《ついに除名》「あんな詐欺師に」周囲の制止を振り切り貸した金額4000万円…“ガーシー救済”のために尽力した「年商200億円・美容外科医」の正体 から続く
朝日新聞ドバイ支局長としてガーシー一味に接し、1000時間に及ぶ密着取材を続けた伊藤喜之氏の新刊『悪党 潜入300日 ドバイ・ガーシー一味』を一部抜粋してお届け。ガーシー氏(本名・東谷義和)の日頃の言動や、マンガの趣味から見えた「彼の価値観」とは……?(全2回の2回目/前編を読む)
【画像あり】マンガだけじゃん…ガーシーの本棚を覗く
ガーシー氏と人気漫画『ワンピース』の主人公の共通点とは?(写真:参議院ホームページより)
◆◆◆
ある日、いつものように東谷の自宅アパートメントに取材で訪れたときのことだ。
東谷はテレビでアニメを観ていた。冨樫義博の人気漫画『HUNTER × HUNTER』のアニメ版で、序盤のハンター試験編の回だった。ドバイにいるわけだが、オンラインの動画サービスを使って視聴しているようだった。
ちょうど私は取材で質問したいことがあり、「ちょっと聞きたいんですけど」と声をかけると、東谷は露骨に不快そうな表情を浮かべた。「ねー伊藤さん。ダメですよ。後にしてください」。そばにいた公設第一秘書の墨谷は「記者魂ですね」と私をからかってきたが、後で聞くと、「漫画とかアニメに熱中している時の東さんに声をかけるのはNG」だと教えられた。完全に漫画の世界に没入してしまうため、誰かに邪魔されると不機嫌になるのだという。
東谷にとって漫画やアニメを鑑賞する時間はそれほど譲れないものらしい。
子どものころの夢は「漫画家になること」だったという東谷。今でも職業の中で最も漫画家をリスペクトし続けているという。
雑談していても、漫画の話題はしょっちゅう出てくる。
ある時はシーザーズパレスのカフェで昼食をとりながら、同じく漫画好きであるFC2創業者の高橋と東谷、そして秘書の墨谷が「連載が途中で中断した漫画」について長く話し込んでいるのに出くわしたことがある。
休載常連の『HUNTER×HUNTER』から始まり、『ベルセルク』『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』『テラフォーマーズ』『コータローまかりとおる!』……。次々に漫画タイトルが上がり、「あーそれもあったなあ」「あれはほんと完結してほしい」「冨樫はもう腹が立ってくる」などと盛り上がっている。
少し驚いたのは、東谷がマイナーと思えるような漫画でも、登場キャラクターの名前や細かなセリフを克明に覚えていることだ。以前、インタビューで持っている数枚のクレジットカードの16桁をすべて覚えていると記憶力の良さを自負していたが、こんなところにも垣間見えた。
東谷は大阪の私立阪南大学を卒業しているが、本人も「漫画はガキのころからの唯一続いている趣味」「漫画に育てられた」と語るように価値観や知識の多くは漫画由来であることが多い。彼の思考を探るには、影響を与えた漫画を分析するのが一つの正しいアプローチなのではないか、と感じた。
ドバイでは紙の漫画本は入手できない。だから、いまは電子書籍で漫画を読んでいる。東谷がインスタグラムでスクリーンショットを公開した「俺のiPadに入っている漫画たち」の一覧がある。
