臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、支持率が急落した第2次岸田改造内閣について。
【写真】岸田首相がパパ活疑惑の吉川議員の手を握るツーショット * * *「極めて、珍しいことが起きました」、22日のテレビ朝日のあるニュース番組から、こんなナレーションが流れてきた。何がそんなに珍しいのかと聞き耳を立てると、岸田文雄首相が10日に行った会見シーンに切り替わった。「皆様の期待に応える有事の内閣を速やかに整えていくため、内閣改造を断行致しました」。
続くナレーションは「通常、内閣改造を行えば、支持率が上がるものですが…」と、当惑気味なトーンに変わった。各メディアが行った世論調査の結果、内閣を改造したにも関わらず、岸田内閣の支持率が急落したのだ。通常では起こらないはずのことが起こったというのだが、これこそ”有事の内閣”と岸田首相がネーミングしただけのことがある。国民の期待にはまだ応えていないが、失望には応えたらしい。 報道各社による新聞やネットの記事では、有事の内閣という表現に対し「有事に対応する内閣」や「有事に備えた内閣」と親切に言葉を補っていた。行間を読まずとも、首相が言いたかったことはそうだとわかっているが、字面通りに捉えると、今まさに、内閣で起きていることを予知するようなネーミングではないか。 この支持率急落に松野博一官房長官は「世論調査の数字に一喜一憂しませんが」と淡々と述べ、国民の声を真摯に生かしていくと、22日の会見で無表情のまま発言した。岸田内閣のナンバー2である官房長官が世論の声や民意を置き去りにするような発言に、話を聞かないのかとネットでは批判が起きた。敢えてこんな発言をした裏には、下がり続ける数字を、実はとても気にしているという心理が隠れているような気もする。 極めて珍しいことは他にも起こった。さすが有事の内閣である。岸田首相が新型コロナウイルスに感染したのだ。日本の首相として感染したのは初。それも6日間の夏休みを終え、ゴルフや温泉でリフレッシュし、翌日に公務復帰を控えた最終日に感染が判明。改造内閣で再スタートを切るはずが、なんとも言えないタイミングである。 そのため、珍しい光景を見ることできた。22日に行われた首相のオンライン会見である。どんな会見が行われるのかと思っていたら、まさかのモニター前ぶらさがり会見だ。設置されたモニターに現れた岸田首相の前に、報道各社の記者たちが両側に密に並び、順番にマイクの前に立ち質問していたのだ。これで記者たちが着席していたら、ドラマや映画でよく見るような映像でしかない。 ところが、首相は自身の感染を想定し、「官邸と公邸の間に光ファイバーによる専用会議システムを整備させ、万一に備えてきた」と、ちょっと自慢気に述べていた。これまで光ファイバーもつながっていなかったのか? これをオンライン会見と言うのかと首を傾げたが、現場の記者たちは誰もそこには突っ込まなかった。通常のぶら下がり会見とはやや様相が違ったようだ。岸田首相は用意した書面を読み上げていた。 オンライン会見では岸田首相の表情や仕草がよくわかる。コロナ感染についての質問と旧統一教会に関する質問では、声も仕草も表情も明らかに違うのだ。コロナ感染では、落ち着いた様子で書面を読み上げていたが、質問が旧統一教会に関するものになった途端、「あー」「うー」「えー」「あのー」「その」が多くなり、明らかに戸惑った印象だ。どの書面を読み上げてよいのかわからないのか、あっちこっちページをめくる。尻をもぞもぞと動かし、机の上に組んだ手や指がせわしなく動き落ち着かない。「国民からの様々な指摘は真摯に受け止めていかなければならない」と述べつつも、視線を下に向けたまま、声がどんどん小さくなっていく。できれば触れたくない話題なのだろう、そんな心の動きを印象づけるような声だった。問題のある団体への立法を含めた取り組みについて聞かれても、被害を受けた個人への相談体制などに話をとどめ、取り組みに関する具体的な言及はなかった。 旧統一教会と何らかの関係があったという閣僚がボロボロ出ているが、岸田首相も松野官房長官も「国民に疑念を持たれることがないよう十分に注意しなければならない」と述べるだけだ。すでに多くの国民が疑念を抱き、支持が急落している。内閣にとっては有事が起きているはすだが、各議員に対し、関係の点検と厳正な見直しを求めるだけで「こうした団体との関係については関係を断っていただくよう、徹底していくことが重要」と歯切れがいいのか悪いのかはっきりしない表現に終始する。 メディアによると、岸田首相はこれまで2度の国政選挙を乗り越えてきた強運の持ち主だそうだ。運を引き寄せる力があるのかもしれない。有事の内閣も、その名の通り有事を引き寄せているようだ。
