毎月の光熱費の請求書に戦々恐々とする日が続いている。全国的に例年以上の寒い冬を迎えているうえに、電気代やガス代の高騰で見たことがないほどの高額な請求額に言葉を失った人も多いだろう。
【画像】巨大な水槽の水温を保つには多くのエネルギーが必要 生活に欠かせない電気とガスの値上げは一般家庭にとっても大打撃だが、常にお湯を沸かし続ける銭湯は最も影響を受けた業種の1つだ。「昨年12月のガス代は70万円、1年前の12月は45万円だったので約1.5倍になっています。さまざまな対策を講じてはいるのですが、ガスと電気の値上がりがそれを上回っています。まだギリギリ黒字で営業できていますが、何も対策を打っていなかったらと思うとぞっとしますね」

ため息をつきながらこう語るのは、東京新宿区にある三の輪湯の店主・渡辺俊一郎さんだ。昭和7年の創業以来、地元の人々に愛されてきた老舗銭湯も、昨今のガス代の高騰に苦しめられているのだ。新宿区にある三の輪湯。創業90年の老舗だ「そりゃ、200万にもなるよな」 ロシアのウクライナ侵攻という日本のいち企業にはどうしようもない問題でガスや電気といった光熱費が高騰し、昨年12月も大手ガス会社各社が値上げを発表。東京墨田区の大黒湯が「営業努力ではどうしようもない」とSNSに投稿した200万円近いガス代の請求書も話題になった。「大黒湯さんは1日20時間ほど営業していて、営業終了後もボイラーを動かし続けているそうです。『そりゃ、200万にもなるよな』と同業者の集まりで話題になりました。ただ、ガス代の高騰が響いているのはどこも同じで、経営が厳しいのが現状です。このままだと店をたたむところも出てきて、ただでさえ少なくなっている銭湯が減ってしまうのではないかと心配しています」(渡辺さん) 終わりが見えない光熱費の高騰。身を削る思いでコストの削減に腐心する現状を取材した。 ◆◆◆ 三の輪湯の渡辺さんがガス代が気になり始めたのは昨年の5月頃だという。「ガス代が高いな、と感じ始めたのは昨年の春すぎですね。夏はお風呂の温度を少し下げるので自然に対応できたのですが、冬からは値上げが直撃しました。脱衣所の暖房の電気代や、お湯を沸かすボイラーの燃料代が必要になるからです。お湯の温度を43.5度から42.5度に1度下げたりもしましたが、焼け石に水でした。お客さんからも『ぬるくなった?』と言われてしまうこともあり心苦しかったです」(同前)飲食店などと違って値上げが簡単にできない? 銭湯の苦境の理由の1つは、飲食店などと違い値上げが簡単にできないことだ。銭湯の入浴料金は自治体によって決められており、東京都では500円。昨今のサウナブームで銭湯の来客数は増えているが、ガス代の値上がり分を補うにはとても足りていない。「入浴料金の値上げができない代わりに、貸しタオルやカミソリ、ジュースの販売価格を値上げすることで補っています。うちはサウナ代を10円だけ上げたのですが、他の銭湯では200円値上げたとか、サウナだけで1000円取るところもあります。でもそうでもしないと経営が成り立たないんです」 備品等の値上げ以外にも、空調の温度を調節したりボイラーを切る時間を少しでも早めたり、と細かい努力を続けてなんとかしのいでいる、と渡辺さんは表情を曇らせる。 銭湯の経営で最もコストがかかるのは、やはりお風呂を沸かすボイラーのガス代で、サウナに使う燃料の比ではない。「湯船に入ってザブーンと湯があふれたりするのは、銭湯の醍醐味でもあるので全然気にしていません。困るのは、お風呂の温度を調節するための冷たい水を出しっぱなしにする人です。もちろんぬるめが好きな方もいるので使ってもらうのはいいのですが、自分がお風呂から上がる時に止めず、出しっぱなしにする人がいるんです。冷たい水を入れつづけながら、お湯の温度を保つためにボイラーを何時間もフル稼働する……という状況が一番厳しい。貼り紙で注意喚起はしているのですが、全員が見てくれるわけではないですからね」(同前) 創業90年の老舗であるがゆえに、設備の老朽化も進んでいる。クーラーの修理や床の張替えなど、ただでさえ多くの費用が必要なところへ降りかかった光熱費の高騰に渡辺さんは頭を抱えていた。 