200以上ものタイトルが並んでいるが、目に付くのは不良、暴走族、ヤクザ、殺し屋、博徒など、いわゆるアンダーグラウンド系の漫画の多さだ。『湘南爆走族』『荒くれKNIGHT』『ドルフィン』『ギャングキング』『クローズ』『クローバー』『WORST』『バウンサー』『虹丸組』『バウンスアウト』『キューピー』『ドロップ』『ビー・バップ・ハイスクール』『サンクチュアリ』『HEAT-灼熱-』『代紋TAKE2』『ドンケツ』『殺し屋イチ』『ザ・ファブル』『カイジ』……挙げたらキリがない。 参院選の前後で東谷が口にした印象的な言葉がある。「カルロス・ゴーンの本とか、犯罪を犯した逃亡者の本が売れるわけじゃないですか。今の人々は『嘘の正義より真実の悪』を求めている面はあろうと思いますよ」(2022年5月30日のオンライン出馬会見)「自分のこと悪党だと思っているんですよ。『悪党にしか裁けない悪』は絶対にある。警察や弁護士やまともな人では対応できないね」(2022年8月19日、NewsPicksでの経済学者成田悠輔とのオンライン対談) 雑誌では週刊少年ジャンプとヤングジャンプは電子版でかかさずに定期購読している。なかでも何度もインスタライブなどの配信で言及しているのが尾田栄一郎の人気漫画『ワンピース』だ。 言わずと知れた、悪魔の実を食べた少年ルフィが海賊王をめざし、仲間たちと海賊団「麦わら一味」を組んで繰り広げる冒険活劇。単行本はすでに104巻(2022年12月現在)を数え、発行部数は全世界で累計発行部数が5億部を超えた。週刊少年ジャンプに連載中の物語は佳境に入っている。 私は初期のころの『ワンピース』しか読んだことがなかったが、東谷の取材には欠かせないと判断し、今回最初から最新刊までを読んでみた。幅広い年齢層から支持される大ヒット作だが、「悪党」を自認する東谷の視点から見ると、ハッとさせられるいくつかのポイントがあることに気づく。ガーシーとルフィの共通点 まず当然のことながら、麦わらの一味はあくまでも海賊団であり、少年漫画にありがちな「正義」の側ではない。対照的に、正義を振りかざすのはルフィたちに懸賞金をかけて追い回す世界政府傘下にある海軍だ。海軍将校たちの制服の背中には常に「正義」の二文字が掲げられている。 そして、いずれも海賊を目指す少年期のルフィ、エース、サボの3人が酌み交わすのは「兄弟盃」だ。「お前ら知ってるか? 盃を交わすと“兄弟”になれるんだ」「おれ達3人の絆は“兄弟”としてつなぐ!! どこで何をやろうとこの絆は切れねェ……!!」(コミックス60巻、エースのセリフ) こんな場面もある。新世界でのドンキホーテ海賊団との戦いでルフィと共闘した7人の海賊団の船長たちはルフィを親分、自分達を子分とする「親子盃」を申し出るが、ルフィは「窮屈」「偉くなりてェわけじゃねェ!!!」と拒む。だが「まことに勝手ながら」として子分たちだけで「子分盃」を強行する。「ここに我ら子分となりいついかなるとぎも親分“麦わらのルフィ”先輩の盾となり!! また矛となる!!! こ度のご恩に報い!! 我ら7人!! 命全霊をかけてこの『子分盃』!! 勝手に頂戴いたしますだべ!!!」(コミックス80巻、海賊バルトロメオによる口上) 血縁関係がない者同士が盃を交わすことで疑似的な血縁関係を結び、兄弟になったり、親子になったり。仁義や交わした約束などが重んじられるシーンも数多い。これは日本の伝統的な任侠組織のシステムと同一であり、ワンピースはそんな世界観で成り立っている。 もちろん東谷はヤクザでもなければ、組織に所属したこともない。ただ、前にも言及したが、東谷本人が若いころからそうした者たちに免疫があり、普通の人に比べて抵抗感が薄いのはたしかだろう。 そうした価値観は暴露にも反映され、その一つが暴露では本人だけでなく、その周囲の人物も晒すという東谷独特のやり口がある。