スタンガンで「女子高生」を脅して強制わいせつ 「ウーバー配達員」が法廷で語った異様な執着

盗撮やわいせつ行為を何度となく繰り返して起訴された“男”の裁判員裁判。その判決公判が9月9日に東京地裁立川支部で開かれ、新井紅亜礼裁判長は求刑通りの懲役8年を言い渡した。公判で男は「同じような犯罪、やらないというより、やるわけない」と高らかに更生を誓う一方で、「女子高生」に対する異様な執着を隠さず、さらに、犯行に至った経緯について「神の思し召し」と語るなど、最後まで危険な側面を露わにしていた。【高橋ユキ/ノンフィクションライター】(前後編の「前編」)
【写真】性的暴行容疑で異例の10回再逮捕…「元リクルート関連会社社員」を追い詰めた捜査の内幕 8月31日の初公判。人定質問に臨んだ被告の男は、証言台の前まで歩くことさえやっとなほどヨロヨロとした足取りを見せ、それ以降は車椅子を使用した。逮捕前にほぼ毎日“自転車を走らせていた”とは思えない弱々しさだった。 その男、藤野隆太被告(40)は「ウーバーイーツ」の配達員をしながら、数々のわいせつ事件に手を染めた。起訴された案件を挙げるだけでも、女子高校生3名に対する強制わいせつや同未遂、児童ポルノ禁止法違反に加え、49回に及ぶスカート内の盗撮という迷惑防止条例違反などの罪に問われていた。重大事件を扱う裁判員裁判の対象となったのは、女子高校生3名のうち1名に対して怪我を負わせ、強制わいせつ致傷でも起訴されたためである。フードデリバリーで街を駆け巡りながら犯行を重ねていた(写真は本文とは関係ありません) 冒頭陳述や、「間違いありません」と罪を全て認めた起訴状によれば、藤野被告は2014年にも盗撮事件で執行猶予判決を受けていた。だが、数年後に住居侵入と強制わいせつに及び、執行猶予が取り消されて服役。そして、2020年3月の仮釈放から1ヵ月後に、ウーバーイーツの配達員を始めている。 まさに新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令されたタイミングで、フードデリバリーの仕事に励み始めた藤野被告。刑務所内で性犯罪者向けの再犯防止プログラムに参加していたというが、仮釈放からわずか半年後には、またしても盗撮行為を再開している。同時に、2020年10月から翌年1月にかけて、全く面識のない女子高校生3人に対して次々と犯行を重ねていったのだ。コンテナから見つかった大量の“犯行道具” まず、Aさん(当時16歳)に対しては、彼女が住むマンション付近で背後から近寄って口を塞ぎ、スタンガンを放電して脅し、さらにナイフを突きつけて被告の陰茎を舐めさせるなどのわいせつ行為に及び、その様子を動画に撮影した。 Bさん(当時17歳)もスタンガンで脅されたものの、悲鳴を上げたことに被告が驚き、逃走して未遂に終わっている。 Cさん(当時16歳)が巻き込まれた事件では、Aさん同様に、被告が自宅マンションの通路で後ろから口を塞ぎ、ナイフを突きつけて駐車場へ移動した。ここでもスタンガンを脅しに用いたが、Cさんが抵抗したことからもみ合いになって逃走。このときCさんは全治10日間の怪我を負った。 Cさんに対する事件を起こした5日後に、某所で「不審者が“空き家”の敷地に入っている」と目撃者が110番通報。警察が捜索したところ、敷地内にあったコンテナからは、ピンクの下着や浣腸、うがい薬やアルコールスプレーボトル、スタンガン、ナイフなどが発見された。藤野被告は仮釈放後、家族の住む実家で暮らしていたため、このコンテナに“犯行道具”を隠していたとみられる。女子高生への憧れと背徳感 9月1日の被告人質問でも歩くことがおぼつかないのか、車椅子で登場した藤野被告。スーツ姿に背筋を丸めた藤野被告が乗る車椅子を職員が押し、証言台の前につけられた。傍聴席から見る背中は左肩が極端に下がっていた。 この日、まず藤野被告は、服役中に受講した再犯防止プログラムに触れ、再び犯罪に手を染めない意欲があったと熱弁をふるった。