もちろん、シビアな水温コントロールを要求されるのは銭湯だけではない。水温が生き物の命に直接かかわる水族館もその1つ。池袋にあるサンシャイン水族館は、海水・飼料価格と光熱費の高騰を理由に3月から入場料を値上げすると発表している。サンシャイン水族館の二見武史部長はその決断の背景をこう語る。「水族館は命を扱っているので質を落とすわけにはいきません」「電気代の値上げがあった昨年11月頃から当館も光熱費の負担は感じていました。しかし展示の質はもちろん、命を扱っているので飼育の質を落とすわけにはいきません。そのため、節電できるところとできないところを区別して考える必要がありました。 飼育の機器や展示の照明を切ることはできませんが、バックヤードの一部の照明を暗くしたり、水槽の温度を生物に影響がない程度で調節することはしています。普段は25度に維持している水槽で、21度くらいまでは影響がないと思われても余裕を持って23度までの下げ幅にとどめる、といった細かい調整をしています」(同前) ただし魚の種類によっては水温が適温から少しでもずれると大きな影響が出てしまうものもあり、調節できる生物と調節できない生物、それぞれを見極めた対策をしているという。「具体的には、イワシの水槽はこれまで20度だったものを今は18度で運用しています。しかしイカなどの1年程度の寿命しかない生物は、環境の変化に敏感なので設定を維持しています。生物にとっては温度の変化は季節の移り変わりを意味するので、温度の変化を時間の経過と勘違いして寿命が短くなってしまうんです」 とはいえサンシャイン水族館にとっても今回ほどの光熱費の高騰ははじめてで、取り組みを始めてから2~3カ月が経った今もまだ試行錯誤の途中だという。電力各社は4月以降にさらなる値上げを予定しているが、サンシャイン水族館は様子を見ながら今後の対策を考えていく予定だという。「今回の光熱費の高騰は、今まで当たり前だった体制をもう一度見直すきっかけになっています。水槽の温度設定も、前例を踏襲して25度なら25度で運用してきたのですが、生き物にとって本当に適切な水温は何度か、環境の変化がどんな影響があるのかということを考えるきっかけになりました。飼育というものにもう一度向き合うきっかけとして、前向きにとらえようと思います」(同前)「これ以上ガス代が高騰したら本当に経営が…」 高騰を続ける光熱費が国民の大きな負担になっていることを受けて、1月からは電気代、ガス代の負担軽減策「電気・ガス価格激変緩和対策事業」が始まっている。ガスや電気の小売業者を支援して、家庭への請求額を押さえる狙いだ。三の輪湯の渡辺さんはその効果に期待せざるを得ないと語った。「値下がりすると期待しています。というより、値下がりしてくれないと困ります。これ以上ガス代が値上がりしたら本当に経営が立ち行かなくなるかもしれません。お風呂を楽しみに通ってくれているお客さんのためにも、備品やタオルの値上げはこれ以上したくないんです」 世界の軍事情勢によって、日本のお風呂や水族館をはじめ多くの業種、家庭に影響が広がっている。この値上げ騒動はいったいいつまで続くのだろうか――。(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
生活に欠かせない電気とガスの値上げは一般家庭にとっても大打撃だが、常にお湯を沸かし続ける銭湯は最も影響を受けた業種の1つだ。
「昨年12月のガス代は70万円、1年前の12月は45万円だったので約1.5倍になっています。さまざまな対策を講じてはいるのですが、ガスと電気の値上がりがそれを上回っています。まだギリギリ黒字で営業できていますが、何も対策を打っていなかったらと思うとぞっとしますね」
ため息をつきながらこう語るのは、東京新宿区にある三の輪湯の店主・渡辺俊一郎さんだ。昭和7年の創業以来、地元の人々に愛されてきた老舗銭湯も、昨今のガス代の高騰に苦しめられているのだ。
新宿区にある三の輪湯。創業90年の老舗だ