元「2ちゃんねる」管理人のひろゆきこと西村博之とツイッターなどで応酬したときは西村氏の妻も攻撃対象にした。楽天の三木谷の攻撃時は妻や子どもにも矛先を向けた。 そんな情け容赦ない喧嘩術はある種、ヤクザ的である。東谷は「その人のアキレス腱を攻める。周囲の人を暴露したら一番嫌がるのはわかっている。それが俺のやり方やから」と悪びれずに繰り返し述べている。 麦わらの一味ならぬ、「ガーシー一味」。東谷、FC2創業者の高橋、暗号資産ビジネスの久積、元バンドマンの墨谷、そして陰の仕掛け人である秋田……。皆がそれぞれに後ろ暗い過去を持つが、東谷はそこにむしろ任侠組織の絆のようなものを感じ取っている。 ある時はインスタグラムにこんな投稿をしていた。「先日共通の知人を通じて、初めてGMOの熊谷さんと話しました。お互いの認識のズレや誤解を直接話したいと言われ、2人で話をさせてもらい、目指すべき道が同じであることがわかりました! 直接連絡してこられる男気に脱帽です! またこれでガーシー海賊団の船に新たな仲間が加わったわー どんどん味方を増やして、最高の海賊団にしたいと思いますー笑笑」 GMO熊谷とは東証プライム上場のGMOインターネット会長の熊谷正寿のことだ。東谷は暴露対象とすると予告していたが、熊谷は東谷と面会。誤解が解けて和解に至ったことを報告したわけだが、ここで海賊団と書くのは『ワンピース』リスペクト以外の何物でもない。さらに一時は敵対していても、友好的に近づいてきた者には、むしろ仲間として受け入れる姿勢を示す。 嘘のタレコミで東谷を陥れようとしたマッサージチェーン「りらくる」創業者の竹之内教博とはしばらく敵対したが、竹之内がその後、謝罪すると、一転して東谷は「これからは応援する」「もう変なこと言わん」と態度を変えた。ガーシーと切っても切れない「中国古典」『ワンピース』と同じ文脈でもう一つ触れておきたい物語がある。 水滸伝だ。さまざまな事情で世間からはじき出された108人の好漢が梁山泊と呼ばれる自然要塞に集結し、盗賊団を組む。悪徳官吏たちを倒し、国を救うことをめざす明の時代に書かれた中国を代表する伝奇小説だ。東谷は歴史漫画の巨匠横山光輝の『水滸伝』に影響され、たびたび言及している。 ある日、ドバイを散歩しながらのインスタ配信で東谷はこう語っていた。「水滸伝というね、俺の大好きな中国の話があんねんけど、梁山泊という山に山賊が住み着いてて、いろんな理由で国を追われた、国会議員みたいな人とか、めちゃめちゃ強い武道家とか、意見が合わなくて役職を剥奪された元将軍とかが集まって、巨大な国という悪を滅ぼす。俺の周りにもクセのある人たちが集まってきている。そういう人たちが集まって、今の日本を変えれるんじゃないかという気がしていて、俺は今のこの空間がすごい心地いい。そんな無法者が集まっている感じが水滸伝っぽい。108(人)の悪者が集まって巨悪を倒す。まさに今の俺やなと」(2022年8月25日のインスタ配信) 参院選後のこの時期はドバイメンバーだけでなく、音楽事務所エイベックス会長の松浦勝人、実業家でユーチューバーの青汁王子こと三崎優太、自伝本『死なばもろとも』を編集した幻冬舎編集者の箕輪厚介らが相次いでドバイを訪れて東谷と会った直後だった。 ドバイだけでなく日本にも仲間や同志を増やし、日本の中枢や既得権益に喧嘩を売っていく――。冷めた人なら嘲笑しそうな、まさに漫画的野心だが、東谷はなかば本気でそう夢想しているように私には見えた。(伊藤 喜之/Webオリジナル(外部転載))