猫背で弱々しい姿から発せられる声は大きく、はっきりとした口調で、さながら採用面接にやってきた就職希望者の如くである。「週2回、9ヵ月……、主に同じような犯罪を犯した人とグループになって、生い立ちや事件について語り合い、なにが問題か、また改善点などを話し合いました。そのときに犯罪を犯す理由を考えましたが、私は高校時代に、背徳感を伴う性的な経験があり、孤独の穴埋めのためにそれを思い出してしまいました。孤独感については出所後に対策として、私の前科については報道されていなかったので、中で勉強していた英会話を続け、また以前は動物を飼っていなかったので飼ったりしました。友人に連絡を取り、会おうともしましたが、コロナのために会うことはできませんでした」(被告人質問での藤野被告の発言) 背徳感を伴う性的体験とは、藤野被告によれば、自身が高校時代に足を踏み入れた風俗店での性体験だったという。「自分が高校生当時から、触れ合うことができなかった『女子高生』に憧れを持っていました。加えて、いわゆるブルセラや援助交際などの対象も女子高生。性的快感、私の高校生の時の風俗経験が背徳感を伴っており、それと女子高生が紐づいていました」(同) つまり、高校生時代の藤野被告は、遠巻きに眺めることしかできなかった同じ年頃の女子に憧れを抱き、込み上げる性的な衝動を風俗店で慰め、そこで覚えた快感と背徳感を忘れられないまま、以降も「女子高生」への思いを募らせ続けていたのだ。「偶然が重なった」 ここまで自分の内面を分析していたにもかかわらず、また、「仮釈放後、しばらくは女子高生を見ても犯罪をしようとは思わなかった。タバコや酒……、アル中の人や喫煙者が1回禁煙、断酒したら飲みたいとか思わなくなるのと同じだと思っていました」(同)と、内省や刑務所内でのプログラムに手応えを感じていたにもかかわらず、仮釈放からほどなく“のぞき”を始める。 そのきっかけについて、藤野被告は「偶然が重なった」からだと説明した。「配達の仕事をしていると、普段は21時くらいから注文がなくなってきます。その日は偶然、23時くらいまで注文が続き遅くなっていました。その中で、普段からよく通っていた場所を走行中、ある住宅からシャワーの音がして、浴室が……。それに加えて、偶然、女子高生が親と帰宅したのを見たことがあるのを思い出し、偶然が重なった中で……。かといって、興奮が高まったとかではなく、私の中でこの感情を表現できる言葉が見つからない。強いて言えば、高校時代の風俗の充足感に似たものを感じて、得もいわれぬ感覚を……。悪いことだと分かっていましたが、これは自分に必要な悪なんだと思い、せめて気付かれないようにしようと思いました」 のぞきという“悪いこと”は、自分がさらなる凶悪犯罪に踏み出さないために必要なもの。そんな身勝手な理屈を語る藤野被告は、その後、週4日のペースで驚くべき行動に出る。あろうことか、「盗撮Gメン」を始めたのだ。罪滅ぼしをしながら罪を重ねる フードデリバリーの仕事が忙しくなる前の早朝、通勤通学の時間帯に、駅周辺で盗撮に及ぼうとする者を見つけるというボランティアだという。しかし、内心はのぞき行為を自分にとって必要な“悪”だと考えている藤野被告である。盗撮Gメンの仮面を被りながら、自身も盗撮を繰り返すという日々が始まった。にもかかわらず、早朝の通勤通学時間帯に駅周辺に待機しようと思い立ったのは、あくまでも「盗撮を取り締まる」ためだったと言う。「罪滅ぼしの意味合いでした。以前も、犯行前に犯人を偶然見かけたことがあり、こういうことをやると、自分がよく思われると……」(同) 木を隠すなら森の中、とばかりに、盗撮の前科がありながら盗撮のはびこる駅前に自分から出向いた藤野被告。のぞきに関して認めた内面の“悪”についても「これは自分にとって必要なもの。せめて見つからないようにしようと思った」と、その範囲が拡大してゆく。罪滅ぼしをしながら罪を重ねる日々――。 ひとつ“悪”を認めると、ドミノ倒しのようにどこまでも止まらないのか、藤野被告はこれ以降、女子高校生3人に対する強制わいせつ未遂や強制わいせつ致傷事件を立て続けに起こすのだ。しかも、そのやり口は“異様”と呼ぶほかないものだった。(以下、後編に続く)高橋ユキ(たかはし・ゆき)ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。デイリー新潮編集部