ロシアのウクライナ侵攻という日本のいち企業にはどうしようもない問題でガスや電気といった光熱費が高騰し、昨年12月も大手ガス会社各社が値上げを発表。東京墨田区の大黒湯が「営業努力ではどうしようもない」とSNSに投稿した200万円近いガス代の請求書も話題になった。
「大黒湯さんは1日20時間ほど営業していて、営業終了後もボイラーを動かし続けているそうです。『そりゃ、200万にもなるよな』と同業者の集まりで話題になりました。ただ、ガス代の高騰が響いているのはどこも同じで、経営が厳しいのが現状です。このままだと店をたたむところも出てきて、ただでさえ少なくなっている銭湯が減ってしまうのではないかと心配しています」(渡辺さん)
終わりが見えない光熱費の高騰。身を削る思いでコストの削減に腐心する現状を取材した。
◆◆◆ 三の輪湯の渡辺さんがガス代が気になり始めたのは昨年の5月頃だという。「ガス代が高いな、と感じ始めたのは昨年の春すぎですね。夏はお風呂の温度を少し下げるので自然に対応できたのですが、冬からは値上げが直撃しました。脱衣所の暖房の電気代や、お湯を沸かすボイラーの燃料代が必要になるからです。お湯の温度を43.5度から42.5度に1度下げたりもしましたが、焼け石に水でした。お客さんからも『ぬるくなった?』と言われてしまうこともあり心苦しかったです」(同前)飲食店などと違って値上げが簡単にできない? 銭湯の苦境の理由の1つは、飲食店などと違い値上げが簡単にできないことだ。銭湯の入浴料金は自治体によって決められており、東京都では500円。昨今のサウナブームで銭湯の来客数は増えているが、ガス代の値上がり分を補うにはとても足りていない。「入浴料金の値上げができない代わりに、貸しタオルやカミソリ、ジュースの販売価格を値上げすることで補っています。うちはサウナ代を10円だけ上げたのですが、他の銭湯では200円値上げたとか、サウナだけで1000円取るところもあります。でもそうでもしないと経営が成り立たないんです」 備品等の値上げ以外にも、空調の温度を調節したりボイラーを切る時間を少しでも早めたり、と細かい努力を続けてなんとかしのいでいる、と渡辺さんは表情を曇らせる。 銭湯の経営で最もコストがかかるのは、やはりお風呂を沸かすボイラーのガス代で、サウナに使う燃料の比ではない。「湯船に入ってザブーンと湯があふれたりするのは、銭湯の醍醐味でもあるので全然気にしていません。困るのは、お風呂の温度を調節するための冷たい水を出しっぱなしにする人です。もちろんぬるめが好きな方もいるので使ってもらうのはいいのですが、自分がお風呂から上がる時に止めず、出しっぱなしにする人がいるんです。冷たい水を入れつづけながら、お湯の温度を保つためにボイラーを何時間もフル稼働する……という状況が一番厳しい。貼り紙で注意喚起はしているのですが、全員が見てくれるわけではないですからね」(同前) 創業90年の老舗であるがゆえに、設備の老朽化も進んでいる。クーラーの修理や床の張替えなど、ただでさえ多くの費用が必要なところへ降りかかった光熱費の高騰に渡辺さんは頭を抱えていた。 もちろん、シビアな水温コントロールを要求されるのは銭湯だけではない。水温が生き物の命に直接かかわる水族館もその1つ。池袋にあるサンシャイン水族館は、海水・飼料価格と光熱費の高騰を理由に3月から入場料を値上げすると発表している。サンシャイン水族館の二見武史部長はその決断の背景をこう語る。「水族館は命を扱っているので質を落とすわけにはいきません」「電気代の値上げがあった昨年11月頃から当館も光熱費の負担は感じていました。しかし展示の質はもちろん、命を扱っているので飼育の質を落とすわけにはいきません。そのため、節電できるところとできないところを区別して考える必要がありました。 飼育の機器や展示の照明を切ることはできませんが、バックヤードの一部の照明を暗くしたり、水槽の温度を生物に影響がない程度で調節することはしています。普段は25度に維持している水槽で、21度くらいまでは影響がないと思われても余裕を持って23度までの下げ幅にとどめる、といった細かい調整をしています」(同前) ただし魚の種類によっては水温が適温から少しでもずれると大きな影響が出てしまうものもあり、調節できる生物と調節できない生物、それぞれを見極めた対策をしているという。