200以上ものタイトルが並んでいるが、目に付くのは不良、暴走族、ヤクザ、殺し屋、博徒など、いわゆるアンダーグラウンド系の漫画の多さだ。
『湘南爆走族』『荒くれKNIGHT』『ドルフィン』『ギャングキング』『クローズ』『クローバー』『WORST』『バウンサー』『虹丸組』『バウンスアウト』『キューピー』『ドロップ』『ビー・バップ・ハイスクール』『サンクチュアリ』『HEAT-灼熱-』『代紋TAKE2』『ドンケツ』『殺し屋イチ』『ザ・ファブル』『カイジ』……挙げたらキリがない。
参院選の前後で東谷が口にした印象的な言葉がある。
「カルロス・ゴーンの本とか、犯罪を犯した逃亡者の本が売れるわけじゃないですか。今の人々は『嘘の正義より真実の悪』を求めている面はあろうと思いますよ」(2022年5月30日のオンライン出馬会見)
「自分のこと悪党だと思っているんですよ。『悪党にしか裁けない悪』は絶対にある。警察や弁護士やまともな人では対応できないね」(2022年8月19日、NewsPicksでの経済学者成田悠輔とのオンライン対談)
雑誌では週刊少年ジャンプとヤングジャンプは電子版でかかさずに定期購読している。なかでも何度もインスタライブなどの配信で言及しているのが尾田栄一郎の人気漫画『ワンピース』だ。
言わずと知れた、悪魔の実を食べた少年ルフィが海賊王をめざし、仲間たちと海賊団「麦わら一味」を組んで繰り広げる冒険活劇。単行本はすでに104巻(2022年12月現在)を数え、発行部数は全世界で累計発行部数が5億部を超えた。週刊少年ジャンプに連載中の物語は佳境に入っている。
私は初期のころの『ワンピース』しか読んだことがなかったが、東谷の取材には欠かせないと判断し、今回最初から最新刊までを読んでみた。幅広い年齢層から支持される大ヒット作だが、「悪党」を自認する東谷の視点から見ると、ハッとさせられるいくつかのポイントがあることに気づく。ガーシーとルフィの共通点 まず当然のことながら、麦わらの一味はあくまでも海賊団であり、少年漫画にありがちな「正義」の側ではない。対照的に、正義を振りかざすのはルフィたちに懸賞金をかけて追い回す世界政府傘下にある海軍だ。海軍将校たちの制服の背中には常に「正義」の二文字が掲げられている。 そして、いずれも海賊を目指す少年期のルフィ、エース、サボの3人が酌み交わすのは「兄弟盃」だ。「お前ら知ってるか? 盃を交わすと“兄弟”になれるんだ」「おれ達3人の絆は“兄弟”としてつなぐ!! どこで何をやろうとこの絆は切れねェ……!!」(コミックス60巻、エースのセリフ) こんな場面もある。新世界でのドンキホーテ海賊団との戦いでルフィと共闘した7人の海賊団の船長たちはルフィを親分、自分達を子分とする「親子盃」を申し出るが、ルフィは「窮屈」「偉くなりてェわけじゃねェ!!!」と拒む。だが「まことに勝手ながら」として子分たちだけで「子分盃」を強行する。「ここに我ら子分となりいついかなるとぎも親分“麦わらのルフィ”先輩の盾となり!! また矛となる!!! こ度のご恩に報い!! 我ら7人!! 命全霊をかけてこの『子分盃』!! 勝手に頂戴いたしますだべ!!!」(コミックス80巻、海賊バルトロメオによる口上) 血縁関係がない者同士が盃を交わすことで疑似的な血縁関係を結び、兄弟になったり、親子になったり。仁義や交わした約束などが重んじられるシーンも数多い。これは日本の伝統的な任侠組織のシステムと同一であり、ワンピースはそんな世界観で成り立っている。 もちろん東谷はヤクザでもなければ、組織に所属したこともない。