厚木基地に所属する50代の女性自衛隊員が「上司5人に暴言」などの“逆パワハラ”を働いたとして、懲戒免職になった問題。本人が本誌(「週刊新潮」)に告白した、数々のパワハラ疑惑に対する言い分とは――
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【写真10枚】世界中で進む「女性軍人」の躍進 インド空軍の「美しすぎる女性パイロット」の写真を見る 昨年12月15日、海上自衛隊は神奈川県の厚木航空基地でパワハラ案件があったと公表した。報じられた事件の概要は、厚木基地に所属する50代の女性自衛隊員が「上司5人に暴言」などの“逆パワハラ”を働いたとして、懲戒免職になったというものだ。本誌が入手した、海自の横須賀地方総監の名義で作成された〈懲戒処分説明書〉には、女性隊員が上司に放ったとされる暴言や、上司の病歴を揶揄したなどのパワハラ行為が記されている。
酒井良海上幕僚長 だが、処分が下された女性隊員は、これに納得がいかず、不服申し立てを行っているという。 その言い分を聞くべく、当の女性隊員が住まう自宅へ足を運ぶと、ご本人が以下のように答えるのだった。「今回の懲戒処分についての説明書を読んでいても、その上司とは一緒に働いていない時期に暴言を吐いたと書かれているなど事実誤認の記載があって、それを基にして免職されたわけですから、まったく納得がいきませんし不服だと思っています。今は防衛大臣に対して、今回の懲戒処分の審査請求を求め、行政処分の不服申し立てを行っているところです」 そう憤るのだが、肝心の上司らへの「暴言」について改めて質したところ、「私が口にしたとされる暴言について、2年前のことなども多く含まれていて正直なところ詳細は記憶にないのですが、厳しく意見具申を行ったことは確かにありました。私は防衛省のためにと思って頑張っていたつもりではありますが、上司にも意見を繰り返すので、きっと組織では疎(うと)まれていたんでしょうね……」「上司を注意するのは、おかしいことでしょうか」 あくまでも前向きな提案だったと訴える彼女は、続けてこう話す。「私に疑いがかかっていると知ったのは、去年9月のことです。基地の司令官から“申し立てがあったので聴取を行う”と告げられました。それから、調査官に呼び出され、昼の13時くらいから夜20時過ぎまで延々と“上司に暴言を吐いたんだろう”と聞き取り調査を受けました。任意とはいえ決め打ちのような雰囲気でしたね。なので、私の方からは調査に先立って、被疑事実に対する意見を述べた陳述書を懲戒権者に提出したのですが、これも全く調査の結果には影響をもたらしませんでした。結局、処分説明書をみても言った、言わないの問題だけで、そこに至るまでの過程に関しては、加味された様子が全くありません」 彼女の認識はこうだ。「当時の上司であるA1等海曹に強い口調で意見したのは事実ですが、それは彼が女性自衛官の官舎から出たゴミを漁っているのを目撃し、見とがめたということもあります。またC3佐にしても、本来パスワードをかけて送らないといけない個人情報ファイルをそのまま送信してしまうことがあり、それに対してなぜパスをかけないのかと強く指摘したことは確かにありました。しかし、こうした行動をとる上司を注意するのは、それほどにおかしいことでしょうか」「納得がいきません」 また上司の病歴を揶揄してパワハラ認定を受けたケースでは、こんな事情があったと訴えるのだ。「この上司は幹部自衛官ではありますが、私と同期で以前からLINEのやり取りをする関係でした。彼女からのメッセージには“(適応障害の)診断をもらえれば、異動も早急にやってもらえるかもという戦略でもあります”と書かれていたこともあって、勤務先を替えたいがための詐病だろうと考えていました。こうした彼女の態度をとがめて言ったことを、その発言に至るまでの事情を加味せず被疑事実とするのは、本当に納得がいきません」海自の回答は 彼女から指摘があった上司らにも、言われるだけの相応の理由があったと主張するのだ。だが、一般企業ならまだしも、これが国を守る組織の実態だとすれば、やはり首をかしげたくなる。 改めて海自にも聞くと、「個人が特定されかねない情報を基本としているため、お答えは差し控えさせていただきます」(防衛省海上幕僚監部広報室) そう話すばかり。不服申し立ての結論が出るのはまだ数カ月先といわれるが、自衛隊として組織の立て直しが急務なのは言うまでもない。国を守るべき防波堤がこれほどに脆いと知ってほくそ笑むのは、海の向こうのかの国である。「週刊新潮」2023年2月16日号 掲載