「具体的には、イワシの水槽はこれまで20度だったものを今は18度で運用しています。しかしイカなどの1年程度の寿命しかない生物は、環境の変化に敏感なので設定を維持しています。生物にとっては温度の変化は季節の移り変わりを意味するので、温度の変化を時間の経過と勘違いして寿命が短くなってしまうんです」 とはいえサンシャイン水族館にとっても今回ほどの光熱費の高騰ははじめてで、取り組みを始めてから2~3カ月が経った今もまだ試行錯誤の途中だという。電力各社は4月以降にさらなる値上げを予定しているが、サンシャイン水族館は様子を見ながら今後の対策を考えていく予定だという。「今回の光熱費の高騰は、今まで当たり前だった体制をもう一度見直すきっかけになっています。水槽の温度設定も、前例を踏襲して25度なら25度で運用してきたのですが、生き物にとって本当に適切な水温は何度か、環境の変化がどんな影響があるのかということを考えるきっかけになりました。飼育というものにもう一度向き合うきっかけとして、前向きにとらえようと思います」(同前)「これ以上ガス代が高騰したら本当に経営が…」 高騰を続ける光熱費が国民の大きな負担になっていることを受けて、1月からは電気代、ガス代の負担軽減策「電気・ガス価格激変緩和対策事業」が始まっている。ガスや電気の小売業者を支援して、家庭への請求額を押さえる狙いだ。三の輪湯の渡辺さんはその効果に期待せざるを得ないと語った。「値下がりすると期待しています。というより、値下がりしてくれないと困ります。これ以上ガス代が値上がりしたら本当に経営が立ち行かなくなるかもしれません。お風呂を楽しみに通ってくれているお客さんのためにも、備品やタオルの値上げはこれ以上したくないんです」 世界の軍事情勢によって、日本のお風呂や水族館をはじめ多くの業種、家庭に影響が広がっている。この値上げ騒動はいったいいつまで続くのだろうか――。(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
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三の輪湯の渡辺さんがガス代が気になり始めたのは昨年の5月頃だという。
「ガス代が高いな、と感じ始めたのは昨年の春すぎですね。夏はお風呂の温度を少し下げるので自然に対応できたのですが、冬からは値上げが直撃しました。脱衣所の暖房の電気代や、お湯を沸かすボイラーの燃料代が必要になるからです。お湯の温度を43.5度から42.5度に1度下げたりもしましたが、焼け石に水でした。お客さんからも『ぬるくなった?』と言われてしまうこともあり心苦しかったです」(同前)
銭湯の苦境の理由の1つは、飲食店などと違い値上げが簡単にできないことだ。銭湯の入浴料金は自治体によって決められており、東京都では500円。昨今のサウナブームで銭湯の来客数は増えているが、ガス代の値上がり分を補うにはとても足りていない。
「入浴料金の値上げができない代わりに、貸しタオルやカミソリ、ジュースの販売価格を値上げすることで補っています。うちはサウナ代を10円だけ上げたのですが、他の銭湯では200円値上げたとか、サウナだけで1000円取るところもあります。でもそうでもしないと経営が成り立たないんです」
備品等の値上げ以外にも、空調の温度を調節したりボイラーを切る時間を少しでも早めたり、と細かい努力を続けてなんとかしのいでいる、と渡辺さんは表情を曇らせる。 銭湯の経営で最もコストがかかるのは、やはりお風呂を沸かすボイラーのガス代で、サウナに使う燃料の比ではない。「湯船に入ってザブーンと湯があふれたりするのは、銭湯の醍醐味でもあるので全然気にしていません。困るのは、お風呂の温度を調節するための冷たい水を出しっぱなしにする人です。もちろんぬるめが好きな方もいるので使ってもらうのはいいのですが、自分がお風呂から上がる時に止めず、出しっぱなしにする人がいるんです。冷たい水を入れつづけながら、お湯の温度を保つためにボイラーを何時間もフル稼働する……という状況が一番厳しい。