ただ、前にも言及したが、東谷本人が若いころからそうした者たちに免疫があり、普通の人に比べて抵抗感が薄いのはたしかだろう。 そうした価値観は暴露にも反映され、その一つが暴露では本人だけでなく、その周囲の人物も晒すという東谷独特のやり口がある。元「2ちゃんねる」管理人のひろゆきこと西村博之とツイッターなどで応酬したときは西村氏の妻も攻撃対象にした。楽天の三木谷の攻撃時は妻や子どもにも矛先を向けた。 そんな情け容赦ない喧嘩術はある種、ヤクザ的である。東谷は「その人のアキレス腱を攻める。周囲の人を暴露したら一番嫌がるのはわかっている。それが俺のやり方やから」と悪びれずに繰り返し述べている。 麦わらの一味ならぬ、「ガーシー一味」。東谷、FC2創業者の高橋、暗号資産ビジネスの久積、元バンドマンの墨谷、そして陰の仕掛け人である秋田……。皆がそれぞれに後ろ暗い過去を持つが、東谷はそこにむしろ任侠組織の絆のようなものを感じ取っている。 ある時はインスタグラムにこんな投稿をしていた。「先日共通の知人を通じて、初めてGMOの熊谷さんと話しました。お互いの認識のズレや誤解を直接話したいと言われ、2人で話をさせてもらい、目指すべき道が同じであることがわかりました! 直接連絡してこられる男気に脱帽です! またこれでガーシー海賊団の船に新たな仲間が加わったわー どんどん味方を増やして、最高の海賊団にしたいと思いますー笑笑」 GMO熊谷とは東証プライム上場のGMOインターネット会長の熊谷正寿のことだ。東谷は暴露対象とすると予告していたが、熊谷は東谷と面会。誤解が解けて和解に至ったことを報告したわけだが、ここで海賊団と書くのは『ワンピース』リスペクト以外の何物でもない。さらに一時は敵対していても、友好的に近づいてきた者には、むしろ仲間として受け入れる姿勢を示す。 嘘のタレコミで東谷を陥れようとしたマッサージチェーン「りらくる」創業者の竹之内教博とはしばらく敵対したが、竹之内がその後、謝罪すると、一転して東谷は「これからは応援する」「もう変なこと言わん」と態度を変えた。ガーシーと切っても切れない「中国古典」『ワンピース』と同じ文脈でもう一つ触れておきたい物語がある。 水滸伝だ。さまざまな事情で世間からはじき出された108人の好漢が梁山泊と呼ばれる自然要塞に集結し、盗賊団を組む。悪徳官吏たちを倒し、国を救うことをめざす明の時代に書かれた中国を代表する伝奇小説だ。東谷は歴史漫画の巨匠横山光輝の『水滸伝』に影響され、たびたび言及している。 ある日、ドバイを散歩しながらのインスタ配信で東谷はこう語っていた。「水滸伝というね、俺の大好きな中国の話があんねんけど、梁山泊という山に山賊が住み着いてて、いろんな理由で国を追われた、国会議員みたいな人とか、めちゃめちゃ強い武道家とか、意見が合わなくて役職を剥奪された元将軍とかが集まって、巨大な国という悪を滅ぼす。俺の周りにもクセのある人たちが集まってきている。そういう人たちが集まって、今の日本を変えれるんじゃないかという気がしていて、俺は今のこの空間がすごい心地いい。そんな無法者が集まっている感じが水滸伝っぽい。108(人)の悪者が集まって巨悪を倒す。まさに今の俺やなと」(2022年8月25日のインスタ配信) 参院選後のこの時期はドバイメンバーだけでなく、音楽事務所エイベックス会長の松浦勝人、実業家でユーチューバーの青汁王子こと三崎優太、自伝本『死なばもろとも』を編集した幻冬舎編集者の箕輪厚介らが相次いでドバイを訪れて東谷と会った直後だった。 ドバイだけでなく日本にも仲間や同志を増やし、日本の中枢や既得権益に喧嘩を売っていく――。冷めた人なら嘲笑しそうな、まさに漫画的野心だが、東谷はなかば本気でそう夢想しているように私には見えた。(伊藤 喜之/Webオリジナル(外部転載))