昨年12月15日、海上自衛隊は神奈川県の厚木航空基地でパワハラ案件があったと公表した。報じられた事件の概要は、厚木基地に所属する50代の女性自衛隊員が「上司5人に暴言」などの“逆パワハラ”を働いたとして、懲戒免職になったというものだ。本誌が入手した、海自の横須賀地方総監の名義で作成された〈懲戒処分説明書〉には、女性隊員が上司に放ったとされる暴言や、上司の病歴を揶揄したなどのパワハラ行為が記されている。
だが、処分が下された女性隊員は、これに納得がいかず、不服申し立てを行っているという。
その言い分を聞くべく、当の女性隊員が住まう自宅へ足を運ぶと、ご本人が以下のように答えるのだった。
「今回の懲戒処分についての説明書を読んでいても、その上司とは一緒に働いていない時期に暴言を吐いたと書かれているなど事実誤認の記載があって、それを基にして免職されたわけですから、まったく納得がいきませんし不服だと思っています。今は防衛大臣に対して、今回の懲戒処分の審査請求を求め、行政処分の不服申し立てを行っているところです」
そう憤るのだが、肝心の上司らへの「暴言」について改めて質したところ、
「私が口にしたとされる暴言について、2年前のことなども多く含まれていて正直なところ詳細は記憶にないのですが、厳しく意見具申を行ったことは確かにありました。私は防衛省のためにと思って頑張っていたつもりではありますが、上司にも意見を繰り返すので、きっと組織では疎(うと)まれていたんでしょうね……」
あくまでも前向きな提案だったと訴える彼女は、続けてこう話す。
「私に疑いがかかっていると知ったのは、去年9月のことです。基地の司令官から“申し立てがあったので聴取を行う”と告げられました。それから、調査官に呼び出され、昼の13時くらいから夜20時過ぎまで延々と“上司に暴言を吐いたんだろう”と聞き取り調査を受けました。任意とはいえ決め打ちのような雰囲気でしたね。なので、私の方からは調査に先立って、被疑事実に対する意見を述べた陳述書を懲戒権者に提出したのですが、これも全く調査の結果には影響をもたらしませんでした。結局、処分説明書をみても言った、言わないの問題だけで、そこに至るまでの過程に関しては、加味された様子が全くありません」
彼女の認識はこうだ。
「当時の上司であるA1等海曹に強い口調で意見したのは事実ですが、それは彼が女性自衛官の官舎から出たゴミを漁っているのを目撃し、見とがめたということもあります。またC3佐にしても、本来パスワードをかけて送らないといけない個人情報ファイルをそのまま送信してしまうことがあり、それに対してなぜパスをかけないのかと強く指摘したことは確かにありました。しかし、こうした行動をとる上司を注意するのは、それほどにおかしいことでしょうか」
また上司の病歴を揶揄してパワハラ認定を受けたケースでは、こんな事情があったと訴えるのだ。
「この上司は幹部自衛官ではありますが、私と同期で以前からLINEのやり取りをする関係でした。彼女からのメッセージには“(適応障害の)診断をもらえれば、異動も早急にやってもらえるかもという戦略でもあります”と書かれていたこともあって、勤務先を替えたいがための詐病だろうと考えていました。こうした彼女の態度をとがめて言ったことを、その発言に至るまでの事情を加味せず被疑事実とするのは、本当に納得がいきません」
彼女から指摘があった上司らにも、言われるだけの相応の理由があったと主張するのだ。だが、一般企業ならまだしも、これが国を守る組織の実態だとすれば、やはり首をかしげたくなる。
改めて海自にも聞くと、
「個人が特定されかねない情報を基本としているため、お答えは差し控えさせていただきます」(防衛省海上幕僚監部広報室)
そう話すばかり。不服申し立ての結論が出るのはまだ数カ月先といわれるが、自衛隊として組織の立て直しが急務なのは言うまでもない。国を守るべき防波堤がこれほどに脆いと知ってほくそ笑むのは、海の向こうのかの国である。
「週刊新潮」2023年2月16日号 掲載