貼り紙で注意喚起はしているのですが、全員が見てくれるわけではないですからね」(同前) 創業90年の老舗であるがゆえに、設備の老朽化も進んでいる。クーラーの修理や床の張替えなど、ただでさえ多くの費用が必要なところへ降りかかった光熱費の高騰に渡辺さんは頭を抱えていた。 もちろん、シビアな水温コントロールを要求されるのは銭湯だけではない。水温が生き物の命に直接かかわる水族館もその1つ。池袋にあるサンシャイン水族館は、海水・飼料価格と光熱費の高騰を理由に3月から入場料を値上げすると発表している。サンシャイン水族館の二見武史部長はその決断の背景をこう語る。「水族館は命を扱っているので質を落とすわけにはいきません」「電気代の値上げがあった昨年11月頃から当館も光熱費の負担は感じていました。しかし展示の質はもちろん、命を扱っているので飼育の質を落とすわけにはいきません。そのため、節電できるところとできないところを区別して考える必要がありました。 飼育の機器や展示の照明を切ることはできませんが、バックヤードの一部の照明を暗くしたり、水槽の温度を生物に影響がない程度で調節することはしています。普段は25度に維持している水槽で、21度くらいまでは影響がないと思われても余裕を持って23度までの下げ幅にとどめる、といった細かい調整をしています」(同前) ただし魚の種類によっては水温が適温から少しでもずれると大きな影響が出てしまうものもあり、調節できる生物と調節できない生物、それぞれを見極めた対策をしているという。「具体的には、イワシの水槽はこれまで20度だったものを今は18度で運用しています。しかしイカなどの1年程度の寿命しかない生物は、環境の変化に敏感なので設定を維持しています。生物にとっては温度の変化は季節の移り変わりを意味するので、温度の変化を時間の経過と勘違いして寿命が短くなってしまうんです」 とはいえサンシャイン水族館にとっても今回ほどの光熱費の高騰ははじめてで、取り組みを始めてから2~3カ月が経った今もまだ試行錯誤の途中だという。電力各社は4月以降にさらなる値上げを予定しているが、サンシャイン水族館は様子を見ながら今後の対策を考えていく予定だという。「今回の光熱費の高騰は、今まで当たり前だった体制をもう一度見直すきっかけになっています。水槽の温度設定も、前例を踏襲して25度なら25度で運用してきたのですが、生き物にとって本当に適切な水温は何度か、環境の変化がどんな影響があるのかということを考えるきっかけになりました。飼育というものにもう一度向き合うきっかけとして、前向きにとらえようと思います」(同前)「これ以上ガス代が高騰したら本当に経営が…」 高騰を続ける光熱費が国民の大きな負担になっていることを受けて、1月からは電気代、ガス代の負担軽減策「電気・ガス価格激変緩和対策事業」が始まっている。ガスや電気の小売業者を支援して、家庭への請求額を押さえる狙いだ。三の輪湯の渡辺さんはその効果に期待せざるを得ないと語った。「値下がりすると期待しています。というより、値下がりしてくれないと困ります。これ以上ガス代が値上がりしたら本当に経営が立ち行かなくなるかもしれません。お風呂を楽しみに通ってくれているお客さんのためにも、備品やタオルの値上げはこれ以上したくないんです」 世界の軍事情勢によって、日本のお風呂や水族館をはじめ多くの業種、家庭に影響が広がっている。この値上げ騒動はいったいいつまで続くのだろうか――。(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
備品等の値上げ以外にも、空調の温度を調節したりボイラーを切る時間を少しでも早めたり、と細かい努力を続けてなんとかしのいでいる、と渡辺さんは表情を曇らせる。
銭湯の経営で最もコストがかかるのは、やはりお風呂を沸かすボイラーのガス代で、サウナに使う燃料の比ではない。
