世間では「バレンタインブームは終わった」などといわれるようになって久しいが、結局は正月がすぎれば街はバレンタインモードに切り替わる。もちろん、チョコをあげなければいけない“義務”など存在しないが、実際に「わずらわしい」と感じている人も少なくない。今回は、職場の義理チョコがきっかけで「地獄を見た」という2人のエピソードを紹介する。◆義理チョコが盛り上がる「パリピっぽい」職場 「もうバレンタインをなくしてほしい! せめて会社とかだけでも!」
杉浦薫さん(31歳・仮名)は、彼女とバレンタインでギクシャクしてしまったようだ。杉浦さんはIT系の会社に勤めているが、社風が「ちょっとパリピっぽい感じ」だと苦笑する。 「みんな陽キャ(陽気なキャラクター)が多いし、社長も俺より少し年上ぐらいでノリが大学のサークルみたいな人ですね」 社員の誕生日はみんなでお祝い。新年会に忘年会、クリスマス会まであるという。 「なんでもかんでもイベントにする(笑)。でもおかげでみんな仲が良いからけっこう気に入ってます。もちろん、バレンタインもイベントのひとつです。さすがに飲み会はしませんが、女性社員は当たり前にチョコをくれます」
◆彼女の機嫌が直らない だが、たくさんのバレンタインチョコを貰い、半同棲状態の彼女に「一緒に食べよう」と声をかけたところ、予想外の反応をされてしまった。 「彼女は甘いものが好きだし、色々な種類があるから一緒に食べ比べしたかったんですが、『無神経!』と怒られてしまいました」 女性社員にもらったチョコの中には、彼女が用意していたメーカーと丸かぶりなものがあったのだ。 「人気のチョコのメーカーなんで、しょうがないっていったらしょうがないんですけど。そもそも会社の子から貰ったチョコは当然、“義理”です。彼女のは本命チョコじゃないですか。だから、そんなに気にしないでほしかったんですけど」 その後も彼女の機嫌は直らず、ホワイトデーを迎えてしまう。
◆「もうバレンタインはコリゴリです」
杉浦さんはお返しに彼女の好きなコスメブランドで欲しがっていた化粧品一式をプレゼントした。しかし、彼女の機嫌は悪くなる一方だった。 「絶対に喜ぶであろうものをあげたのに『うん……』といった反応。もしかして被っちゃってた(すでに持っている)のかと聞いたら、首を横に振られて。いったい、何が気に入らないのか聞いたら“値段”だというんです」 杉浦さんが購入していた義理チョコ用のホワイトデーのお返しにかかった金額の総額より、彼女にあげた化粧品一式の値段が3000円ほど安く、そこに腹をたててしまったそうだ。 「一緒に買いに行ったわけでもないのにラッピングでだいたいの値段を計算したんでしょう。いやだって、義理チョコ10個ですよ? もらったものよりは多少高いものをあげないといけないから、それなりの値段になっちゃう。彼女にあげた化粧品一式なんて、貰ったバレンタインチョコの6倍くらいしたんだから怒られる筋合いないのに」 杉浦さんは「もうバレンタインはコリゴリです」と繰り返していた。
夏川さんの部署は20代~40代の女性がいるそうで、多岐にわたったラインナップのチョコが貰えたという。 「誰もが知ってるゴディバもあれば、某テーマパークの人気チョコ、手作りはなかったけど、色々な小分けチョコをラッピングしたものとか。モテた気分になりました」
そしてホワイトデーになり、デパートの地下で1つ1500円のキャンディのセットを購入した。 「キャラクターもので可愛かったし、下手に凝ったお菓子よりもキャンディが無難と思ったんです。それで、お返しに差があってはいけないと思い、全員同じものにしました」
◆謎の“お返し”ルールに困惑 夏川さんがキャンディを渡すと女性陣は失笑。“お局”と呼ばれる40代の女性は小声で「非常識な子」とつぶやいた。 「聞こえないふりをしていたけど、バッチリ聞こえていました。お局に嫌われたらマズいなと思って同期を呼び出して話を聞いてみると『お返しは高いものをあげるのが常識だよ』って。ほかの男性社員にお返しの内容を聞いたら、高い入浴剤とクッキーとか、ハンドクリームセットとか、スタバカード3000円なんて人もいました。まさか、そこまでいいものをあげていると思わなかったので、ただただビックリしました」 同期の女の子に「来年のお返しは期待してるね」といわれ、さらに「こういうの喜ぶよ」と高級な美容パックを教えられたそうだ。 「いやぁ~、もうドン引きです。そこまで給料もないのに貰った以上のお返しが必須で、さらに『〇〇さんは豪華だった』なんて品定めされるなんて。今まで彼女や親からしか貰ったことなかったし、お返しに文句をつけられたことなんてなかったので。義理チョコは、純粋に喜べるものではないと知りました」
◆次のバレンタインは「ナシで結構です」 夏川さんは次のバレンタインを考えるだけで頭が痛いという。 「空気読めないっていわれても構わないから、先に『僕はバレンタインはナシで結構です』って断ろうかなって。豪華なお返しが目当てなら、本当に貰いたくない。僕みたいな人は多いと思いますよ」 職場において、義理チョコを男性が「いる」「いらない」と先に意思表示できるシステムになったら、意外と「いらない」派が多いのかもしれない。
実際にマーケティングリサーチ会社「インテージ」が、全国の15歳から79歳の男女(2633人)を対象に「バレンタイン事情」にかんしてインターネット上で行った調査結果を2月8日に発表した。
そのなかで職場の義理チョコについて、有職者の女性82.8%が「参加したくない」と答えたのだとか。一方、男性も61.4%が「うれしくない」と回答するなど、もはや、「このイベントやる意味ある?」状態かもしれないが、各年代のなかで20代の男性のみ「うれしい」が「うれしくない」を上回り、66.3%という結果だった。
<取材・文/吉沢さりぃ>