私は初期のころの『ワンピース』しか読んだことがなかったが、東谷の取材には欠かせないと判断し、今回最初から最新刊までを読んでみた。幅広い年齢層から支持される大ヒット作だが、「悪党」を自認する東谷の視点から見ると、ハッとさせられるいくつかのポイントがあることに気づく。
まず当然のことながら、麦わらの一味はあくまでも海賊団であり、少年漫画にありがちな「正義」の側ではない。対照的に、正義を振りかざすのはルフィたちに懸賞金をかけて追い回す世界政府傘下にある海軍だ。海軍将校たちの制服の背中には常に「正義」の二文字が掲げられている。
そして、いずれも海賊を目指す少年期のルフィ、エース、サボの3人が酌み交わすのは「兄弟盃」だ。「お前ら知ってるか? 盃を交わすと“兄弟”になれるんだ」「おれ達3人の絆は“兄弟”としてつなぐ!! どこで何をやろうとこの絆は切れねェ……!!」(コミックス60巻、エースのセリフ)
こんな場面もある。新世界でのドンキホーテ海賊団との戦いでルフィと共闘した7人の海賊団の船長たちはルフィを親分、自分達を子分とする「親子盃」を申し出るが、ルフィは「窮屈」「偉くなりてェわけじゃねェ!!!」と拒む。だが「まことに勝手ながら」として子分たちだけで「子分盃」を強行する。
「ここに我ら子分となりいついかなるとぎも親分“麦わらのルフィ”先輩の盾となり!! また矛となる!!! こ度のご恩に報い!! 我ら7人!! 命全霊をかけてこの『子分盃』!! 勝手に頂戴いたしますだべ!!!」(コミックス80巻、海賊バルトロメオによる口上)
血縁関係がない者同士が盃を交わすことで疑似的な血縁関係を結び、兄弟になったり、親子になったり。仁義や交わした約束などが重んじられるシーンも数多い。これは日本の伝統的な任侠組織のシステムと同一であり、ワンピースはそんな世界観で成り立っている。
もちろん東谷はヤクザでもなければ、組織に所属したこともない。ただ、前にも言及したが、東谷本人が若いころからそうした者たちに免疫があり、普通の人に比べて抵抗感が薄いのはたしかだろう。
そうした価値観は暴露にも反映され、その一つが暴露では本人だけでなく、その周囲の人物も晒すという東谷独特のやり口がある。元「2ちゃんねる」管理人のひろゆきこと西村博之とツイッターなどで応酬したときは西村氏の妻も攻撃対象にした。楽天の三木谷の攻撃時は妻や子どもにも矛先を向けた。
そんな情け容赦ない喧嘩術はある種、ヤクザ的である。東谷は「その人のアキレス腱を攻める。周囲の人を暴露したら一番嫌がるのはわかっている。それが俺のやり方やから」と悪びれずに繰り返し述べている。
麦わらの一味ならぬ、「ガーシー一味」。東谷、FC2創業者の高橋、暗号資産ビジネスの久積、元バンドマンの墨谷、そして陰の仕掛け人である秋田……。皆がそれぞれに後ろ暗い過去を持つが、東谷はそこにむしろ任侠組織の絆のようなものを感じ取っている。
ある時はインスタグラムにこんな投稿をしていた。
「先日共通の知人を通じて、初めてGMOの熊谷さんと話しました。お互いの認識のズレや誤解を直接話したいと言われ、2人で話をさせてもらい、目指すべき道が同じであることがわかりました! 直接連絡してこられる男気に脱帽です! またこれでガーシー海賊団の船に新たな仲間が加わったわー どんどん味方を増やして、最高の海賊団にしたいと思いますー笑笑」