「湯船に入ってザブーンと湯があふれたりするのは、銭湯の醍醐味でもあるので全然気にしていません。困るのは、お風呂の温度を調節するための冷たい水を出しっぱなしにする人です。もちろんぬるめが好きな方もいるので使ってもらうのはいいのですが、自分がお風呂から上がる時に止めず、出しっぱなしにする人がいるんです。冷たい水を入れつづけながら、お湯の温度を保つためにボイラーを何時間もフル稼働する……という状況が一番厳しい。貼り紙で注意喚起はしているのですが、全員が見てくれるわけではないですからね」(同前)
創業90年の老舗であるがゆえに、設備の老朽化も進んでいる。クーラーの修理や床の張替えなど、ただでさえ多くの費用が必要なところへ降りかかった光熱費の高騰に渡辺さんは頭を抱えていた。 もちろん、シビアな水温コントロールを要求されるのは銭湯だけではない。水温が生き物の命に直接かかわる水族館もその1つ。池袋にあるサンシャイン水族館は、海水・飼料価格と光熱費の高騰を理由に3月から入場料を値上げすると発表している。サンシャイン水族館の二見武史部長はその決断の背景をこう語る。「水族館は命を扱っているので質を落とすわけにはいきません」「電気代の値上げがあった昨年11月頃から当館も光熱費の負担は感じていました。しかし展示の質はもちろん、命を扱っているので飼育の質を落とすわけにはいきません。そのため、節電できるところとできないところを区別して考える必要がありました。 飼育の機器や展示の照明を切ることはできませんが、バックヤードの一部の照明を暗くしたり、水槽の温度を生物に影響がない程度で調節することはしています。普段は25度に維持している水槽で、21度くらいまでは影響がないと思われても余裕を持って23度までの下げ幅にとどめる、といった細かい調整をしています」(同前) ただし魚の種類によっては水温が適温から少しでもずれると大きな影響が出てしまうものもあり、調節できる生物と調節できない生物、それぞれを見極めた対策をしているという。「具体的には、イワシの水槽はこれまで20度だったものを今は18度で運用しています。しかしイカなどの1年程度の寿命しかない生物は、環境の変化に敏感なので設定を維持しています。生物にとっては温度の変化は季節の移り変わりを意味するので、温度の変化を時間の経過と勘違いして寿命が短くなってしまうんです」 とはいえサンシャイン水族館にとっても今回ほどの光熱費の高騰ははじめてで、取り組みを始めてから2~3カ月が経った今もまだ試行錯誤の途中だという。電力各社は4月以降にさらなる値上げを予定しているが、サンシャイン水族館は様子を見ながら今後の対策を考えていく予定だという。「今回の光熱費の高騰は、今まで当たり前だった体制をもう一度見直すきっかけになっています。水槽の温度設定も、前例を踏襲して25度なら25度で運用してきたのですが、生き物にとって本当に適切な水温は何度か、環境の変化がどんな影響があるのかということを考えるきっかけになりました。飼育というものにもう一度向き合うきっかけとして、前向きにとらえようと思います」(同前)「これ以上ガス代が高騰したら本当に経営が…」 高騰を続ける光熱費が国民の大きな負担になっていることを受けて、1月からは電気代、ガス代の負担軽減策「電気・ガス価格激変緩和対策事業」が始まっている。ガスや電気の小売業者を支援して、家庭への請求額を押さえる狙いだ。三の輪湯の渡辺さんはその効果に期待せざるを得ないと語った。「値下がりすると期待しています。というより、値下がりしてくれないと困ります。これ以上ガス代が値上がりしたら本当に経営が立ち行かなくなるかもしれません。お風呂を楽しみに通ってくれているお客さんのためにも、備品やタオルの値上げはこれ以上したくないんです」 世界の軍事情勢によって、日本のお風呂や水族館をはじめ多くの業種、家庭に影響が広がっている。この値上げ騒動はいったいいつまで続くのだろうか――。(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
創業90年の老舗であるがゆえに、設備の老朽化も進んでいる。クーラーの修理や床の張替えなど、ただでさえ多くの費用が必要なところへ降りかかった光熱費の高騰に渡辺さんは頭を抱えていた。
