マダニが媒介するウイルス感染症「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」の感染拡大が、西日本を中心に続いている。
専門家は野生動物が人の生活圏に入ってきていることが一因になっているとし、感染対策の徹底を呼びかけている。(長尾尚実)
マダニは野山などに生える下草に潜んでいる。成虫の場合、大きさは2~8ミリ程度で、人や野生動物が触れると移り、長くて2週間程度、血を吸い続ける。刺されても痛みは感じない。
人が、ウイルスを持ったマダニに刺されると、6~14日の潜伏期間を経て、発熱や頭痛、下痢などの症状が出る。腎臓などに障害を起こすこともあり、国内での致死率は27%とされる。予防できるワクチンはなく、感染したら対症療法や抗ウイルス薬による治療が行われる。
国内では2013年に山口県で初めて患者が確認され、以来、西日本を中心に感染者が報告されている。
国立健康危機管理研究機構(JIHS)によると、今年の累計患者数は142人(8月24日現在、速報値)で過去最多となった。都道府県別では高知14人、長崎、熊本、大分9人、兵庫、島根、鹿児島8人と続く。これまで報告がなかった北海道などでも患者が見つかっている。
SFTSに詳しい愛媛県立医療技術大(愛媛県砥部町)の安川正貴学長は、「住宅街の近くに現れる野生動物が増えていることが一因と考えられる」と指摘する。感染したシカやアライグマなどが人の生活圏の近くの野山でマダニに刺され、そのマダニが人にもウイルスを広げている可能性があるという。
ウイルスが人の生活圏に入ってくると、飼っている動物への感染リスクも高まる。富山県では先月、飼い猫が、SFTSに感染した事例が報告された。安川学長は「犬や猫にかまれるなどして人に感染することもある。屋外で弱っている動物には触れないようにしてほしい」と呼びかけている。
SFTSの感染を防ぐには、マダニに刺されないようにすることが大切だ。
野山に出かけたり農作業をしたりする時は、長袖や長ズボンを着用し、肌の露出を少なくする。首筋や袖口、ズボンの裾には虫よけスプレーを使う。
帰宅したら入浴し、体にマダニが付いていないか、全身の肌をしっかりチェックする。見つけた場合、自分で取ろうとすると、口の部分が皮膚に残ることもある。医療機関で処置をしてもらうのが望ましい。厚生労働省によると、国内にいるマダニのウイルス保有率は地域や季節によって異なるが、多くて数%だ。近畿中央病院(兵庫県伊丹市)の夏秋優(なつあきまさる)・皮膚科部長は、「ウイルスを持つマダニは、ごく少数で過度に心配する必要はない。刺されたら、速やかに医療機関を受診してほしい」と呼びかけている。