GMO熊谷とは東証プライム上場のGMOインターネット会長の熊谷正寿のことだ。東谷は暴露対象とすると予告していたが、熊谷は東谷と面会。誤解が解けて和解に至ったことを報告したわけだが、ここで海賊団と書くのは『ワンピース』リスペクト以外の何物でもない。さらに一時は敵対していても、友好的に近づいてきた者には、むしろ仲間として受け入れる姿勢を示す。
嘘のタレコミで東谷を陥れようとしたマッサージチェーン「りらくる」創業者の竹之内教博とはしばらく敵対したが、竹之内がその後、謝罪すると、一転して東谷は「これからは応援する」「もう変なこと言わん」と態度を変えた。
『ワンピース』と同じ文脈でもう一つ触れておきたい物語がある。
水滸伝だ。さまざまな事情で世間からはじき出された108人の好漢が梁山泊と呼ばれる自然要塞に集結し、盗賊団を組む。悪徳官吏たちを倒し、国を救うことをめざす明の時代に書かれた中国を代表する伝奇小説だ。東谷は歴史漫画の巨匠横山光輝の『水滸伝』に影響され、たびたび言及している。
ある日、ドバイを散歩しながらのインスタ配信で東谷はこう語っていた。「水滸伝というね、俺の大好きな中国の話があんねんけど、梁山泊という山に山賊が住み着いてて、いろんな理由で国を追われた、国会議員みたいな人とか、めちゃめちゃ強い武道家とか、意見が合わなくて役職を剥奪された元将軍とかが集まって、巨大な国という悪を滅ぼす。俺の周りにもクセのある人たちが集まってきている。そういう人たちが集まって、今の日本を変えれるんじゃないかという気がしていて、俺は今のこの空間がすごい心地いい。そんな無法者が集まっている感じが水滸伝っぽい。108(人)の悪者が集まって巨悪を倒す。まさに今の俺やなと」(2022年8月25日のインスタ配信) 参院選後のこの時期はドバイメンバーだけでなく、音楽事務所エイベックス会長の松浦勝人、実業家でユーチューバーの青汁王子こと三崎優太、自伝本『死なばもろとも』を編集した幻冬舎編集者の箕輪厚介らが相次いでドバイを訪れて東谷と会った直後だった。 ドバイだけでなく日本にも仲間や同志を増やし、日本の中枢や既得権益に喧嘩を売っていく――。冷めた人なら嘲笑しそうな、まさに漫画的野心だが、東谷はなかば本気でそう夢想しているように私には見えた。(伊藤 喜之/Webオリジナル(外部転載))
ある日、ドバイを散歩しながらのインスタ配信で東谷はこう語っていた。
「水滸伝というね、俺の大好きな中国の話があんねんけど、梁山泊という山に山賊が住み着いてて、いろんな理由で国を追われた、国会議員みたいな人とか、めちゃめちゃ強い武道家とか、意見が合わなくて役職を剥奪された元将軍とかが集まって、巨大な国という悪を滅ぼす。俺の周りにもクセのある人たちが集まってきている。そういう人たちが集まって、今の日本を変えれるんじゃないかという気がしていて、俺は今のこの空間がすごい心地いい。そんな無法者が集まっている感じが水滸伝っぽい。108(人)の悪者が集まって巨悪を倒す。まさに今の俺やなと」(2022年8月25日のインスタ配信)
参院選後のこの時期はドバイメンバーだけでなく、音楽事務所エイベックス会長の松浦勝人、実業家でユーチューバーの青汁王子こと三崎優太、自伝本『死なばもろとも』を編集した幻冬舎編集者の箕輪厚介らが相次いでドバイを訪れて東谷と会った直後だった。
ドバイだけでなく日本にも仲間や同志を増やし、日本の中枢や既得権益に喧嘩を売っていく――。冷めた人なら嘲笑しそうな、まさに漫画的野心だが、東谷はなかば本気でそう夢想しているように私には見えた。
(伊藤 喜之/Webオリジナル(外部転載))