」、近世では「宝永の富士山噴火」や「安政南海地震」、近現代では「関東大震災」や「阪神淡路大震災」、そして「東日本大震災」……。歴史を大きく塗り替えた自然災害はなぜ発生し、日本にどのような影響を与えてきたのか。浮かび上がる「歴史の法則」とは――壮大なスケールで日本史を捉えなおす新連載!
本記事は、『日本史を地学から読みなおす』(鎌田浩毅・著)を一部抜粋・再編集したものです。
2024年1月1日、「能登半島地震」が発生しました。震源は石川県能登地方の地下16キロメートル、地震の規模を示すマグニチュードは7.6。石川県の志賀町や輪島市で、最大震度7を記録しました。2025年11月現在、災害関連死を含む死者・行方不明者は684人、住宅被害は16万5000戸以上となっています。
日本の歴史は、つねに地震や津波、火山噴火などの自然災害とともにありました。最近の20年だけでも、新潟県中越地震(2004年)や東日本大震災(2011年)、御嶽山噴火(2014年)、熊本地震(2016年)、そして冒頭で紹介した能登半島地震など、大きな自然災害がいくつも発生しました。もちろんこれ以外にも、台風や大雨・大雪、土砂災害など、日本ではさまざまな自然災害が頻繁に発生しています。
全世界で発生する地震のなんと約一割が、面積にしてたったの0.25パーセントしかない小さな島国である日本で起きています。マグニチュード(M)6以上の比較的大きな地震に至っては、二割が日本で発生しています。そして、全世界の活火山の約7パーセントが日本に存在します。日本は世界的に見ても自然災害の多い国なのです。
なぜ日本では、こんなにも自然災害が多いのでしょうか。その答えは、日本列島の生い立ちに隠されています。
およそ2500万年前、アジア大陸から切り離されるようにして日本列島は誕生しました。その後、さまざまな地殻変動を経て、約500万年前に現在のような形になります。その過程では、日本列島の土台となる部分に、周辺からさまざまな力がかかりました。それによって、山が隆起し、大きな断層がずれ、現在の日本列島の特徴的な地形がつくられました。
日本列島がある場所は、地球の中でもとくに活発な活動が起きる場所であり、その活発な活動の結果として生まれたのが日本列島だといえるでしょう。そして、地球の活発な活動は、今も変わらず続いています。日本列島は、地球の大変動の影響を強く受けることを宿命づけられた場所なのです。
日本列島では人類が住みつく前から、頻繁に大きな地震や火山噴火が起きていました。その痕跡は、古い地層の中にいくつも残っていて、いつごろ、どんな規模の地震や噴火が起きたのかを推測することができます。巨大な地震や噴火は、ようやく日本に住みついた私たちの先祖に壊滅的な被害を与えたこともありました。
現代の私たちは、地震が地球の活動の中で発生する現象であることを知っています。今の日本には、大きな揺れがやってくる前に警告してくれる、「緊急地震速報」という高度なしくみもあります。ところが昔の日本には、地震に関する知識も観測手段も何もありませんでした。
そのため、かつて地震は「神の怒り」だと考えられていました。それが科学的であるかどうかはともかく、私たちの先祖は、遭遇した地震や噴火、津波などの自然災害の特徴や被害状況などを記録に残してくれました。それは現代に生きる私たちにも大きなヒントを与えてくれます。なぜなら、地震や噴火は周期的に繰り返すからです。
たとえば富士山は、過去に何度も大きな噴火を繰り返してきました。記録に残る範囲では、平安時代(9世紀)と江戸時代(18世紀)に大規模な噴火を起こしています。
富士山は大きな噴火を起こしたあと、数百年は平穏な状態が続くというサイクルを繰り返してきました。江戸時代に大規模な噴火を起こしてから、すでに300年以上が経過しています。300年分のマグマを地下にたくわえた状態であり、次の大規模な噴火がいつ起きてもおかしくないのです。
江戸時代に噴火したときは、関東地方に広く火山灰が積もり、当時の人々に大きな被害をもたらしたことが、絵や文書として記録に残されています。令和の現在、富士山が噴火したら、その被害は江戸時代とは比較にならないほど大きくなるでしょう。私たちは先人たちが残した記録を活用し、次の起こりうる大噴火に備えておかねばならないのです。
周期的に発生する地震でいえば、現代の私たちが最も警戒しなければならないのは、「南海トラフ巨大地震」でしょう。南海トラフとは、駿河湾から日向灘沖の南側の海底にある、溝状の地形のことです。
ここを震源域とする巨大地震が、およそ90年から150年の間隔で繰り返し発生していることが知られています。前回ここで巨大地震が発生したのは、約80年前(1944年と1946年)です。これまでの周期から考えると、次の巨大地震がいつ発生してもおかしくない状態です。
2024年8月8日には、宮崎県沖の日向灘を震源とする大きな地震の発生を受けて、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が史上初めて発表されました。これは、普段よりも南海トラフ巨大地震が発生する可能性が高まったと評価された場合に発表されるものです。
南海トラフ巨大地震による被害の記録は、古いものでは684年(飛鳥時代)にまでさかのぼります。当時、地震の揺れや津波によって四国に大きな被害が生じたことが、日本最古の歴史書のひとつである『日本書紀』に記録されています。
富士山の噴火と同様に、南海トラフを震源とする巨大地震が現代の日本で発生したら、その被害ははかりしれません。地震は必ず発生します。私たちは過去の記録を元に、被害を最小限に抑えるにはどうすべきかを学ぶ必要があるのです。
現在のわが国には、3つの自然災害の脅威が迫っています。すなわち、「南海トラフ巨大地震」「富士山噴火」「首都直下地震」です。
私は京都大学で24年間、地球科学の教授を務めました。本務のひとつとして、つねに意識してきたのは、近い将来に必ず起こる激甚災害の被害を減らすことでした。日本人の全員が自分の命を自分で守らなければ犠牲者が激増する、という点で、地球科学者の意見は一致しているのです。
地球科学には「過去は未来を解くカギ」というキーフレーズがあり、過去に起きた地震と噴火から将来を予測します。そのため、地震学者と歴史学者がチームを組んで、過去の災害を読み解き、未来へ活用しようとしてきました。歴史上の地震と噴火の知識は、日本で安全に暮らすためには極めて重要な情報となるのです。
『日本史を地学から読みなおす』では、かつて日本を襲った数多くの地震や噴火、津波を振り返っていきます。地学の視点から日本の歴史を読みなおすことで、いかに日本が災害の多い国であるか、そしてわれわれ日本人がどれほど激しい災害を乗り越えてきたかがわかると思います。
災害の歴史を振り返ったなら、それを未来に活かさねばなりません。最後に、近い将来必ずやってくる南海トラフ巨大地震や富士山噴火、首都直下地震の可能性について検討します。
災害の歴史を振り返る前に、まずは第1章で、地震や津波、噴火が起きるメカニズムをコンパクトに紹介します。第2章と第3章では日本列島の生い立ちと先史時代の巨大災害についてお伝えします。そして第4章からは、いよいよ先人たちと災害の歴史を振り返っていきます。
では、「過去は未来を解くカギ」の視座から、日本列島特有の歴史を具体的にひもといていきましょう。
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本連載では、地球科学者が100万年スケールで激動の日本列島を描き、歴史から学ぶべき教訓をお伝えしていく。
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