もちろん、シビアな水温コントロールを要求されるのは銭湯だけではない。水温が生き物の命に直接かかわる水族館もその1つ。池袋にあるサンシャイン水族館は、海水・飼料価格と光熱費の高騰を理由に3月から入場料を値上げすると発表している。サンシャイン水族館の二見武史部長はその決断の背景をこう語る。
「水族館は命を扱っているので質を落とすわけにはいきません」「電気代の値上げがあった昨年11月頃から当館も光熱費の負担は感じていました。しかし展示の質はもちろん、命を扱っているので飼育の質を落とすわけにはいきません。そのため、節電できるところとできないところを区別して考える必要がありました。 飼育の機器や展示の照明を切ることはできませんが、バックヤードの一部の照明を暗くしたり、水槽の温度を生物に影響がない程度で調節することはしています。普段は25度に維持している水槽で、21度くらいまでは影響がないと思われても余裕を持って23度までの下げ幅にとどめる、といった細かい調整をしています」(同前) ただし魚の種類によっては水温が適温から少しでもずれると大きな影響が出てしまうものもあり、調節できる生物と調節できない生物、それぞれを見極めた対策をしているという。「具体的には、イワシの水槽はこれまで20度だったものを今は18度で運用しています。しかしイカなどの1年程度の寿命しかない生物は、環境の変化に敏感なので設定を維持しています。生物にとっては温度の変化は季節の移り変わりを意味するので、温度の変化を時間の経過と勘違いして寿命が短くなってしまうんです」 とはいえサンシャイン水族館にとっても今回ほどの光熱費の高騰ははじめてで、取り組みを始めてから2~3カ月が経った今もまだ試行錯誤の途中だという。電力各社は4月以降にさらなる値上げを予定しているが、サンシャイン水族館は様子を見ながら今後の対策を考えていく予定だという。「今回の光熱費の高騰は、今まで当たり前だった体制をもう一度見直すきっかけになっています。水槽の温度設定も、前例を踏襲して25度なら25度で運用してきたのですが、生き物にとって本当に適切な水温は何度か、環境の変化がどんな影響があるのかということを考えるきっかけになりました。飼育というものにもう一度向き合うきっかけとして、前向きにとらえようと思います」(同前)「これ以上ガス代が高騰したら本当に経営が…」 高騰を続ける光熱費が国民の大きな負担になっていることを受けて、1月からは電気代、ガス代の負担軽減策「電気・ガス価格激変緩和対策事業」が始まっている。ガスや電気の小売業者を支援して、家庭への請求額を押さえる狙いだ。三の輪湯の渡辺さんはその効果に期待せざるを得ないと語った。「値下がりすると期待しています。というより、値下がりしてくれないと困ります。これ以上ガス代が値上がりしたら本当に経営が立ち行かなくなるかもしれません。お風呂を楽しみに通ってくれているお客さんのためにも、備品やタオルの値上げはこれ以上したくないんです」 世界の軍事情勢によって、日本のお風呂や水族館をはじめ多くの業種、家庭に影響が広がっている。この値上げ騒動はいったいいつまで続くのだろうか――。(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
「電気代の値上げがあった昨年11月頃から当館も光熱費の負担は感じていました。しかし展示の質はもちろん、命を扱っているので飼育の質を落とすわけにはいきません。そのため、節電できるところとできないところを区別して考える必要がありました。
飼育の機器や展示の照明を切ることはできませんが、バックヤードの一部の照明を暗くしたり、水槽の温度を生物に影響がない程度で調節することはしています。普段は25度に維持している水槽で、21度くらいまでは影響がないと思われても余裕を持って23度までの下げ幅にとどめる、といった細かい調整をしています」(同前)
ただし魚の種類によっては水温が適温から少しでもずれると大きな影響が出てしまうものもあり、調節できる生物と調節できない生物、それぞれを見極めた対策をしているという。
