カンボジアで特殊詐欺に関与した疑いで、日本人が拘束される事案が相次いでいる。11月4日には南東部バベットの詐欺拠点とみられる建物で、日本人13人が地元当局に拘束された。また8月にも北西部ポイペトで「かけ子」をしていた日本人29人が逮捕された。現地では、毎週のように日本大使館に救出要請が来るほど深刻な状況になっている。
カンボジアは東南アジアの中で、詐欺拠点が集中している国の1つとされ、15万人以上が特殊詐欺に関与しているとの推計もある。FNNはカンボジアの植野篤志大使に単独インタビューを行い、実態について取材した。
植野大使は、日本人が関わる事件は2023年頃から急に増えた印象があると語る。
背景について、「日本で経済的に困窮し、家族や友人に頼ることができない人が、悪いことだと知っていても止むに止まれず誘いに乗ってしまう」といったケースや、「深刻さを理解しないまま、儲け話に乗ってついカンボジアに来てしまう人」がいるという。
さらに、SNSなどを通じた勧誘が事態の悪化につながっていると指摘する。
詐欺拠点では、売り上げのノルマに達しないと暴行や拷問を受ける事例が報告されている。
命からがら脱出し、ときには拠点内部からの救出要請をきっかけに摘発に至るケースも少なくない。
大使館への日本人の救出要請はどのくらいあるのだろうか。
植野大使は、「現在進行中の案件もあるため正確な数は言えない」としつつ、「感覚でいうと毎週のようにある」と語る。
監禁されている本人だけでなく、家族や友人からも電話やメールで救出要請が届くという。こうしたSOSへの緊急対応のため、大使館職員は日々気が抜けない状態が続いていると話す。
植野大使:24時間土日も休みなしというか気が抜けない日々。大使館員から「こういう事案が発生しました。こういう人がいることを認知しました」という連絡は頻繁に来るので、その都度、どういう対応をすべきか考えている。
救出要請があっても、実際に救出に至るまでには大きな壁がある。
監禁されている人の多くは、パスポートやスマートフォンを取り上げられ、自分の居場所すらも分からないことが多いためだ。
植野大使:監禁場所を特定するのが非常に大事。位置を特定されないようにしようとする犯罪組織と、位置を特定し助け出そうとする我々との攻防だ。
カンボジア警察に対しては、「日本の要請に迅速に動いてくれる」と感謝の意を示した。
一方で、現地警察の一部が犯罪組織と癒着関係にあると指摘されていることについては、「裏付けるだけの確たる材料を持っていない」として言及を避けた。
日本政府は、ODA(政府開発援助)を通じたカンボジアの入管施設などの能力強化支援や、大使館のホームページによる注意喚起などの対策を実施してきた。
しかし植野大使は「現実には、次から次へと似たような事案が起こっている」として、根絶には至っていないと認める。
アメリカ政府は、詐欺関与の疑いがあるカンボジア企業に制裁を科した。韓国政府は、自国警察を現地に派遣して合同捜査を行うことを決めている。
植野大使は、他国の取り組みを参考にして日本もさらなる対応を考えていくと話す。その上で、詐欺撲滅に向けては「対処療法」と「根本療法」が必要だと指摘する。
植野大使:「対処療法」は、特殊詐欺に加担することが間違ったことで厳罰に処せられるかを周知すること。「根本療法」は、日本の経済を活性化すること。それから、社会の中での絆を多くの人が取り戻すようなことを考えないといけない。加害者であり被害者である人が多いので、そこを何とかしないといけない。
海外で日本人が関与する特殊詐欺事件が後を絶たない中、政府の今後の取り組みが注目される。
(FNNバンコク支局 杉村祐太朗)