* * *「極めて、珍しいことが起きました」、22日のテレビ朝日のあるニュース番組から、こんなナレーションが流れてきた。何がそんなに珍しいのかと聞き耳を立てると、岸田文雄首相が10日に行った会見シーンに切り替わった。「皆様の期待に応える有事の内閣を速やかに整えていくため、内閣改造を断行致しました」。
続くナレーションは「通常、内閣改造を行えば、支持率が上がるものですが…」と、当惑気味なトーンに変わった。各メディアが行った世論調査の結果、内閣を改造したにも関わらず、岸田内閣の支持率が急落したのだ。通常では起こらないはずのことが起こったというのだが、これこそ”有事の内閣”と岸田首相がネーミングしただけのことがある。国民の期待にはまだ応えていないが、失望には応えたらしい。
報道各社による新聞やネットの記事では、有事の内閣という表現に対し「有事に対応する内閣」や「有事に備えた内閣」と親切に言葉を補っていた。行間を読まずとも、首相が言いたかったことはそうだとわかっているが、字面通りに捉えると、今まさに、内閣で起きていることを予知するようなネーミングではないか。
この支持率急落に松野博一官房長官は「世論調査の数字に一喜一憂しませんが」と淡々と述べ、国民の声を真摯に生かしていくと、22日の会見で無表情のまま発言した。岸田内閣のナンバー2である官房長官が世論の声や民意を置き去りにするような発言に、話を聞かないのかとネットでは批判が起きた。敢えてこんな発言をした裏には、下がり続ける数字を、実はとても気にしているという心理が隠れているような気もする。
極めて珍しいことは他にも起こった。さすが有事の内閣である。岸田首相が新型コロナウイルスに感染したのだ。日本の首相として感染したのは初。それも6日間の夏休みを終え、ゴルフや温泉でリフレッシュし、翌日に公務復帰を控えた最終日に感染が判明。改造内閣で再スタートを切るはずが、なんとも言えないタイミングである。
そのため、珍しい光景を見ることできた。22日に行われた首相のオンライン会見である。どんな会見が行われるのかと思っていたら、まさかのモニター前ぶらさがり会見だ。設置されたモニターに現れた岸田首相の前に、報道各社の記者たちが両側に密に並び、順番にマイクの前に立ち質問していたのだ。これで記者たちが着席していたら、ドラマや映画でよく見るような映像でしかない。
ところが、首相は自身の感染を想定し、「官邸と公邸の間に光ファイバーによる専用会議システムを整備させ、万一に備えてきた」と、ちょっと自慢気に述べていた。これまで光ファイバーもつながっていなかったのか? これをオンライン会見と言うのかと首を傾げたが、現場の記者たちは誰もそこには突っ込まなかった。通常のぶら下がり会見とはやや様相が違ったようだ。岸田首相は用意した書面を読み上げていた。
オンライン会見では岸田首相の表情や仕草がよくわかる。コロナ感染についての質問と旧統一教会に関する質問では、声も仕草も表情も明らかに違うのだ。コロナ感染では、落ち着いた様子で書面を読み上げていたが、質問が旧統一教会に関するものになった途端、「あー」「うー」「えー」「あのー」「その」が多くなり、明らかに戸惑った印象だ。どの書面を読み上げてよいのかわからないのか、あっちこっちページをめくる。尻をもぞもぞと動かし、机の上に組んだ手や指がせわしなく動き落ち着かない。
「国民からの様々な指摘は真摯に受け止めていかなければならない」と述べつつも、視線を下に向けたまま、声がどんどん小さくなっていく。できれば触れたくない話題なのだろう、そんな心の動きを印象づけるような声だった。問題のある団体への立法を含めた取り組みについて聞かれても、被害を受けた個人への相談体制などに話をとどめ、取り組みに関する具体的な言及はなかった。
旧統一教会と何らかの関係があったという閣僚がボロボロ出ているが、岸田首相も松野官房長官も「国民に疑念を持たれることがないよう十分に注意しなければならない」と述べるだけだ。すでに多くの国民が疑念を抱き、支持が急落している。内閣にとっては有事が起きているはすだが、各議員に対し、関係の点検と厳正な見直しを求めるだけで「こうした団体との関係については関係を断っていただくよう、徹底していくことが重要」と歯切れがいいのか悪いのかはっきりしない表現に終始する。
メディアによると、岸田首相はこれまで2度の国政選挙を乗り越えてきた強運の持ち主だそうだ。運を引き寄せる力があるのかもしれない。有事の内閣も、その名の通り有事を引き寄せているようだ。