「具体的には、イワシの水槽はこれまで20度だったものを今は18度で運用しています。しかしイカなどの1年程度の寿命しかない生物は、環境の変化に敏感なので設定を維持しています。生物にとっては温度の変化は季節の移り変わりを意味するので、温度の変化を時間の経過と勘違いして寿命が短くなってしまうんです」
とはいえサンシャイン水族館にとっても今回ほどの光熱費の高騰ははじめてで、取り組みを始めてから2~3カ月が経った今もまだ試行錯誤の途中だという。電力各社は4月以降にさらなる値上げを予定しているが、サンシャイン水族館は様子を見ながら今後の対策を考えていく予定だという。「今回の光熱費の高騰は、今まで当たり前だった体制をもう一度見直すきっかけになっています。水槽の温度設定も、前例を踏襲して25度なら25度で運用してきたのですが、生き物にとって本当に適切な水温は何度か、環境の変化がどんな影響があるのかということを考えるきっかけになりました。飼育というものにもう一度向き合うきっかけとして、前向きにとらえようと思います」(同前)「これ以上ガス代が高騰したら本当に経営が…」 高騰を続ける光熱費が国民の大きな負担になっていることを受けて、1月からは電気代、ガス代の負担軽減策「電気・ガス価格激変緩和対策事業」が始まっている。ガスや電気の小売業者を支援して、家庭への請求額を押さえる狙いだ。三の輪湯の渡辺さんはその効果に期待せざるを得ないと語った。「値下がりすると期待しています。というより、値下がりしてくれないと困ります。これ以上ガス代が値上がりしたら本当に経営が立ち行かなくなるかもしれません。お風呂を楽しみに通ってくれているお客さんのためにも、備品やタオルの値上げはこれ以上したくないんです」 世界の軍事情勢によって、日本のお風呂や水族館をはじめ多くの業種、家庭に影響が広がっている。この値上げ騒動はいったいいつまで続くのだろうか――。(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
とはいえサンシャイン水族館にとっても今回ほどの光熱費の高騰ははじめてで、取り組みを始めてから2~3カ月が経った今もまだ試行錯誤の途中だという。電力各社は4月以降にさらなる値上げを予定しているが、サンシャイン水族館は様子を見ながら今後の対策を考えていく予定だという。
「今回の光熱費の高騰は、今まで当たり前だった体制をもう一度見直すきっかけになっています。水槽の温度設定も、前例を踏襲して25度なら25度で運用してきたのですが、生き物にとって本当に適切な水温は何度か、環境の変化がどんな影響があるのかということを考えるきっかけになりました。飼育というものにもう一度向き合うきっかけとして、前向きにとらえようと思います」(同前)
高騰を続ける光熱費が国民の大きな負担になっていることを受けて、1月からは電気代、ガス代の負担軽減策「電気・ガス価格激変緩和対策事業」が始まっている。ガスや電気の小売業者を支援して、家庭への請求額を押さえる狙いだ。三の輪湯の渡辺さんはその効果に期待せざるを得ないと語った。
「値下がりすると期待しています。というより、値下がりしてくれないと困ります。これ以上ガス代が値上がりしたら本当に経営が立ち行かなくなるかもしれません。お風呂を楽しみに通ってくれているお客さんのためにも、備品やタオルの値上げはこれ以上したくないんです」 世界の軍事情勢によって、日本のお風呂や水族館をはじめ多くの業種、家庭に影響が広がっている。この値上げ騒動はいったいいつまで続くのだろうか――。(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
「値下がりすると期待しています。というより、値下がりしてくれないと困ります。これ以上ガス代が値上がりしたら本当に経営が立ち行かなくなるかもしれません。お風呂を楽しみに通ってくれているお客さんのためにも、備品やタオルの値上げはこれ以上したくないんです」
世界の軍事情勢によって、日本のお風呂や水族館をはじめ多くの業種、家庭に影響が広がっている。この値上げ騒動はいったいいつまで続くのだろうか――。
(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))