8月31日の初公判。人定質問に臨んだ被告の男は、証言台の前まで歩くことさえやっとなほどヨロヨロとした足取りを見せ、それ以降は車椅子を使用した。逮捕前にほぼ毎日“自転車を走らせていた”とは思えない弱々しさだった。 その男、藤野隆太被告(40)は「ウーバーイーツ」の配達員をしながら、数々のわいせつ事件に手を染めた。起訴された案件を挙げるだけでも、女子高校生3名に対する強制わいせつや同未遂、児童ポルノ禁止法違反に加え、49回に及ぶスカート内の盗撮という迷惑防止条例違反などの罪に問われていた。重大事件を扱う裁判員裁判の対象となったのは、女子高校生3名のうち1名に対して怪我を負わせ、強制わいせつ致傷でも起訴されたためである。
冒頭陳述や、「間違いありません」と罪を全て認めた起訴状によれば、藤野被告は2014年にも盗撮事件で執行猶予判決を受けていた。だが、数年後に住居侵入と強制わいせつに及び、執行猶予が取り消されて服役。そして、2020年3月の仮釈放から1ヵ月後に、ウーバーイーツの配達員を始めている。
まさに新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令されたタイミングで、フードデリバリーの仕事に励み始めた藤野被告。刑務所内で性犯罪者向けの再犯防止プログラムに参加していたというが、仮釈放からわずか半年後には、またしても盗撮行為を再開している。同時に、2020年10月から翌年1月にかけて、全く面識のない女子高校生3人に対して次々と犯行を重ねていったのだ。
まず、Aさん(当時16歳)に対しては、彼女が住むマンション付近で背後から近寄って口を塞ぎ、スタンガンを放電して脅し、さらにナイフを突きつけて被告の陰茎を舐めさせるなどのわいせつ行為に及び、その様子を動画に撮影した。
Bさん(当時17歳)もスタンガンで脅されたものの、悲鳴を上げたことに被告が驚き、逃走して未遂に終わっている。
Cさん(当時16歳)が巻き込まれた事件では、Aさん同様に、被告が自宅マンションの通路で後ろから口を塞ぎ、ナイフを突きつけて駐車場へ移動した。ここでもスタンガンを脅しに用いたが、Cさんが抵抗したことからもみ合いになって逃走。このときCさんは全治10日間の怪我を負った。
Cさんに対する事件を起こした5日後に、某所で「不審者が“空き家”の敷地に入っている」と目撃者が110番通報。警察が捜索したところ、敷地内にあったコンテナからは、ピンクの下着や浣腸、うがい薬やアルコールスプレーボトル、スタンガン、ナイフなどが発見された。藤野被告は仮釈放後、家族の住む実家で暮らしていたため、このコンテナに“犯行道具”を隠していたとみられる。
9月1日の被告人質問でも歩くことがおぼつかないのか、車椅子で登場した藤野被告。スーツ姿に背筋を丸めた藤野被告が乗る車椅子を職員が押し、証言台の前につけられた。傍聴席から見る背中は左肩が極端に下がっていた。
この日、まず藤野被告は、服役中に受講した再犯防止プログラムに触れ、再び犯罪に手を染めない意欲があったと熱弁をふるった。猫背で弱々しい姿から発せられる声は大きく、はっきりとした口調で、さながら採用面接にやってきた就職希望者の如くである。
「週2回、9ヵ月……、主に同じような犯罪を犯した人とグループになって、生い立ちや事件について語り合い、なにが問題か、また改善点などを話し合いました。そのときに犯罪を犯す理由を考えましたが、私は高校時代に、背徳感を伴う性的な経験があり、孤独の穴埋めのためにそれを思い出してしまいました。孤独感については出所後に対策として、私の前科については報道されていなかったので、中で勉強していた英会話を続け、また以前は動物を飼っていなかったので飼ったりしました。友人に連絡を取り、会おうともしましたが、コロナのために会うことはできませんでした」(被告人質問での藤野被告の発言)
