新型コロナウイルス対策のマスクについて、政府が原則着用を推奨しないとする新たな考え方を決めたことで、3月13日からは「脱マスク」が進むことになる。
ただ、着用の判断は個人に委ねられており、多くの人が集まる現場からは困惑の声も上がる。
■学校
「卒業式はお互いの笑顔を見ながら参加してほしい」。岸田首相は10日、視察先の埼玉県戸田市で記者団にこう述べた。一方で「着脱を無理強いすることがないよう求めたい」とも語り、個人や家庭の判断を重視する必要性を強調した。
政府の基本的対処方針では、児童らは卒業式にマスクを着けずに出席することが基本とされた。ただ、外すことに不安や抵抗を感じる子どももおり、対応を決めかねている学校が多い。
東京都江戸川区の区立小岩第三中の山田人也校長(60)は「3年生は入学後、ずっとマスク生活。卒業式ぐらい外させてあげたいが、色々な考え方の生徒がいる」と話した。着用の有無は式直前に決める予定という。
■交通機関
公共交通機関では、新幹線、高速バス、タクシー、飛行機、船などはマスク着用を推奨しない。一方、基本的対処方針ではマスク着用を推奨する場面に、「混雑した電車やバスの乗車時」が盛り込まれた。
今後、業界団体で乗客へのマスク着用に関する呼びかけ方法などが見直される見込みだが、都営地下鉄を運行する東京都交通局の担当者は「『混雑』の線引きは人によって違う。利用客同士でトラブルが起きないだろうか」と漏らした。
■発育へ影響 懸念
政府が脱マスクにかじを切ったのは、子どもの発育への影響が懸念されていることも理由だ。
千葉県八千代市の私立認可保育園「勝田保育園」の丸山純園長(55)は、マスクで顔の見分けがつかず、人見知りしない子どもが増えたと感じていたといい、「子どもたちには鼻や口元も見て、人の表情や感情を学んでほしい」と歓迎した。
東京歯科大の寺嶋毅教授(呼吸器内科)は「着用が推奨される場面以外でも、重症化リスクの高い高齢者らを守るため、着用した方がいいケースがある。政府は個人の判断に任せるだけでなく、国民に弱者を守る視点を持って行動してほしいとのメッセージを強く発するべきだ」と話す。
■病院・高齢者施設「厳格対策継続を」…第8波 死者9割が70歳以上
「社会全体が脱マスクの流れになれば、感染リスクは高まる。重症化しやすい人が集まる病院や高齢者施設では、厳格な感染対策を続けていかねばならない」。政府のマスク緩和策発表を受け、高齢者医療・介護に詳しい日本慢性期医療協会の橋本康子会長は語る。
今冬の第8波では感染者が激増し、昨年12月以降の2か月余りで約2万人が死亡した。そのうち9割が70歳以上の高齢者だ。
高齢者の命を守る対策が欠かせないため、政府は、〈1〉医療機関の受診時〈2〉医療機関や高齢者施設の訪問時――などはマスク着用を推奨。流行期に重症化リスクが高い人が混雑した場所に行くときは「着用が効果的」との見解も示した。
マスクの効果については、厚生労働省の助言機関の主要メンバーらが78件の研究を解析。着用者は非着用者よりも1週間当たりの感染リスクが0・84倍に抑えられ、2週間だとさらに0・76倍まで低下するとしている。