背徳感を伴う性的体験とは、藤野被告によれば、自身が高校時代に足を踏み入れた風俗店での性体験だったという。
「自分が高校生当時から、触れ合うことができなかった『女子高生』に憧れを持っていました。加えて、いわゆるブルセラや援助交際などの対象も女子高生。性的快感、私の高校生の時の風俗経験が背徳感を伴っており、それと女子高生が紐づいていました」(同)
つまり、高校生時代の藤野被告は、遠巻きに眺めることしかできなかった同じ年頃の女子に憧れを抱き、込み上げる性的な衝動を風俗店で慰め、そこで覚えた快感と背徳感を忘れられないまま、以降も「女子高生」への思いを募らせ続けていたのだ。
ここまで自分の内面を分析していたにもかかわらず、また、「仮釈放後、しばらくは女子高生を見ても犯罪をしようとは思わなかった。タバコや酒……、アル中の人や喫煙者が1回禁煙、断酒したら飲みたいとか思わなくなるのと同じだと思っていました」(同)と、内省や刑務所内でのプログラムに手応えを感じていたにもかかわらず、仮釈放からほどなく“のぞき”を始める。
そのきっかけについて、藤野被告は「偶然が重なった」からだと説明した。
「配達の仕事をしていると、普段は21時くらいから注文がなくなってきます。その日は偶然、23時くらいまで注文が続き遅くなっていました。その中で、普段からよく通っていた場所を走行中、ある住宅からシャワーの音がして、浴室が……。それに加えて、偶然、女子高生が親と帰宅したのを見たことがあるのを思い出し、偶然が重なった中で……。かといって、興奮が高まったとかではなく、私の中でこの感情を表現できる言葉が見つからない。強いて言えば、高校時代の風俗の充足感に似たものを感じて、得もいわれぬ感覚を……。悪いことだと分かっていましたが、これは自分に必要な悪なんだと思い、せめて気付かれないようにしようと思いました」
のぞきという“悪いこと”は、自分がさらなる凶悪犯罪に踏み出さないために必要なもの。そんな身勝手な理屈を語る藤野被告は、その後、週4日のペースで驚くべき行動に出る。あろうことか、「盗撮Gメン」を始めたのだ。
フードデリバリーの仕事が忙しくなる前の早朝、通勤通学の時間帯に、駅周辺で盗撮に及ぼうとする者を見つけるというボランティアだという。しかし、内心はのぞき行為を自分にとって必要な“悪”だと考えている藤野被告である。盗撮Gメンの仮面を被りながら、自身も盗撮を繰り返すという日々が始まった。にもかかわらず、早朝の通勤通学時間帯に駅周辺に待機しようと思い立ったのは、あくまでも「盗撮を取り締まる」ためだったと言う。
「罪滅ぼしの意味合いでした。以前も、犯行前に犯人を偶然見かけたことがあり、こういうことをやると、自分がよく思われると……」(同)
木を隠すなら森の中、とばかりに、盗撮の前科がありながら盗撮のはびこる駅前に自分から出向いた藤野被告。のぞきに関して認めた内面の“悪”についても「これは自分にとって必要なもの。せめて見つからないようにしようと思った」と、その範囲が拡大してゆく。罪滅ぼしをしながら罪を重ねる日々――。
ひとつ“悪”を認めると、ドミノ倒しのようにどこまでも止まらないのか、藤野被告はこれ以降、女子高校生3人に対する強制わいせつ未遂や強制わいせつ致傷事件を立て続けに起こすのだ。しかも、そのやり口は“異様”と呼ぶほかないものだった。(以下、後編に続く)
高橋ユキ(たかはし・ゆき)ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗 危険な愛の奥義』『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。
デイリー新潮編集部